現場ドキュメント: 2007年4月アーカイブ

人件費予算が、適正に策定されるためには、さまざまな情報が必要である。
前回のスーパーマーケットの事例でいえば、次のような情報がないと、年間の労働量と人件費の計算は難しい。

1.どのような作業が発生し、誰にどのような仕事をさせているのか?
2.実際にどのような作業が、何時間行なわれたのか?
3.従業員への1時間あたりの支払い金額はどのくらいか?
4.正社員、パートタイマー、アルバイター別の人時・人日はどうなっているのか?
5.人時・人日の月間、四半期集計はどうなっているのか?
6.タイムレコーダーの実績と、人時データの照合、検証結果はどうなっているのか?

等である。
たとえ、これらが把握できたとしても、あくまでも実績であり、過去のデータである。
それに基づいて、人件費を予算化したとしても、結果的には、経営計画が達成できなければ総額人件費を事後的に調整するということをやらざるを得ない。

これは、いわば「人件費対処」であって「人件費管理」とはいえない。
「人件費管理」は計画された対応であるが、「人件費対処」は単なる急場しのぎにすぎない。
それでは、本来の人件費管理とはどうあるべきなのか?
その一つとして、トータル・コンペンセーション(Total Compensation)というコンセプトによって人件費を管理するという考え方がある。

トータル・コンペンセーションとは、給与・賞与等の「報酬」と退職金・年金を含む「福利厚生」を「従業員に対して発生する費用」として一括管理し、その最も効果的な配分比率を考えるというものである。
これは、アメリカの企業で行なわれている考え方であるが、日本企業においても、退職給付会計の導入や社会保険料の引き上げ等により、総人件費に占める退職金・年金や法定福利費の割合は年々高まっている。

適正な人件費配分を通じて処遇制度全般に対する従業員の満足度を高め、従業員のやる気を十分に引き出すため、「トータル・コンペンセーション」の観点から報酬制度・福利厚生制度を見直すことが求められている。
実際、時間外手当や賞与・一時金、退職金などは、所定内賃金がベースとなって決められることが多い。

したがって、賃上げにより所定内賃金が上がると、それに伴いこれらの費用も上がるため、総額人件費は所定内賃金の上昇分以上に上がることとなる。
最近の厚生労働省の調査資料によると、所定内賃金を1とした場合の総額人件費は約1.7倍となっている。

経団連では、企業が安定的な成長を確保しながら、従業員に対して無理なく人件費を支払うという意味で、自社の「支払能力」を重視するよう提唱している。
企業にとって、中長期的な経営目標や具体的な計画が、結果として実現できるような人件費の支払能力が維持されることが重要である。


On the Business Training 協会  栗田 猛


*続きは後編でどうぞ。
  予算化された人件費管理で業績連動型へ③

「総額人件費管理の徹底」と言われて久しい。
2007年の春季労使交渉は、主要企業の速報結果(日本経済新聞3/29)によると賃上げ率(月例給与の上昇率)は前年比0.04ポイント高い1.83%となっており、3年連続で前年を上回った。
また、年間一時金(ボーナス)では平均支給額が同3.63%増えた。
その結果、今春の労使交渉では自動車など大手企業のほか、中堅・中小企業でも賃上げが実現しており、賃金の上昇傾向が鮮明になってきた。

これまで、総額人件費管理に関しては、賃上げを抑制する時代にその必要性が求められていたが、賃上げやベアが行われた時機こそ、検討すべき課題である。
加えて、総額人件費管理の概念や理解にバラツキがあり、実際にどのような取組みがなされているかも意外に知られていないのが実情である。
そもそも「総額人件費管理」とは何か、現実にどのような手法があるのか、あるいは総額人件費管理を実践する上での阻害要因など、この機会に、企業経営における、総額人件費のあり方を考えてみよう。

現在、多くの企業では「予算制度」が導入され、年度予算が立てられている。
上場企業は当然のこと、中小企業でも予算は大切なものである。
特にキャッシュフロー経営(キャッシュの最大化を意思決定の基準とする経営)の浸透に伴い、多くの企業で予算の重要性は増している。
予算をベースに行われる企業活動では、まず売り上げ目標・見込みを立て、その目標を達成するため必要なリソースを試算し、人件費、調達費、販売活動費などの必要経費を算出する。
こうして算出された「必要経費」が部門ごとの予算となり、企業はこの予算の枠内で事業を遂行していくことになる。

特に人件費は、人事部が一括で管理するケースや、各事業部署に割り振られるケースなどさまざまであるが、人件費予算によってその企業が1年間に社員に支給できる給与総額や1年間に採用できる人数は決まっていく。
しかし、この人件費予算は果たして適正なのだろうか?
人件費予算を、組むためには少なくとも必要人員計画が必要である。
一般的に、企業は正社員、パートタイマー、アルバイターなどを雇用している。
ちなみに、1日50人が働くスーパマーケットでは、年間に350日営業すると、1年に必要な総労働量は17500人日(人日:ある業務を行う際に1日あたりに必要な人数)
1日1人が8時間勤務するとすれば14万人時(時間:ある業務を行う際に1時間あたりに必要な人数)となる。
年間総労働量から正社員が行う業務量を除いた不足分をパートタイマーやアルバイターが補う必要がある。
しかし、そもそもの年間総労働量の計算は複雑である。
その複雑な計算をきちんと行って、人件費予算は策定されているのだろうか?


On the Business Training 協会  栗田 猛


*続きは後編でどうぞ。
  予算化された人件費管理で業績連動型へ②

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