OBT 人財マガジン

2007.04.25 : VOL21 UPDATED

人が育つを考察する

  • 予算化された人件費管理で業績連動型へ②

    人件費予算が、適正に策定されるためには、さまざまな情報が必要である。
    前回のスーパーマーケットの事例でいえば、次のような情報がないと、年間の労働量と人件費の計算は難しい。

    1.どのような作業が発生し、誰にどのような仕事をさせているのか?
    2.実際にどのような作業が、何時間行なわれたのか?
    3.従業員への1時間あたりの支払い金額はどのくらいか?
    4.正社員、パートタイマー、アルバイター別の人時・人日はどうなっているのか?
    5.人時・人日の月間、四半期集計はどうなっているのか?
    6.タイムレコーダーの実績と、人時データの照合、検証結果はどうなっているのか?

    等である。
    たとえ、これらが把握できたとしても、あくまでも実績であり、過去のデータである。
    それに基づいて、人件費を予算化したとしても、結果的には、経営計画が達成できなければ総額人件費を事後的に調整するということをやらざるを得ない。

    これは、いわば「人件費対処」であって「人件費管理」とはいえない。
    「人件費管理」は計画された対応であるが、「人件費対処」は単なる急場しのぎにすぎない。
    それでは、本来の人件費管理とはどうあるべきなのか?
    その一つとして、トータル・コンペンセーション(Total Compensation)というコンセプトによって人件費を管理するという考え方がある。

    トータル・コンペンセーションとは、給与・賞与等の「報酬」と退職金・年金を含む「福利厚生」を「従業員に対して発生する費用」として一括管理し、その最も効果的な配分比率を考えるというものである。
    これは、アメリカの企業で行なわれている考え方であるが、日本企業においても、退職給付会計の導入や社会保険料の引き上げ等により、総人件費に占める退職金・年金や法定福利費の割合は年々高まっている。

    適正な人件費配分を通じて処遇制度全般に対する従業員の満足度を高め、従業員のやる気を十分に引き出すため、「トータル・コンペンセーション」の観点から報酬制度・福利厚生制度を見直すことが求められている。
    実際、時間外手当や賞与・一時金、退職金などは、所定内賃金がベースとなって決められることが多い。

    したがって、賃上げにより所定内賃金が上がると、それに伴いこれらの費用も上がるため、総額人件費は所定内賃金の上昇分以上に上がることとなる。
    最近の厚生労働省の調査資料によると、所定内賃金を1とした場合の総額人件費は約1.7倍となっている。

    経団連では、企業が安定的な成長を確保しながら、従業員に対して無理なく人件費を支払うという意味で、自社の「支払能力」を重視するよう提唱している。
    企業にとって、中長期的な経営目標や具体的な計画が、結果として実現できるような人件費の支払能力が維持されることが重要である。


    On the Business Training 協会  栗田 猛


    *続きは後編でどうぞ。
      予算化された人件費管理で業績連動型へ③