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NKSJシステムズ株式会社
開発第二本部
満期・証券グループ
主任システムズ・エンジニア
有賀 千恵美さん
"育つ人と育たない人"の差は何なのか?OBT協会では、人が成長するのは仕事の場での経験・体験だと考えています。そこで、今回我々は第一線で働くビジネスマン達にどのようなプロセスを経て育ってきたのか、その成長の軌跡について伺いました。(聞き手:伊藤みづほ、菅原加良子)
【プロフィール】
有賀 千恵美(CHIEMI ARUGA)
1976年生まれ。短期大学卒業後、ニッカシステム開発(現:NKSJシステムズ)に入社。入社以来火災保険をはじめとした損害保険の契約満了時に関わるシステム(満期システム)の開発・保守に携わる。
NKSJシステムズ株式会社(http://www.nksj-sys.com/)
コンピュータおよび関連機器による情報処理サービスの受託業務、ソフトウェアの開発受託および販売業務等幅広く手がける。2011年4月 株式会社損保ジャパン・システムソリューションとエヌ・ケイ・システムズ株式会社が合併し、「NKSJシステムズ株式会社」に社名変更。
資本金/7,000万円、従業員数/1,311名(2012年4月1日現在)、売上高/307億232万円(2011年3月期)チャンスを活かす
────今回は"人が育つ成長プロセスとは"というテーマで皆さんに取材をさせていただいております。同じものを見てもそこから何か気づける人と、何も気づけない人。そして、同じ環境にいても自ら育っていく人と育たない人がいます。その違いは何なのか?我々は、その真理を探るべく、実際に育ってきた人達にインタビューをし、どういったプロセスを経て成長したのかをお伺いしたいと思っております。是非、有賀さんご自身の成長についてお話をお聞かせください。まず、有賀さんの成長に大きく影響を与えたものや出来事はなんだと思いますか?
一番影響を受けたものは職場の環境です。たまたま、恵まれた部署に所属していたと思います。システム開発は「システム化要件定義」「外部設計」「内部設計」・・・(以降省略)と段階を踏んで開発が進んでいきますが、昨年合併するまでは、外部設計以降の工程を主な業務とする部署に所属していました。そういった環境の中で私はシステム開発では上流工程と呼ばれるシステム化要件定義を行う親会社の情報システム部門で仕事をする機会を2回頂けたんです。それが、仕事の流れ全体を見るよい経験であったと思います。
1回目は入社して2年目からの3年間でした。自社の仕事内容もあまり理解していない状態でしたので、実際には雑務や電話応対がほとんどでした。ただ、上流工程の仕事をする方々を間近で見ることで、自社に戻ってからどういう過程を経てその仕事が依頼されたのか背景を意識するきっかけとなりました。2回目は入社7年目の時で、自社での経験を積み、上流工程で必要なことがイメージできる状況でした。その上で実際にユーザーとの折衝や、社内の関連部署との調整などを経験させていただき、具体的に必要なことがわかるようになりました。入社以来、担当するシステムは変わっていませんが、システム開発における全工程を経験したことが、背景を含め全体を考えることに繋がっていると思います。再度自社に戻った時に、全段階に携われた経験からわかった様々なことでシステム開発を考える視野が広くなり、積極的に提案などが出来るようになりました。
────部分だけを見て仕事をするのと、全体を知った上で部分の仕事をするのでは、仕事の捉え方が変わり、今まで繰り返し行ってきた仕事であっても、いろいろと気づくことがあるかと思います。出向は全体を見る非常にいい経験になったんですね。しかし、そういった経験をみなさんされているのでしょうか?
いえ。ずっと同じ仕事を担当している社員もたくさんいます。私は、たまたま短期大学で情報処理を専攻していたので、入社時のシステム開発研修では優秀に見られていたと思うんですね。入社前に勉強していたからですけれども(笑)。そのため、親会社の情報システム部門から人員の要望があった時に、上流工程を勉強するのもいいだろう。行かせてみようと言っていただけるきっかけがあって。運がよかったと思います。ただ、私自身もなるべくそれに応えたいと思い、多少辛くても諦めなかったところはありますね。そこで『ダメだ、出来ません』といってしまったら次のチャンスはなくなっていたと思います。
────自分の限界を自分で決めないということですね。しかし、やはり無理だと感じる案件なども少なからずあると思うのですが、そういった際はどうされたのですか?
その時には同僚や周りの先輩に相談をして、乗り越えてきましたね。自分一人では出来ないことでも、とりあえずは引き受けてみる。全部出来ることが一番よいのですが、"全部出来る"か、"全然出来ない"ではなく、"何が出来るか"を探すことを心掛けています。出来ないことはそれに代わる提案をしたり、自分だけでは難しい部分は他の人に協力してもらうなど出来る限り期待に応えていくことが次のチャンスに繋がると思います。
難しい問題に直面した時に、必要な知識や経験を与えて協力してくれる上司や同僚にタイミングよく巡り合ったと思いますね。自分自身で何かを勉強して成長したというよりも、周りに助けられて乗り越えてきました。よい仕事をしようと高い意識を持った方々と一緒に仕事を出来たことで、考え方が変わったのだと思います。
────何かを学ぶ、また、成長する上で、上司との関わりは非常に大きいと思うのですが、上司はどういった方だったのでしょうか?
広い視野を持っている上司や、仕事を任せてくれる上司が多かったんです。例えば、私の視野を広げるきっかけとなった上流工程に携わる経験を今度は後輩にも経験させたいと思い上司に相談したところ、すぐに機会を作っていただけました。それも、上司の方で全部手続きをするというわけではなく、『有賀さんの提案はよいことだと思うから、組織全体への効果もよく考えて正式に提案書を書きなさい』と。自分で最後まで責任を持ってやり遂げることを大事にしていただけたことが、成長に繋がったと思います。
────任されることによってモチベーションが上がりますよね。それと同時に責任感もより一層強くなると思いますが。
そうですね。実際に書いてみると会社に提案するには考えが浅い部分がたくさんありましたが、不足する部分には、私自身が納得できる答えを導きだせるまで繰り返しアドバイスを頂きました。誰かに言われたのではなく自分自身の考えで作ったものですし、また、任せてくれた方のためにも、提案書を実現するために自ら行動しようと思う気持ちも増しました。このような出来事を何度か繰り返すうちに経営層の方々にも名前を覚えていただくことができ、社内のプロジェクトに参加させてもらうということもありました。その時はいろいろな部署の方や、経営層の方とも話しをする機会があって、そこからまたいろいろな考え方を学べたと思います。
────上の方と話をすることによって、見え方や考え方が変わる経験はありましたか?
そうですね。通常システム開発をしていると、なぜそのシステムを作っているのかというよりも、目先の仕事を完成させることに目が行ってしまい、言われたことだけをやり遂げようと注力してしまうことがよくあります。このシステムはユーザーにどのように活かされるのか、どのような効果があるのか...そういうことを忘れがちになってしまうんですね。
ただ、上の方はもっと広い視野で見ていて、"お客様に満足いただく為にはどうするか"、小さいシステム一つ一つの開発についてではなく、広く全体を見て何をすべきか考えていらっしゃいます。そのような話を直接聞く機会に恵まれたことがよかったと思います。この経験が新たに仕事を任された時に、担当するシステムだけでなく、関連する他のシステムや、最終的に使用するお客様から見た時の効果等を考えながら仕事するきっかけとなりました。
────しかし、いくら上司に恵まれていても、そのチャンスを活かせる人と活かせない人がいると思います。有賀さんは元々、積極的に行動をするタイプなのでしょうか?
いいえ。どちらかといえば消極的だったと思います。若い頃、一緒に仕事をしていた先輩に行動力のある方が多かったため、仕事は積極的に取組むべきものだと考えるようになりました。それはリーダー層だけではなく年代の近い先輩方が手本を示してくれたため、仕事を進めるために必要な行動の仕方が自然と身に付く環境だったと思います。
周りの人を通して、今の自分を知る
────仕事に対する目線や基準が高い方々が周囲にいたんですね。
そうですね。社内を見てもたまたま私のグループにはそういうメンバーが多かったと思います。当時、会社の部署の中で1.2を争う忙しさで、配属が決まるとみんなショックを受けるという大変なところだったんです(笑)。でも、大変だからこそ、みんなで助け合っていこう、どうしたらもっと仕事や職場環境がよくなるのかを考える機会が多かったのだと思います。多忙な中でも、効率的に質の高い仕事をするために様々な取組をしている先輩や、ヤル気のある後輩に囲まれて、"頑張らなくてはいけない"と常に考えるようになりました。
ただ、その結果、頑張りすぎてしまい4~5年前にダウンして長くお休みをいただいたんですね。その後復帰してみたら、休んでいる間も後輩がそつなく仕事を進めていてくれて、今まで何をそこまで頑張っていたのか自分を見つめなおす機会となりました。自分だけで"頑張る"ことに意味はない。人に任せるところは任せなくてはいけないんだ、とその時初めて感じましたね。それからはあまり気負わなくなりました。
────頑張り方が変わったということですね。具体的にはどのように変わったのでしょうか?
やはり組織で仕事をしているので、一人ひとりが頑張るのではなく、全体の頑張りが力になるのだと気付きました。みんなでどう頑張っていくか、より一層チームワークを考えるようになってきましたね。休む前までは、自分が旗を振って、みんながそれについて来ればいいと思っていました。そうではなく、私がやるべきことは、チームとして最大限の力を発揮するためにどうすればよいかを考え、行動すること。それは、後輩が自分で考えて行動できるように手助けをすることだったり、みんなが考えた中で最もいいものを選んでやっていこうとか。良い方向へ仕事を進めるためには、チーム全体のバランスを見ながら一人ひとりの能力を活かすことや伸ばしていくことを考えることが大切なんだと気付きました。それがわかった時にチームで仕事をするということがすごく大事なんだなって改めて思いましたね。
────そうですね。一人では限界がありますよね。企業では組織力強化が重要課題になってきています。有賀さんは組織の中で、自分が頑張ればいいという立場から、人を育てていくことが求められる立場に変わっていったと思いますが、それは大きな転換期だと思います。難しいことや、大変だったこと等はありますか?
ありますね。私がリーダーとなって数名の後輩と一緒に開発をする場面では、みんな一人ひとり苦手なところは違うし、同じように教えても同じようには伸びていかない。なぜ出来ないのかわからずに悩むこともありました。
問題を解決するために当時は"リーダーシップとは"とかいうハウツー本を買ったりだとか、"会議をするときには"、"効率的にするためにはどうするか"という本を読んだりしていました。それでもなかなか解決には結びつかなくて、私はリーダーには向いてないなと、限界を感じていました。そんな時期に、会社からOBT協会さんの次世代リーダー研修に参加するよう声を掛けていただいたので、なぜ選んでいただけたのか不思議に思っていました。
────初めの自己紹介の時にもそうおっしゃっていましたよね(笑)
そうですね。でも、研修を受けてわかったことは、自分が学ぼうとしていた範囲が狭かったとか、答えを求めようとしすぎていた。考え方を学ぶのではなく、問題をすぐに解決できるような知識ばかりを求めていたことがいけなかったと気が付きました。それに、システム開発は一般常識を知らなくても言語とかシステム周りの知識、またユーザーの業務に関する知識があればできると思っていたんですね。
でも、それじゃ本当に質の高い物は作れなくて。よい物を作るためには、一般常識的なことはもちろん広く世の中を知って、自分や会社、今の仕事は世の中の流れに沿っているのかを考えるようにもなりました。自分自身の限界ではなく、今までの学び方に限界があった。まだやるべきことは沢山あるとわかりました。
────研修を受けて自分が変わっていく実感ってありましたか?
それはありましたね。全8回の研修でしたが、初めの頃は今まで自分で勉強してきたことと全く異なる講義内容に戸惑いばかりで、受講するのが憂鬱でした。それが回を重ねる毎にちょっとずつ楽しいかもって(笑)。世の中の見方や物事の考え方が広がるのを感じました。それと、研修の一環として職場に戻ってメンバーに(上司、同僚、部下を交えて)フィードバックすることが宿題でしたよね。研修受講当初は業務が忙しい時期だったので、少人数で実施するつもりだったのですが、上司からもっと人数を増すよう言っていただいたので、その後押しがあって、人数を集めてじっくり話し合いをすることが出来ました。
その中で私の考えと違った様々な話しを聞くことができ、また新しい考え方を学ぶことができました。特に後輩からの今の業務に置換えた意見や提案には、とても刺激を受けました。改めて、考え方、発想の豊かさなどは年齢や社歴に関係ない。怠けていてはすぐに追い抜かれてしまうと感じています。研修で学んだ内容を通して、周囲の方々と時間を共有し、会社や組織全体を考えるきっかけができたこともよかったと思います。
────研修で学んだことが少しずつでも職場で波及していると聞くと我々も非常に嬉しいです。本来、研修で考え方が変わっても職場に戻ると、日々の業務に追われ、折角得た新たな物の見方、考え方が元に戻ってしまうことはよくあることです。しかし、職場全体で考え方が変わって行けば、会社は確実に変わると思います。最後に有賀さんが仕事で大事にしていることってなんですか?
どんな仕事でも、その背景を深く知ることが重要です。物事の本質がわからないと本当によい仕事は出来ないと思いますね。あとは、楽しんで仕事をすることも大切にしています。生計を成り立たせる上で不可欠だから仕事をしているというのがホンネです。ただ、それをイヤイヤやるのではなく、いかに楽しめるかで日々の充足感は変わってくると思います。
私にとって"楽しむ"ということは、楽をすることではなくやりがいのある仕事をすること。少し難しいことにチャレンジして成功した時の達成感です。周囲から感謝の言葉をいただいたり、携わった仕事がキチンと役に立っていることがわかった時が、自身の成長を感じ、楽しいと思う瞬間です。後輩にも同じように仕事を楽しいと感じる機会を持ってもらいたい。そのために、少しでも手助けができればいいなと思っています。
────有賀さんは様々なきっかけを通して、物事の背景や本質を知る重要性を学んで来られたんですね。貴重なお話をありがとうございました。
インタビュー後記
日々行うルーティンワークは、馴れで出来てしまう。それを自分は仕事が出来ると思い込んでいる人はことのほか多い。然しながら、それは"無価値な熟練"を行っているだけで、自身の能力が上がっているかというとそうではない。同じ作業をするのであっても、表面的なものの理解で仕事をする人と、背景を理解して仕事をする人では、おのずと結果は違って来る。つまり、どれだけ高く・広い視点で自分の仕事を捉えられるかで、仕事の完成度も変わってくるのだ。然しながら、これらは見ようとしなければ、見れないのだ。今の自分の仕事に満足をしている様では、新たな気付きは入ってこない。常に、周りを意識するアンテナを立てることが自身の成長に必要不可欠である。
聞き手:OBT協会 伊藤みづほ
OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。
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NKSJシステムズ株式会社
開発第三本部
代理店システム第二グループ
主任システムズ・エンジニア
小野田大輔さん
"育つ人と育たない人"の差は何か。私共では、人が成長するのは仕事の場での経験・体験だと考えている。しかし、何よりもまず、当人の主体的な意思無くして成長は無い。小野田氏のインタビューを通じて感じたことは、自分の現状に満足せず、常に負荷をかけて高みに登ろうという姿勢が、多様な経験を呼び込んでいる、という事である。仕事は与えられるものではなく、自ら取りに行くもの。その考え方が、小野田氏の成長に大きな影響を与えている。人の成長は職場の上司や様々な仕事経験等、育つための環境が重要となるが、成長したい、上を目指したい、という当人の主体的な意思無くしては、それらは意味をなさない。(聞き手:伊藤みづほ、菅原加良子)
【プロフィール】
小野田 大輔(DAISUKE ONODA)
1975年生まれ。大学卒業後、ソフトウェア会社に入社し、2009年に前身の損保ジャパン・システムソリューションに入社。代理店向けのWeb系のシステム開発に従事。小・中規模から約1000人月規模の大型案件まで、多数のプロジェクトでサブリーダー、リーダーを務める。
NKSJシステムズ株式会社(http://www.nksj-sys.com/)
コンピュータおよび関連機器による情報処理サービスの受託業務、ソフトウェアの開発受託および販売業務等幅広く手がける。2011年4月 株式会社損保ジャパン・システムソリューションとエヌ・ケイ・システムズ株式会社が合併し、「NKSJシステムズ株式会社」に社名変更。
資本金/7,000万円、従業員数/1,311名(2012年4月1日現在)、売上高/307億232万円(2011年3月期)目線を変える
────今回の取材テーマ"人が育つ成長プロセスとは"ですが、私共は仕事柄、様々なビジネスマンの方々とお会いする機会がありまして、その中で、同じような環境の中で育っても、そこから何かを学びとる人と、何も学ばない人(学べない人)、つまり、自ら育つ人と育たない人がいると感じております。そこで、今回、実際に自ら育ってきた方にお話を伺いし、どういったプロセスを経て成長したのかをお聞きしたいと思っております。小野田さんの成長に大きく影響を与えた物はなんだったと思いますか?
大きく分けると二つです。一つは環境の変化。もう一つは、自分の仕事とは違う人と接点があることだと思っています。
私は、今の会社に転職して4年目なのですが、我々の会社はパートナーさんに仕事を発注することが多いんですね。しかし、以前は発注される側の会社にいたんです。だから、当時は選ばれなくてはいけないって考えがありました。そのお陰で、現在の仕事でも客観的に選ばれるためにはどうすべきかというところを考えながら仕事をしています。また、発注元と発注先で求める情報や考えかたにズレが生じることが少なからずあると思うんです。出される側の気持ちを理解して、いかに私が彼らと一緒になって前に進めるために行動できるか。そうやって信頼関係を築くことが重要だと思っているんです。単純に「これをやってくれ、あれをやってくれ」と上から一方的に依頼するのではなく、私がお願いしたことにやりがいを持って作業に専念できる環境を作りたいと思うので、極力彼らがやりやすいように、困らないようにして仕事がうまく回るようにというのをいつも心がけています。
────つまり、転職をしたことによって環境が変わり、また違った目線で仕事をすることが出来たということですね。ビジネスフローを理解すると、今まで見えていなかった部分が見えてきますよね。
私の場合はというのはありますが、システムエンジニアとしていろいろな業種や立場で作業することも経験になりますが、一つの業界の中で、世の中の流れを意識しながら仕事をしたいという思いがありました。転職をしたことによって、少し広い視野で物を見ることができたというか。目の前の仕事をこなすだけじゃなくて、その背景を理解することで、グループ全体の業務改善とか、その先にいるお客様に喜んでもらえるかとか、それを実現するために自分はどうあるべきだとか、そういうことを考えるようになりました。
────目の前の仕事だけではなく、その背景を知るということは仕事を進めて行く上で、より質の高いものを作る為に重要な考え方ですよね。物事の本質は、表面上ではなく、その背景にあると思います。その他にも、環境の変化はありましたか?
あとは、たくさんの上司に出会ったことだと思います。最終的な到達点は同じでもプロセスを重視する方もいれば結果を重視する方もいますし、仕事の進め方が違う部分もあります。また業務を常に最優先で考える方もいれば、自己啓発など先を捉えた働き方を重視する方もいます。そういったいろんな考え方の方と接していくことで、自分の出来ている部分・出来ていない部分が見えてきたりするんですよ。だから、出来ていない部分をどうやって補てんするかを考えたり、あるいは出来ていることから自分の強みを理解し伸ばしていこうという考え方が出てきたり、たぶんそういったことで、少しずつ成長してきたのかなって思います。
なので、私はいろいろな意見をまずは取り入れようって思っています。自分の目線だけで見るのではなく、いろんな角度から客観的に見ることが重要で、一緒に働いているメンバーや、同じ会社でも他部署であったり、同じような業種でも他の会社とか、まったく違う業種の人とかと接する機会を作る事が必要だと思っています。
────違う業種の方と接する機会というのはどのようにして作られているのでしょうか?
仕事の都合がつけば勉強会みたいなものに行ったりもしますし、あとは、社内でワークショップをやろうという動きがあって、他業種の人との飲み会を企画している人もいます。そういうところから知見とか、新しい発想が生まれるのかなと思います。
それとは別に、まったく他業種というわけではないですが、うちの技術部門を担当している人達が企画して、取り引きのある会社の工場見学に先週行ってきました。そこはサーバーやストレージ(※)を作っているところなんですが、我々だと、通常はサーバーの納期とかを気にして仕事をしていますが、サーバーを作っている方々は、納期も大切ですが安定稼働をさせるため、また、信頼性を高めるために品質管理をすごく厳格におこなっていました。問題が起きたから設計や開発にフィードバックしようとか、この機能はこういう障害が起きやすいから、こういうふうな作りをしちゃダメなんだとか。そういうのを見て、こういった厳格な品質管理が求められる製造業の考え方をシステム開発に生かせれば、よりいいものが出来るなって思いました。自分の業界とは関係ないところでも、類似性っていうのはありますから、そういうところを見ることによって勉強になりますよね。
(※)ストレージ:デジタル情報を記録・保存するハード-ディスクや光磁気ディスク-ドライブなどの記憶装置の総称
────目線をどこに置くかというところが重要ですね。仕事でも、それ以外でも普遍的な物の考え方がありますから、その部分から物事を見ることが出来るかどうかですね。そこから見ると共通点がいくつもある。
そうですね。だから、一見、直接的には関係がなくても、つながりや関係性を見出していける人は、成長するのかなって思います。それから、私は、転職4年目なんですけれども、毎年、部署を異動しているんですよ。
────なぜ、そんなに異動が多いんですか?
今いる部署は我々の会社の中で新しいシステムを構築したり、会社の事業戦略上重要視されている部署なんです。その部署への異動は、忙しそうだから手伝いたいなって思ったのと、その部署に入れば他の部署に移っても自分がそこで学んだことが生きるんじゃないかと思って飲み会の席で軽く"いいですね"と言ったんですね。そしたら、本当にいきなり忙しいところに詰め込まれてしまってという感じでした。私はいろいろなことにすぐに巻き込まれちゃうんで。とはいっても、自分からなのですが(笑)でも、本当に厳しい環境なんですけれども、そういうところに身を置いて、みんなをリードしていく経験が出来るということは、異動して本当に良かったと思っています。
追い込まれる環境が自分を育てる
────人間は、変化を嫌う生き物だといわれていますよね。特に、慣れた仕事だったり、環境が変わることを嫌がる人が多いと思いますが、小野田さんは自ら変化を求めるタイプなんですね。
そうですね。やはり転職当時は何もわからなくて消極的になったりしました。でも、1年目で私が受け持ったプロジェクトがあったんですね。それとは別に違うチームの人たちのプロジェクトが動いていたのですが、それが凄く大変な状況になっていて。その時に、自分のプロジェクトを支障がない程度に遅らせることになるけど、そのプロジェクトに参加させてくれって話をしたんです。結局それも大変な思いをしたんですけれども。なんだか、困っているのをそのままにしておけないというか。嫌じゃないですか。同じ会社の人が困っていたら。
────そうですね。ただ、その分自分に負荷をかける、荷物を持つということになりますよね。しかし、人の荷物を持ち過ぎて、自身の仕事に支障をきたすことはありませんか?
はい。たまに怒られるんですよ(笑)。自分ができるわけないもない量をやりたがるんで。あまりよくないんです。ただ、完全に駄目だということはないんですね。それに、私は目標設定をするときに自分の100%に対して目標を立てたくなくて、自分ができないレベル120%をやって、その結果80%出来た方がいいと思うんですね。100%目指して100%よりもその方がより良いものが出来ると思うし、自分の成長にも繋がるかなと思ってやっているんです。
────そうですね。常に目に見える範囲で目標を立てるのではなく、少しでも高みに登るような目標を立てることによって、心構えも自然と変わりますよね。ただ、自分の荷物だけではなく、人の荷物をもつことは非常に大変かと思います。
私は、難しい方が楽しい。知らないことの方が楽しいと思っています。新しいこととか知らないこととかをやるとモチベーションが上がるというか。とにかく考えることも勉強することも大事なんですけれども、それをやるために何が欠けているのか、そういうことを考えることが楽しいですね。
それに、少ない時間でいかに効率的にやるかって考えるのも重要だと思っています。結局溢れちゃうことっていっぱいあるんですけれども。これからも、そういうスタンスで仕事をしたいなと思っています。今の部署もずっと忙しくて、いつまで続くんだろって思うこともあります。辛いと思うことはありますが、せっかくやるなら楽しくやりたいですよね。前に上の方に言われたのが、『今辛いのが何で困るんだ。将来的に楽しい仕事が出来た方がいいじゃないか。だから今辛いことは、たいしたことじゃない』っていわれた時に、そうだなって思って。結果として、辛くても継続して成果を出していかないと自分がやりたいことができるチャンスはもらえないし、その結果が将来の仕事につながって後で楽しく仕事ができたなと思えればそれでいいのかなと思うんです。
それに、辛いことではないのですが、私が積極的に出ようと思っている研修とかも一見すると荷物になってしまいますよね。でもそれは、今のままの自分の仕事だけだとすごく不安なんですよ。このまま5年後とかになったときに、私が今やっているやり方でスペシャリストになっても、他に転用が効かないんじゃないかって思って。なので、仕事の本質部分を理解するために、いろんなことを吸収していかないといけないと思っています。だから、いくら疲れてもやってる感がある方が私は良いです。
────今の若者は危機感が非常に薄いと言われていますよね。それは、単に情報を知らない、そして、今の現状を知ろうとしないというところに問題があると思います。小野田さんはアンテナを立てて常に情報収集をしたり、積極的に自分と向き合ているんですね。しかし、そうなると危機感や不安感は非常に大きくなりますよね。
はい。かなり大きいですね。いろんなことをやっていないと置いて行かれる感じがします。でもそれだけではなく、自分の欲が強いというのもあると思いますが、せっかく会社に入ってやっているので、会社の中心で働きたいという考えもあります。自分が会社の先頭にたってリードしたいって。そのためには、やらなければいけないことは多いんじゃないかなと。
────小野田さんにとって会社の中心で働くということはどういった働き方ですか?
自分が方向性を決めたいっていうのはあります。その方が楽しいじゃないですか。それに、私が笑っていればチームがなんとかなるって勝手な考えを持ってやっているので(笑)。上の人は、辛くても私が明るくチームを引っ張っていくところを期待して私を入れたと思っていますし。それに、上の人の受け売りもちょっとあるんですけれども、仕事って色々な人の思いを受け止めることだと思っているんです。だから、ちょっと話が違うかもしれませんが、人が困っていたら助けたいし、全体としてうまく行くようにしたいと思っています。私にも自分のチームがあって、自分の担当はここだと思ってはいるんですけれども、それだけではなくて、色々なところに関わって行きたいです。それで、全体としてうまく回していきたいと思っていますね。
────全体をうまく回すためにはご自身の力だけではなく、周りの方の力も必要になってくると思いますが、部下を育てることについてはどのように考えていらっしゃいますか?
私は、結構何でもやりたがってしまうんですよ。なので、本来であれば、私が動くよりも部下を動かす。その人の成長を促すために口をださない。しかし、言うべきとこは言うというスタンスがいいんでしょうけれども、なかなかできなくて(笑)。だから、部下に一番言っているのは、失敗してもいいし、間違えてもいい。ただ、やらないことはよくない。そして、失敗してもいいけど同じことを繰り返すのはよくないといいます。
────部下のマネジメントという観点からみて成長したという実感はありますか?
部下にいい格好しなくなったことが一番成長したなと思っています。やっぱりいい上司でいたいじゃないですか。格好悪いところは見せたくない。だから、みんなの前で理路整然と話すとか、いい話をしようと思うんですけれども、知らないことも多いんですよ。それを意識していたら、あまりしゃべらなくなってしまったというのがあったんですね。でも、知らないことは別に悪いことじゃないし、知ればいいことだと思っています。だから今、成長したなって思うのは自分が間違ってでも話を伝えて、みんなと議論し、その結果を主体的になって行動するようになった事だと思いますね。私が個人的に求めていた格好いいリーダー像というのは、誰も求めていないんですよ。たぶん私が思うには(笑)。私が部下だったら、ちゃんとメンバーのことを考えて、多少間違ってもいいから先頭に立って行動して欲しいと思っていていましたので。だから、私もそういうところが少し吹っ切れて、あまり恥ずかしげもなく出来るようになってきたとき、成長したなって思います。
────小野田さんは、"少しでも自分のレベルを上げて、人に喜ばれる質の高いものを作りたい"という思いが非常に強いのですね。その思いが自らを主体的に動かす原動力に繋がっているのだと思いました。貴重なお話をありがとうございました。
インタビュー後記
小野田さんのお話を伺って感じたことは、現状の自分に満足せず、常に新しいことを求め、多様な経験をし、目線を広げていったこと。そして、常に自身に負荷をかけ高みに登ろうという意欲の高さである。仕事は与えられるものではなく、自ら取りに行くもの。その考え方が、小野田さんの成長に大きな影響を与えているのだと感じた。その為、人の成長は自身の考え方によって大きく変わる。つまり、成りたい自分像が明確なほど、人は目標を立て、成長しやすいのではないだろうか。また、成長には、偏った固定観念を持たず、様々な考え方を取り入れ、自分なりに整理し、新たな型を作っていくという"柔軟であること"も重要だと改めて感じた。
聞き手:OBT協会 伊藤みづほ
OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。