現場ドキュメント: 2008年1月アーカイブ

中途採用は劇的に変化しています。以前は欠員補充的な中途採用が目立ちましたが、昨今は採用目的も複雑なので、場合によっては新卒採用に比べ一層難しくなってきているというのが実感値です。まずはその背景を整理してみましょう。

■中途採用を取り巻く背景

バブル経済崩壊後、多くの企業が組織のスリム化や経営の効率化を実現しようと奮闘してきました。どの環境下にあろうとも、人件費のあり方について見直さない企業などないと思いますが、この時期はとりわけシビアに生き残りをかけて整理したのです。

仕事を業務特性から棚卸して、自社特有性が大きく、競争優位性を生み出すコア業務と、定型的業務とを分け、それぞれをどのような人材で担うべきか、その報酬や評価はどうあるべきかを再構築しました。一方では、必要なときに必要なだけ必要な人材をとの考えの下、派遣社員や業務委託、アウトソーシングを多くの企業が活用し、専門業務においては自社雇用するよりも効果が見込めるなどのベネフィットがあるため定着しています。

そして採用に関して何が起こってきたかと言えば、社員採用を手控え、自社雇用する際には「厳選採用」を敢行し、少数精鋭型組織と移行しました。

結果、企業は収益を上げることに成功しましたが、人材が背負う仕事の負荷は大きくなり、また雇用形態の多様化も相まって、一人ひとりの仕事はより高度になりました。それに伴い企業が人材に求める要望はとても高くなったのです。

そして、迎えた団塊世代の大量流出。2006年から6年間で定年を迎える人口1000万人に対し2006年から6年間で成人する人口は650万人、その人口差は350万人に上ります。

日本の若手就労人口の減少や企業のビジネスサイクル・事業計画の達成のスピードから多くの企業が急激に中途採用にシフトしてくることが予想されます。

現に、今まで新卒採用メインの大手企業が、多職種で大量~少人数の中途採用を始めています。もともと企業が欲している人材は成果を出せる人材であり、そのような人が中途採用市場で顕在転職者として潤沢に存在するはずはなく、企業の都合では優秀な人材確保はできないという実態です。

■中途採用の前提が変化している

採用難を解決するために、性別、年齢、民族や人種、障害の有無など多様な属性の人たちを受け入れ、活用するダイバーシティー採用も当たり前になっていきます。

並行して、労働法は性別・年齢不問となり、賃金制度の改定や休日・休暇制度の拡充も当たり前です。その中で独自の企業競争力を生み出すために、新卒ではなく、職務経験がある中途人材を採用するとはどういうことなのか?
新たな企業成長や変革を担う即戦力として外部から採用するとはどういうことなのか?今後の人材戦略を考える上で、しっかりと認識する必要があります。

当然ながら、企業と同様に採用対象者も、前述したような環境を経て仕事をしてきた人たちだと言うことです。仕事をしていない層にしても、「あっその仕事よさそう」と右から左に簡単には動いてくれません。
"その人独自の経験に基づいた"志向(指向)、求める環境、対価、モチベーションがあります。そして企業として平均的な労働条件(給与・休暇・待遇面での整備)が整っているのは当たり前になっていますから、待遇データでの差別化は難しいでしょう。

フリーターやニートが増加している今の日本の社会現象からも、物質的な豊さを経て今に至ったという点においても、目的や意義の追求が私たちが生きる上で不可欠になってきています。就労条件だけではなく、本人が働く動機付けや意欲を喚起すること、つまりソフト面での「共感」が必要です。

■求める人材を想定した共感の接点づくり

同じ企業でも成長発展段階のどのステージにいるのかによって人材に求める要件も違ってきます。例えば、草創期と第2の創業期と言われる変革期は似ているようですが、違います。

草創期の企業は、トップの強いリーダーシップの下、会社独自のビジネスモデルをはじめ業務の流れや仕組みを一から構築しながら、何事にもスピーディーに対応していける個人や組織が必要です。
個人の役割分担もそれほど明確ではなく、場合によっては役割が入れ替わったり戻ったりします。
平たく言えばトップの意志を分かち、柔軟でかつ速く確実に動ける同志採用となります。

これに対して変革期は、抜本的な変革が求められるとは言え、従来のビジネス構造や仕組みを踏まえた上での「新生期」を作ることになります。自分の提案やアイデアを現実レベルに落としながら、人を巻き込み主体的に物事を推進する力が秀でた人材や、中長期で成果が出るシナリオが描ける力が必要となります。

求める人物像を設定するときに参考にするといいと思います。それから同じ職種でもポジションによってアプローチが変わることは言うまでもありません。メンバークラスとリーダーやマネージャーを採用するのには、本人が知りたい情報や共感の接点を作り出す内容が違いますよね。
また世代観で言えば、今の20代が価値観形成に費やした時代はバブル崩壊後です。かつて経済大国、技術立国であった日本に対してのリアリズムはありません。どちらかと言うと、周囲の大人がリストラされたり、情報は無料でネットなどから仕入れるなどのように、積み上げてきたものや積み上げ方が一瞬にして変わってしまう経験をしてきた人です。新しいモノに対応する力はあるかもしれませんが、皆が皆そうでしょうか?
また現34歳が新卒のころの大卒求人倍率は1.08倍、30歳は0.99倍、29歳は1.09倍ですが、苦労して社会に出た可能性が大きいと一概に言えるでしょうか?
 
どの媒体を使って採用告知するのが有効なのか、メディア特性も踏まえた選定をするとなると・・・。媒体数は10年で約3倍になっているそうですから把握しきれませんよね。どれも曖昧な確率論です。
故に、共感の接点作りくらいは力を抜いてはいけません。他社にはない強みや他社との差別化となるコアコンピタンスは人が生み出すものです。

そのコアコンピタンスは、「どんな人材」ならば日々の仕事に落とし込めるのか、日々の仕事に目的と意味を見出し続けられるのか・・・その企業や事業や風土や人にヒントがありますが、共感があればこそ、その企業で働く自分像を選択できるのです。

株式会社R4 常務取締役 西尾 優美

主要企業の大卒内定者数(08年4月入社予定)は4年連続で増加。
そして、新卒採用競争の激化で内定者数が計画に達していない企業が
全体の1/3強を占めたそうです。新卒採用の過熱ぶりが現場実感値では
想像を絶するものであるのは間違いありません。


その中で、人材としての質レベルはと言うと、
「本当に骨太な学生はいったいどこにいるのだろう」という感覚をほとんどの
企業でお持ちではないでしょうか?
しかも、全体の35%が3年未満で退職してしまう。昨今の採用激化の結果、
企業と学生のミスマッチが招いているという理由でクローズアップされている
この数値は、今に始まったことではなく10年強このくらいで推移しているのです。
なんとも世知辛いですよね。


では、事業実現のための新卒採用の力点をどこにシフトすればよいのか?
「戦略的な採用活動こそが定着率をあげると時間を費やしたが、
そもそも人材の質レベルが変化してきている。
要するに、仕事に対する免疫が昔に比べて低いんだよ。
教育で力をつけるしかない。相談に乗ってくれ」
という類の話も増えています。


●新卒採用が成果を生む理由


それでは、若年層に教育を施せば問題の本質は解決するのか?
というと、そんなに甘いものではありません。
もちろん、何も成さないよりは何かアクションを起こしたほうがいいことは多いでしょうが、
私の伝えたいのは、「本質は繋がっていて、何を本質と捉えるのかが肝だ」
ということなのです。


上記のような苦しい状況下にありながらも、それでも企業は新卒採用をします。
それは「新卒採用を真剣に取り組み始めてから"当社は確実にいい方へ変わった"」
と感じている企業が多いからに他なりません。
なぜでしょう?


第1に"新卒採用は企業側の採用活動への覚悟が違うこと"があげられます。
それは2つの側面から言えると思います。


1つ目は事業存続の意思の側面です。
新卒採用は将来を見据えた事業への覚悟がなければできません。
絶対に会社を潰さない、お客様に価値提供をし、会社を存続し続ける、という
未来への意思表明でもあるのです。


2つ目は、人材に対して向き合う覚悟です。
それは、教育に手間もコストもかかりリスクがあるということではありません。
新卒であるが故、入社を決めてくれた彼らに対しての責任が大変大きいのです。
当然ですが新卒は、まだ自身で仕事をしたことがありません。
やったこともないのに、たった22年かそこらの経験のみで、今流行りの「自分の
やりたいこと=志向・指向はなんだろう」と問われても、本当は多くの学生は
測ることすらできません。


その中で決断し、たったひとつの企業に入社するのです。
新卒ではポテンシャルでしか判断されなかったエンプロイアビリティーも
中途採用となれば違います。
仕事観の醸成は、新卒で受け入れられた企業に良くも悪くも一番影響されるのです。
受け入れた企業の責任は大きいはずです。


●新卒採用のメリット


企業が新卒採用に取り組む上記以外の理由は、新卒採用のメリットとして整理しましょう。
当然ながら彼らが社会に始めて出るからこそのメリットとなります。


1.自社の企業理念や考え方を身につけるのが早い
早さ...吸収力の早さ、浸透の早さから見ると、
即戦力と判断し採用した中途採用人材よりも短時間で戦力になる場合も往々にして見られる。
理念浸透...理念浸透型組織、ひいては理念型経営に寄与する。
これは事業的なメリットが大変大きい。
(逆の発想ですが、新卒採用を素材として自社の企業理念を再度考えて
作ったり判断基準や方針を浸透させたり、組織運営のヒントにしたりし、
一層の団結力や風土や企業力形成に寄与させている会社もあります。)


2.職場を活性化させる
既存社員が当たり前だと思っていたことに疑問を持ち尋ねてくる。
このことで職場が活性化し、既存社員が今一度自社の判断基準に立ち返り、
教えることで、既存社員も一緒に育っていく。
また、人材への向き合い方や育てるとはどういうことかといった文化継承ができる。


3.新しい発想や価値提供するための活動ができる
日々の業務の責任や目標(狭義での)が組織上小さいために、
ひたむきに純粋に顧客やマーケットを思って行動してくれる。
その結果、新しい事業やサービスが創造できる。
新規事業組織の実働部隊が新人ばかりなのに成果を出している例は多々あります。


4.一度に労働市場に出てくるので企業側としては効率よく自社の事業の
  特徴やらしさを伝えられます。
飾ってあるだけの企業理念や、頭で描いているだけの
事業優位性では企業経営が成立しません。
自社の事業活動の本質を理解してくれている人たちが
情熱を込めて運営して始めて、事業が実現するのです。


先日、OBT代表の及川とある企業に同行した際に、
「自社の社員同士、自社と取引先の関係性が、"健全で強固な帰属意識"で
結ばれている会社が伸びる。その関係性は損得や、契約関係ではないものだ。」
と伝えておりました。
そのような帰属意識で結ばれた関係性は、まさに採用活動から始まっていると思います。


株式会社R4 常務取締役 西尾 優美

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