OBT 人財マガジン

2012.11.28 : VOL152 UPDATED

人が育つを考察する

  • 第七回【成長の瞬間】やりがいや目標は自分でつくるもの-後編

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      タランテッラ・ダ・ルイジ
      オーナーシェフ 寺床 雄一さん

      "育つ人と育たない人"の差は何なのか?第7回目を迎える"成長の瞬間"にご登場いただくのは、イタリア料理店オーナーシェフの寺床雄一さんです。「30代で店を持つ」という目標を掲げ、単身でイタリアへ渡伊。7年間の修行へ経て、2011年2月に白金高輪でイタリア料理店『タランテッラ・ダ・ルイジ』をオープン。店内は、イタリアに居る時から少しずつ買い集めてきたという食器やタイルなど、調度品に溢れ、自慢の石窯も本場ナポリの職人を呼び寄せ作るほどのこだわりぶり。明確な目標があったからこそ、辛いことも乗り越えられ、夢を実現することが出来たと語る寺床さん。今回は、目的を持つことの大切さについて詳しくお話をお伺いしました。(聞き手:伊藤みづほ、菅原加良子)


    • 【プロフィール】

      寺床 雄一(YUICHI TERATOKO)

      1978年東京生まれ。高校卒業後、食品商社へ就職。その後、飲食業(イタリア料理店)へ転職し、20歳の時渡伊。帰国後、2011年に東京白金高輪の閑静な住宅街にお店をオープン。

      タランテッラ・ダ・ルイジ (http://tarantella-da-luigi.com/)

      イタリア・ナポリの雰囲気が味わえる、本格的な南イタリア料理店。

    • 経営者になるということ

      ────イタリアの修業を終えて、日本に帰ってきた後、まず、初めに何からスタートされたのでしょうか?

      資金力がなかったということと、あと、日本での経験もあまりないですし、イタリア料理という文化が、日本に果たしてどこまで根付いているのかが、分からなかったので、とりあえず大手飲食店のグループ会社に就職をしました。

      それが、ちょうど上場もしていてこれからどんどん出店をするという時だったので、名古屋の店舗から始まり、京都のオープニングをやったり、大阪へ行ったり、東京に帰ってきてからも代官山・六本木ヒルズ・銀座・表参道ヒルズ・新宿等、さまざまな場所で数か月ずつ短期間で働かせていただいて、すごく勉強をさせていただきました。

      土地によってお客様も違いますし、それぞれのお店でお客様がお店を使う用途だったり、食べに来る目的が違うんですね。商業施設は商業施設での食事の仕方、街中にあるようなお店だとまた違うんですよ。そういうのが見えてきたりもしましたので。

      だから、今この街のこの場所(白金高輪)でやってるのも、この場所に合わせた営業スタイルを考えて、そこから今の形を作り上げてきました。

      ────意外でした。自分のやりたいスタイルがあって、それが実現できるのが、この白金高輪のお店だと思っていました。

      それは自分の中で、もともとこういう風にやりたいというスタイルで成功出来たらいいんですけれども、僕はそうではないと思っているんですね。お客様が来て、納得してくれたり、満足してくれなかったら意味がないじゃないですか。まず、この場所でやるにあたって、近隣にはどういったお客様がいらっしゃるんだろう。どういった人たちがうちの店で、何を目的として来てくれるんだろうというところを考えた結果、今の形になったんです。

      ────では、お店も元々この辺り(白金高輪)を検討されていたのですか。

      いえ。当時中目黒でやりたかったんですけれども、中目黒は、物件探しをしていて初めてわかったのですが、賃料が高すぎたんですね。人気の場所で飲食店さんもいっぱいあって、物件を取得するっていうのが本当に容易なことではなく、大変な思いをしました。

      物件探しを始めると、就職もできなくなるんですよ。いいところが出てきたときに、すぐ行かなくちゃいけないですし、申し込みを入れたら入れたで、もうすでに何人待ちとか。一番先に申し込みを入れても大きな会社だったりとか僕よりも高く借りるという人がいると、そちらに決まっちゃうじゃないですか。それだけいい物件だと思うんですけれども、でもそこで無理をして『僕がこれ以上出します』といっても個人事業主ですし、そこまで賃料かけても採算が合わないときには無理には動かなかったんです。その時にだんだんと場所を変えて、違うところでもいいんじゃないかなと思い始めて、それからは経営は柔軟に考えなくてはいけないなと痛感しました。

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      ※お店の入口(写真左)。店内に入るとイタリア修業時代の写真や
       南イタリアのカラフルな食器が飾られている(写真右)。

      ────日本に戻ってきてから、ご自身のお店をオープンするまでにはどのくらいの期間を費やしたのでしょうか。

      2年経って漸くオープンしました。

      ────その間、迷い等はありませんでしたか?

      凄いありましたよ、何回も。諦めることはしたくなかったですけれども、諦めた方がいいのかなと思う事もありました。

      ────オープンを決めた決定的な出来事等はあるのでしょうか。

      失業したときですね。その頃、開業準備を進めながらも恵比寿のお店で働いていたんですね。でも、親会社がリーマンショックの影響で潰れてしまって、お店が無くなってしまったんです。そこで、これが機会だなと。今まではいろんな会社にお世話になって、食べてこられたけれど、これからは自分で起業したり、開業してやっていかなくちゃちゃけない時期なんだと思いましたね。ただ、そこから物件探しのこともあり、やはりその都度迷いはありましたけど(笑)。

      支えてくれる仲間がいる

      ────その迷いを押し切って、一歩踏み出せたから今があるんですね。

      そうですね。でも、僕は、周りに助けれられてきたというか、凄く皆さんにお世話になっていいるんだなと思います。だから、自分が一人で、これもあれもしてきて今があるというよりは、周りがみんな応援してくれたり、きっかけを作ってくれたり、チャンスをくれたおかげで、今があると思うんです。

      ────現在お店で一緒に働いてる方々は、どういった方々なのでしょうか?

      今いるスタッフは皆さん、昔一緒に働いてた人たちが殆どなんです。そういったところで気も知れていますし、やり易いというか助かっています。

      ────寺床さんは本場イタリアでの修業経験があり、そこで思い描くイタリア料理店のイメージが明確にあるかと思いますが、従業員の方々ともイメージを共有したりしているのでしょうか。

      なかには、イタリアに行った経験がある方たちもいたりするので、その人たちとは、イメージの共有とかはしやすいんですね。でも、それは大まかなイメージであって、働いた場所が違うので、お店でやっている内容とかも違うじゃないですか。

      だから、イタリアに行ったことある人でもない人でも、イタリア料理をやっていて、飲食業が好きだとか、イタリアが好きだとか、そういう気持ちを持っている方たちだと、すんなりというか、楽しく仕事を共有し、みんなで一致団結して出来るんじゃないかと思うんです。そこが合わない場合は必然的に人も辞めて行ったりとか、もちろんしていきますから。

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      ※ナポリ直輸入の窯(写真左)やイタリアの職人が描いたオリジナルのテーブル(写真中央)、
       壺(写真右)が店内に溢れている。
      ※寺床さんはオーナーシェフの傍ら、窯や食材などの輸入代理店も行っている。

      ────オーナーという経営者の目線から見て、伸びて行く人と伸びて行かない人の違いはありますか。

      伸びる方は、将来の目標や自分に対して何が足りないか、また、どういうことを覚えたい等の意欲を持っている方だと思います。逆に伸びない方というのは今の状況に甘んじているというか、目標がなかったりする方だと思いますね。

      ただ、それは仕方ないことだとは思うんです。みんながみんな将来的にこういう風になりたいと目標を持っている人かというと、あまりいないと思うんです。僕も若い時は何をやっていいのか分からないときはありましたし、本当に何となくの目標でしかないこともいっぱいあったので。

      ただ、人それぞれ仕事の能力も考え方も違うんですけれども、仕事上で何か、例えば会社だったり社会に貢献したいとか、広い目で物事を見れる人の方が伸びるのかなという感じはします。狭い部分だったり、自分の事だけだったり、身近な何人かのことしか考えられないと、それ以外のことは考えられなくなってしまう。そして、その状況に慣れてしまうと成長もストップしてしまうと思います。

      ────目的や目標をみつけることは人が成長する上で、非常に重要なんですね。

      そうですね。なので僕は、人を面接をする時とかには、まず店で何が出来るのかではなく、何がやりたいかを聞きます。なんでもいいと思うんですよ。僕はピッツァを習いたいからピッツァをやりたいとか、お客様と話すのが好きなので、お客様に幸せをとか、ワインを覚えたいとかいろいろあると思うんですよね。そのやりたいことを聞いたときにそれがある程度あれば、仕事をちゃんと覚えていってもらって、伸ばせると思うんです。

      現場では仕事をしてお金をもらえる以上に、仕事に対してどういった考えを持って取り組むかが大切だと思うんです。仕事に対してのやりがいだとか、向上心とか、そういったものを持っている会社ってどんどんどんどん伸びていると思うんですね。それはやはりそういう人財がいるからだと思うんです。

      ────最後に寺床さんの今後の夢をお聞かせください。

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      今後は、50歳を過ぎた位までには、いろいろとやれることを増やしたいなと思っています。イタリアへも行ったり来たりもしたいというのもありますし、現在お店は一店舗でやっていますけれども、違う形で自分が居なくても出来るような仕組み作りをしたいとか。それ以外にも考えがあって、今後もやりたいことはたくさんありますし、目標もあります。でも、身体は一つですからね(笑)

      ただ、今はここがオープンしたばかりで、1年半しか経っていないので、ちゃんと会社としてというかお店としてしっかりと固まればと思っています。

      ────現在、オープンから1年半ですが、毎日かなりの予約が入っておられますよね。それは、寺床さんの思いや考えがお客様にしっかり届いているからだと思います。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

      インタビュー後記

      寺床さんはお話の途中で、「周りの人に支えられ、応援されて今がある」という言葉を何度も繰り返していました。それは、イタリアでの修業時代や、お店がオープンしてからも実際に多くの人に助けられてきたからだといいます。 "何かあった時に、自分を助けてくれる仲間"この存在は非常に大きいと思います。 しかし、誰もが助けてもらえるわけではありません。普段の物事への取り組み方、対応の仕方、また行動や言動など周囲の人は良く見ています。 ピンチの際にどれだけの人が「あなたの力になりたい」と言ってくれるか・・・。それは、常日頃の自分への評価だと思ます。 評価を気にして行動するというわけではありませんが、寺床さんのお話を聞き、改めて自身の普段の在り方を考えさせられました。

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      聞き手:OBT協会  伊藤みづほ

      OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。