現場ドキュメント: 2008年3月アーカイブ

さまざまな企業がカンパニー制に期待するのは、
これまでに組織の限界を打破したいと考えるからです。

カンパニー制組織は、事業部制組織をさらに分化発展させた組織形態です。
カンパニー制組織は、あくまでも一つの会社の組織ですが、社内的な基準を設けて
社内だけで通じる別会社組織として運営されます。
資産や利益等を明確に分けるところから、通常の事業部制に比べて責任が明確に
なります。
このようにして組織の独立性が高まっていくことは、人事戦略面からみれば、人事・
貸金体系の相違や慣習の相違などからくる無用の摩擦を回避する効果や、特に、
本業への直接的な影響を回避する効果が期待できます。

一組織であると人事、賃金体系について一定の制約を受け、有能な人材を確保する
ことが困難な場合、組織の独立化によって、賃金の決め方や賃金水準を変えたり、
年功序列重視と業績重視の両立も容易になることなどが考えられます。

具体的には、適切な業績管理制度を整備すること、およびコミュニケーション
プログラムにより、社員のモラール向上を図っていくことが必要です。
特に経営を実際に実行していく「人」に関しては以下の点に考慮する必要があります。

①パフォーマンスの良否を測定・評価する仕組みが必要であり、それらの評価基準は
  グループ/カンパニーの経営目標とリンクしたものでなければなりません。
②カンパニー制導入は従来の管理スタイルからの大きな転換ですから、変化に対する
   「抵抗」と戸惑い」が必ず伴います。それらを最小限にするために、社員とのコミュニ
   ケーションの向上に努めることが大切です。
③各カンパニーの経営を実行・管理していく経営幹部クラスの人材が非常に重要です。
  カンパニー制は、組織の活性化の面から事業部制よりは経営者意識の醸成、意思
  決定のスピードアツプにはなりますが、あくまでもバーチャルな(仮想)分社です。

当然次の進化形態として、名実ともに分社化し、本社がその株式を保有して全体的
戦略と全体的管理を行うという持ち株会社制になります。

一般に言われている分社化のメリットには次のようなものがあります。
①分権化の推進
  分社化されると独立した法人として決算が行われ業績管理が徹底されます。
②コスト削減
  別会社となることで親会社と異なる人事・賃金体系を採用しやすくなり、人件費を
  削減することができます。
③意思決定の迅速化
  企業規模が縮小し、経営の効率化が図れるということが指摘できます。
④事業リスクの遮断
  本業とは異なる新規事業を展開するときに、リスクを遮断できるという効果があります。
⑤雇用の受け皿
  中高年の雇用の受け皿として子会社が活用できます。

一方、分社の最大の問題点は、分社化のデメリットとして、
①統一された理念と経営戦略のもとに各事業を遂行することが難しくなります。
②セクショナリズムに陥りやすく、相互の人事ローテーションが難しくなります。
③管理・間接部門の経費が増え、資金管理を集中しないと資金の回転が悪くなります。
  また、子会社の意思決定に親会社が嘴をはさんだり、子会社の経営者に十分な
  経営能力が備わっていない場合には、別会社化したメリットは発揮されません。
  分社化したものの思ったような効果がなく、本体への吸収、子会社同士の統合、清算
  などに追い込まれるところも少なくありません。
                                    
以上


日本において初めて事業部制を採用した会社は松下電器と言われています。

1993年に、工場群を3つの「事業部」に分け、ラジオ部門を第1事業部、ランプ・
乾電池部門を第2事業部、配線器具・合成樹脂・電熱器部門を第3事業部とする
製品分野別の自主責任体制を敷きました。
この事業部制の狙いについて、創業者で発案者でもある松下幸之助氏は、
「自主責任経営の徹底」と「経営者の育成」の2つがあると指摘しました。

事業部制は、この2つの面でその真価を発揮し、松下電器が今日の大をなす
要因となりました。
事業部制とは、「一つ一つの事業部と称される単位が、製品別、地域別などの
単位に分化して、それぞれがどれだけの利益を上げねばならないかという利益
責任をもった組織単位(プロフィットセンター)から構成される経営組織」のことです。
言い換えると、同じ一つの会社の中に収支も別、決算も別、資産も別々に持つ
という独立したいくつもの会社が、できているようなものです。
まさに、それぞれの事業部が、「自主責任経営」を行っていく組織と言えます。

一般的に、企業規模が大きくなると、その弊害が認識され、事業部制を採用し、
事業部内で自己完結的に職能を満せるように、また顧客に近いところで迅速に
意思決定し、小回りを利かせられるようになり、さらにそれが進むと社員一人
一人が「一人事業部」になるという発想が求められます。

組織運営上、特定の職能を担うことが中心業務になるとしても、自社の行って
いる事業及び業務全般についての自己完結的な知識は求められます。
顧客や外部の視点から見れば、企業の社員が顧客あるいは外部に接する時、
その社員は対外的にその企業を代表していることになります。
その意味では、社員一人ひとりが「部門経営者」に育っていく仕組みである
ということです。

「経営者の育成」という観点では、松下幸之助氏は『経営百話』の中で、
「ある人になにか仕事を任せる場合、適切かどうか色々あるがまず60%
やったら任せる。80%やったらいいけれども、それでは遅いし人は育たない」と
いっています。

人材育成は、中小企業においては悩みの種です。特に、競争心や目標を
持たせるのが難しいという点です。たしかに、中小企業では、若くても大きな
仕事を任せられるという人材育成上の利点もありますが、人材の絶対数が
不足しているため、競争が起きにくいからです。
大企業なら、能力不足を露呈すると、自分にとって代わる人材が社内にいくら
でもいるという危機感が、社員間の競争心につながっています。
しかし、中小企業の場合は一人一人の重要性が大企業以上にあるため、
たとえのらりくらりと仕事をしていても、会社は自分をはずせないはずだという
計算が社員に働きます。

問題は、各人材を特定の職能に限定してしまうところにあります。
より多くの人材が、より多くの職能に通じるようになれば、「切磋琢磨」の
仕組みが整っていきます。
中小企業では、事業部制という組織体制にするには規模的に問題が
ありますが、むしろ「一人事業部制」という発想で、各人の職能編成を
考えてみるということはできるのではないでしょうか。

事業部制型人材育成を、中小企業の人材育成に生かすことはできます。

以上

On the Business Training 協会  栗田 猛




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