OBT 人財マガジン

2012.07.11 : VOL143 UPDATED

人が育つを考察する

  • 第一回【成長の瞬間】「成長」には、当人の主体的な意思が不可欠

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      NKSJシステムズ株式会社
      開発第三本部
      代理店システム第二グループ
      主任システムズ・エンジニア
      小野田大輔さん

       
      "育つ人と育たない人"の差は何か。私共では、人が成長するのは仕事の場での経験・体験だと考えている。しかし、何よりもまず、当人の主体的な意思無くして成長は無い。小野田氏のインタビューを通じて感じたことは、自分の現状に満足せず、常に負荷をかけて高みに登ろうという姿勢が、多様な経験を呼び込んでいる、という事である。仕事は与えられるものではなく、自ら取りに行くもの。その考え方が、小野田氏の成長に大きな影響を与えている。人の成長は職場の上司や様々な仕事経験等、育つための環境が重要となるが、成長したい、上を目指したい、という当人の主体的な意思無くしては、それらは意味をなさない。(聞き手:伊藤みづほ、菅原加良子)


    • 【プロフィール】

      小野田 大輔(DAISUKE ONODA)

      1975年生まれ。大学卒業後、ソフトウェア会社に入社し、2009年に前身の損保ジャパン・システムソリューションに入社。代理店向けのWeb系のシステム開発に従事。小・中規模から約1000人月規模の大型案件まで、多数のプロジェクトでサブリーダー、リーダーを務める。

      NKSJシステムズ株式会社(http://www.nksj-sys.com/)

      コンピュータおよび関連機器による情報処理サービスの受託業務、ソフトウェアの開発受託および販売業務等幅広く手がける。2011年4月 株式会社損保ジャパン・システムソリューションとエヌ・ケイ・システムズ株式会社が合併し、「NKSJシステムズ株式会社」に社名変更。
      資本金/7,000万円、従業員数/1,311名(2012年4月1日現在)、売上高/307億232万円(2011年3月期)

    • 目線を変える

      ────今回の取材テーマ"人が育つ成長プロセスとは"ですが、私共は仕事柄、様々なビジネスマンの方々とお会いする機会がありまして、その中で、同じような環境の中で育っても、そこから何かを学びとる人と、何も学ばない人(学べない人)、つまり、自ら育つ人と育たない人がいると感じております。そこで、今回、実際に自ら育ってきた方にお話を伺いし、どういったプロセスを経て成長したのかをお聞きしたいと思っております。小野田さんの成長に大きく影響を与えた物はなんだったと思いますか?

      大きく分けると二つです。一つは環境の変化。もう一つは、自分の仕事とは違う人と接点があることだと思っています。
      私は、今の会社に転職して4年目なのですが、我々の会社はパートナーさんに仕事を発注することが多いんですね。しかし、以前は発注される側の会社にいたんです。だから、当時は選ばれなくてはいけないって考えがありました。そのお陰で、現在の仕事でも客観的に選ばれるためにはどうすべきかというところを考えながら仕事をしています。また、発注元と発注先で求める情報や考えかたにズレが生じることが少なからずあると思うんです。

      出される側の気持ちを理解して、いかに私が彼らと一緒になって前に進めるために行動できるか。そうやって信頼関係を築くことが重要だと思っているんです。単純に「これをやってくれ、あれをやってくれ」と上から一方的に依頼するのではなく、私がお願いしたことにやりがいを持って作業に専念できる環境を作りたいと思うので、極力彼らがやりやすいように、困らないようにして仕事がうまく回るようにというのをいつも心がけています。

      ────つまり、転職をしたことによって環境が変わり、また違った目線で仕事をすることが出来たということですね。ビジネスフローを理解すると、今まで見えていなかった部分が見えてきますよね。

      私の場合はというのはありますが、システムエンジニアとしていろいろな業種や立場で作業することも経験になりますが、一つの業界の中で、世の中の流れを意識しながら仕事をしたいという思いがありました。転職をしたことによって、少し広い視野で物を見ることができたというか。目の前の仕事をこなすだけじゃなくて、その背景を理解することで、グループ全体の業務改善とか、その先にいるお客様に喜んでもらえるかとか、それを実現するために自分はどうあるべきだとか、そういうことを考えるようになりました。

      ────目の前の仕事だけではなく、その背景を知るということは仕事を進めて行く上で、より質の高いものを作る為に重要な考え方ですよね。物事の本質は、表面上ではなく、その背景にあると思います。その他にも、環境の変化はありましたか?

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      あとは、たくさんの上司に出会ったことだと思います。最終的な到達点は同じでもプロセスを重視する方もいれば結果を重視する方もいますし、仕事の進め方が違う部分もあります。また業務を常に最優先で考える方もいれば、自己啓発など先を捉えた働き方を重視する方もいます。そういったいろんな考え方の方と接していくことで、自分の出来ている部分・出来ていない部分が見えてきたりするんですよ。だから、出来ていない部分をどうやって補てんするかを考えたり、あるいは出来ていることから自分の強みを理解し伸ばしていこうという考え方が出てきたり、たぶんそういったことで、少しずつ成長してきたのかなって思います。

      なので、私はいろいろな意見をまずは取り入れようって思っています。自分の目線だけで見るのではなく、いろんな角度から客観的に見ることが重要で、一緒に働いているメンバーや、同じ会社でも他部署であったり、同じような業種でも他の会社とか、まったく違う業種の人とかと接する機会を作る事が必要だと思っています。

      ────違う業種の方と接する機会というのはどのようにして作られているのでしょうか?

      仕事の都合がつけば勉強会みたいなものに行ったりもしますし、あとは、社内でワークショップをやろうという動きがあって、他業種の人との飲み会を企画している人もいます。そういうところから知見とか、新しい発想が生まれるのかなと思います。

      それとは別に、まったく他業種というわけではないですが、うちの技術部門を担当している人達が企画して、取り引きのある会社の工場見学に先週行ってきました。そこはサーバーやストレージ(※)を作っているところなんですが、我々だと、通常はサーバーの納期とかを気にして仕事をしていますが、サーバーを作っている方々は、納期も大切ですが安定稼働をさせるため、また、信頼性を高めるために品質管理をすごく厳格におこなっていました。問題が起きたから設計や開発にフィードバックしようとか、この機能はこういう障害が起きやすいから、こういうふうな作りをしちゃダメなんだとか。そういうのを見て、こういった厳格な品質管理が求められる製造業の考え方をシステム開発に生かせれば、よりいいものが出来るなって思いました。自分の業界とは関係ないところでも、類似性っていうのはありますから、そういうところを見ることによって勉強になりますよね。

      (※)ストレージ:デジタル情報を記録・保存するハード-ディスクや光磁気ディスク-ドライブなどの記憶装置の総称

      ────目線をどこに置くかというところが重要ですね。仕事でも、それ以外でも普遍的な物の考え方がありますから、その部分から物事を見ることが出来るかどうかですね。そこから見ると共通点がいくつもある。

      そうですね。だから、一見、直接的には関係がなくても、つながりや関係性を見出していける人は、成長するのかなって思います。それから、私は、転職4年目なんですけれども、毎年、部署を異動しているんですよ。

      ────なぜ、そんなに異動が多いんですか?

      今いる部署は我々の会社の中で新しいシステムを構築したり、会社の事業戦略上重要視されている部署なんです。その部署への異動は、忙しそうだから手伝いたいなって思ったのと、その部署に入れば他の部署に移っても自分がそこで学んだことが生きるんじゃないかと思って飲み会の席で軽く"いいですね"と言ったんですね。そしたら、本当にいきなり忙しいところに詰め込まれてしまってという感じでした。私はいろいろなことにすぐに巻き込まれちゃうんで。とはいっても、自分からなのですが(笑)でも、本当に厳しい環境なんですけれども、そういうところに身を置いて、みんなをリードしていく経験が出来るということは、異動して本当に良かったと思っています。

      追い込まれる環境が自分を育てる

      ────人間は、変化を嫌う生き物だといわれていますよね。特に、慣れた仕事だったり、環境が変わることを嫌がる人が多いと思いますが、小野田さんは自ら変化を求めるタイプなんですね。

      そうですね。やはり転職当時は何もわからなくて消極的になったりしました。でも、1年目で私が受け持ったプロジェクトがあったんですね。それとは別に違うチームの人たちのプロジェクトが動いていたのですが、それが凄く大変な状況になっていて。その時に、自分のプロジェクトを支障がない程度に遅らせることになるけど、そのプロジェクトに参加させてくれって話をしたんです。結局それも大変な思いをしたんですけれども。なんだか、困っているのをそのままにしておけないというか。嫌じゃないですか。同じ会社の人が困っていたら。

      ────そうですね。ただ、その分自分に負荷をかける、荷物を持つということになりますよね。しかし、人の荷物を持ち過ぎて、自身の仕事に支障をきたすことはありませんか?

      はい。たまに怒られるんですよ(笑)。自分ができるわけないもない量をやりたがるんで。あまりよくないんです。ただ、完全に駄目だということはないんですね。それに、私は目標設定をするときに自分の100%に対して目標を立てたくなくて、自分ができないレベル120%をやって、その結果80%出来た方がいいと思うんですね。100%目指して100%よりもその方がより良いものが出来ると思うし、自分の成長にも繋がるかなと思ってやっているんです。

      ────そうですね。常に目に見える範囲で目標を立てるのではなく、少しでも高みに登るような目標を立てることによって、心構えも自然と変わりますよね。ただ、自分の荷物だけではなく、人の荷物をもつことは非常に大変かと思います。

      私は、難しい方が楽しい。知らないことの方が楽しいと思っています。新しいこととか知らないこととかをやるとモチベーションが上がるというか。とにかく考えることも勉強することも大事なんですけれども、それをやるために何が欠けているのか、そういうことを考えることが楽しいですね。

      それに、少ない時間でいかに効率的にやるかって考えるのも重要だと思っています。結局溢れちゃうことっていっぱいあるんですけれども。これからも、そういうスタンスで仕事をしたいなと思っています。今の部署もずっと忙しくて、いつまで続くんだろって思うこともあります。辛いと思うことはありますが、せっかくやるなら楽しくやりたいですよね。前に上の方に言われたのが、『今辛いのが何で困るんだ。将来的に楽しい仕事が出来た方がいいじゃないか。だから今辛いことは、たいしたことじゃない』っていわれた時に、そうだなって思って。結果として、辛くても継続して成果を出していかないと自分がやりたいことができるチャンスはもらえないし、その結果が将来の仕事につながって後で楽しく仕事ができたなと思えればそれでいいのかなと思うんです。

      それに、辛いことではないのですが、私が積極的に出ようと思っている研修とかも一見すると荷物になってしまいますよね。でもそれは、今のままの自分の仕事だけだとすごく不安なんですよ。このまま5年後とかになったときに、私が今やっているやり方でスペシャリストになっても、他に転用が効かないんじゃないかって思って。なので、仕事の本質部分を理解するために、いろんなことを吸収していかないといけないと思っています。だから、いくら疲れてもやってる感がある方が私は良いです。

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      ────今の若者は危機感が非常に薄いと言われていますよね。それは、単に情報を知らない、そして、今の現状を知ろうとしないというところに問題があると思います。小野田さんはアンテナを立てて常に情報収集をしたり、積極的に自分と向き合ているんですね。しかし、そうなると危機感や不安感は非常に大きくなりますよね。

      はい。かなり大きいですね。いろんなことをやっていないと置いて行かれる感じがします。でもそれだけではなく、自分の欲が強いというのもあると思いますが、せっかく会社に入ってやっているので、会社の中心で働きたいという考えもあります。自分が会社の先頭にたってリードしたいって。そのためには、やらなければいけないことは多いんじゃないかなと。

      ────小野田さんにとって会社の中心で働くということはどういった働き方ですか?

      自分が方向性を決めたいっていうのはあります。その方が楽しいじゃないですか。それに、私が笑っていればチームがなんとかなるって勝手な考えを持ってやっているので(笑)。上の人は、辛くても私が明るくチームを引っ張っていくところを期待して私を入れたと思っていますし。それに、上の人の受け売りもちょっとあるんですけれども、仕事って色々な人の思いを受け止めることだと思っているんです。だから、ちょっと話が違うかもしれませんが、人が困っていたら助けたいし、全体としてうまく行くようにしたいと思っています。私にも自分のチームがあって、自分の担当はここだと思ってはいるんですけれども、それだけではなくて、色々なところに関わって行きたいです。それで、全体としてうまく回していきたいと思っていますね。

      ────全体をうまく回すためにはご自身の力だけではなく、周りの方の力も必要になってくると思いますが、部下を育てることについてはどのように考えていらっしゃいますか?

      私は、結構何でもやりたがってしまうんですよ。なので、本来であれば、私が動くよりも部下を動かす。その人の成長を促すために口をださない。しかし、言うべきとこは言うというスタンスがいいんでしょうけれども、なかなかできなくて(笑)。だから、部下に一番言っているのは、失敗してもいいし、間違えてもいい。ただ、やらないことはよくない。そして、失敗してもいいけど同じことを繰り返すのはよくないといいます。

      ────部下のマネジメントという観点からみて成長したという実感はありますか?

      部下にいい格好しなくなったことが一番成長したなと思っています。やっぱりいい上司でいたいじゃないですか。格好悪いところは見せたくない。だから、みんなの前で理路整然と話すとか、いい話をしようと思うんですけれども、知らないことも多いんですよ。それを意識していたら、あまりしゃべらなくなってしまったというのがあったんですね。でも、知らないことは別に悪いことじゃないし、知ればいいことだと思っています。だから今、成長したなって思うのは自分が間違ってでも話を伝えて、みんなと議論し、その結果を主体的になって行動するようになった事だと思いますね。私が個人的に求めていた格好いいリーダー像というのは、誰も求めていないんですよ。たぶん私が思うには(笑)。私が部下だったら、ちゃんとメンバーのことを考えて、多少間違ってもいいから先頭に立って行動して欲しいと思っていていましたので。だから、私もそういうところが少し吹っ切れて、あまり恥ずかしげもなく出来るようになってきたとき、成長したなって思います。

      ────小野田さんは、"少しでも自分のレベルを上げて、人に喜ばれる質の高いものを作りたい"という思いが非常に強いのですね。その思いが自らを主体的に動かす原動力に繋がっているのだと思いました。貴重なお話をありがとうございました。


      インタビュー後記

      小野田さんのお話を伺って感じたことは、現状の自分に満足せず、常に新しいことを求め、多様な経験をし、目線を広げていったこと。そして、常に自身に負荷をかけ高みに登ろうという意欲の高さである。仕事は与えられるものではなく、自ら取りに行くもの。その考え方が、小野田さんの成長に大きな影響を与えているのだと感じた。その為、人の成長は自身の考え方によって大きく変わる。つまり、成りたい自分像が明確なほど、人は目標を立て、成長しやすいのではないだろうか。また、成長には、偏った固定観念を持たず、様々な考え方を取り入れ、自分なりに整理し、新たな型を作っていくという"柔軟であること"も重要だと改めて感じた。

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      聞き手:OBT協会  伊藤みづほ

      OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。