現場ドキュメント: 2011年4月アーカイブ

今回の現場ドキュメントは、前回に引き続き、
「変革」をテーマに実施したプロジェクトをご紹介します。

後編では特にトレーニングを通じて、参加者がどの様に気づきを得たかについて
お伝えします。


● トレーニングの目的と5つの訴求点

トレーニングの目的を「10年後、当グループが生き残るために」という一点に絞り、
次の5つの訴求点で構成しました。

【10年後、当グループが生き残るために】

テーマ① 変化
テーマ② 企業の成長と衰退
テーマ③ 当グループの将来像の検討
テーマ④ 当グループの現状と課題
テーマ⑤ 変革に向けて

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※実施した内容全てをご紹介する事はできませんので「参加者の気づき」と言う観点から、
 成果に繋がった上で、重要となったポイントをご紹介したいと思います。


● 人は現状を認識して初めて変化(=学習)する

「人は新しい知識を得たから変わるのではなく、自分、自社のおかれている現状を
  認識する事で初めて変化(=学習)する」

このことを多くの企業では理解していない、または実践できていない様に思います。
というのも「新しい知識をインプットすれば社員が変わる」という傾向が、
未だに強いからです。
最新のビジネスフレームワークや、先進企業の事例を知れば、
社員がそれを実践してくれる訳ではありません。

厄介なのは、人は誰しも「見たい現実しかみていない」と言う現実。
 
外部が入る価値は「見たくない現実をどれだけ、納得性を持って、
参加者に受け入れてもらえるか」と言う点が非常に重要となります。

例えば、今回のトレーニングに向けて、私どもでは事前に同社及び、
同社が取り扱う製品に関する、市場調査を実施しましたが、結果は、
参加者が思っていたものとかけ離れたものでした。
 
業界シェアではトップ3に入る同社ですが、調査結果を題材に、
トレーナーと議論を交わす中で、次の様な事を、参加者は学び取っていきます。

・ 「我々は『ブランド』と思っていたが、消費者は全くそのようには感じて
  いない。そもそも『ブランド』自体に関心が薄れてきている」
・ 「自社製品が他の機能を持った商品に代替され始めている」
・ 「『良い商品を作れば売れる』という考え自体、時代錯誤」
・ 「当社の製品は『技術は優れている』という回答が多かったが、
  技術の標準化が起きる中で、これからも競争優位性として捉えるのは危険」
 
人が学習する上では、見たくない現実を直視する事が欠かせませんが、
成功体験を持っていればいる人ほど、これを拒みます。

顧客企業の現実の課題について議論を繰り返す中で、
「参加者自身が固定概念を打破していける環境」を作り出す事に、
トレーナーが介入する価値があるのです。


● 「当事者」を育成する

グループ、自社の課題が見えてきた後、問題となるのが「これは誰の問題か」という事です。

・ 「今までの会社の体制が悪かったから...」
・ 「上司に言っても、結局聞き入れてもらえないんじゃないかな...」
・ 「それはわかるけれども、実際問題、うちでは難しいのでは...」

議論が進むうちに、この様な会話も聞こえてきます。

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「しかしながら、その様な問題を感じ取っていたにもかかわらず、
行動しなかった、放置していた我々自身には、本当に問題はなかっただろうか」

と言う投げかけをしていくうちに、参加者は、問題の原因の矛先を、
自分自身へ向ける様に変化していきます。

「自社の課題を上げて下さい」というと、
ホワイトボードを埋め尽くすほどの意見は出ますが、
「それを解決するのは誰ですか」と言う投げかけには皆が皆口を閉ざします。

「意見はあっても意志がない」
トレーナーの一言に、参加者は我が身を振り返ります。

終盤に近づいたとき、参加者から印象的な発言が出ました。

・ 「今まで、私は言葉では格好よく『今のままではダメだ』『改革が必要だ』と
  言っていましたが、自分で自分の体にメスを入れて、
  痛みに耐える勇気がありませんでした」

「我々が立ち上がれば、時間はかかっても、必ず自体は好転する」
今まで多くの変革に携わってきたトレーナーが、参加者の可能性を信じて、
真剣に議論を重ねていくと、参加者に当事者としての意識が芽生えていきます。

まとめ


二回に分けて「若い力が変革を担う」と言うテーマでお届けしましたが、
日々多くの企業に御伺いする中で、この必要性はますます高まっている様に感じます。

日本の経済状況、社会情勢を見て暗澹たる気持ちになるのは仕方がありませんが、
しかしながら、これを背負って生きていかなければならない現実があります。

こういうときだからこそ、グループ(会社)全体、事業全体を見渡せるシャープな思考と、
現状を打破していくために具体的に行動していけるパワーを持った、
「若い力」に投資する事が必要なのではないでしょうか。


● 最後に...

本トレーニング終了時に、ある参加者が、他のメンバーに発したメッセージが
とても印象的だったので、それをご紹介して、終わりたいと思います。

・ 「皆さん、聞いて下さい。今回、選抜"若手"トレーニング、と言う事で、
  自分も参加しましたが、私が今回、最も学習した事は、
  『もう若手と言う意識を捨てなければならない』と言う事です。
  中堅社員として、当事者として、会社を改善していく動きの
  担い手にならなければ行けないのだと、感じています。
  これを機に、グループ各社間の人的な繋がりを増やし、
  会社をよりよい方向へ向けてムーブメントを起こせる様に、
  連携を深めていきましょう」

今回から二回、今年2月から3月にかけて「変革」をテーマに実施した
プロジェクトをご紹介します。


● 導入背景

◇「旧態依然の企業風土を変革していきたい」というご要望からスタート
・ ご依頼いただいたのは「経営体制が変わった事を契機に、今迄の旧態依然とした
 企業風土を変革したい」ということでした。
 「いい商品を作れば売れる」「ブランドがあれば信頼される」といった、成長期のパラ
 ダイムを脱し、グループの存続をかけて「変革」に向けた取組みを実施していきたい、
 というご相談から始まりました。

◇変革を託されたのは20代~30代(若い力が変革を担う)
・ 「変革の担い手」として白羽の矢が立ったのは入社5年~10年の若手-中堅社員。
 「何故、この世代なのか」その理由は大きく分けて二つあります。

①現在の競争環境は誰も経験した事がない
・ 「価格下落」、「利幅の減少」、「縮小し続ける市場」-経営陣ですら経験したことの
 ない市場環境下での競争を企業は強いられています。
 企業が生き残るためには、かつての成功体験に縛られずに、柔軟性を持って新たな
 発想ができる人財を次代の経営リーダーとして早期に育成する事が重要となります。

②リスクをとって行動できる
・ 新しい事に挑戦する事はリスクを伴います。何かを変える際には、
 「余計な事はするな」等と現状維持派、古い体制との軋轢は避けられないからです。
・ そこで重要なのが「リスクをとって変革を推進していける人」の存在です。人の心理
 として当然ですが、残された時間(会社人生)が短ければ、どうしても保守的になり、
 リスクが少ないことを考えてしまいます。
 これから20年、30年と長い時間働く人間だからこそ、リスクをかけて、「自分の城を
 自分で守らなければならない」必然性があるのです。


● 本トレーニングのポイント (何故、上手くいったのか)

結論からお伝えすると今回のトレーニングは、有難い事に高い評価を頂きました。
そこで先に「何故、上手くいったのか」というポイントをお伝えしたいと思います。

①全体像を描き、課題を明確にする
・ 多くの企業では、教育施策を導入する際、「本当に解決すべき課題は何か」という
 本質的な議論を行わないまま 「安くていい研修」という抽象的なレベルで「研修商
 品」を選択し、結果的に失敗しています。
・ 最も重要なのは、「本当に解決すべき課題とその関係性を明らかにする事」、つまり、
  全体像を描く事だと私達は考えます。
  このプロセスを経なければ、「我が社の課題」とかけ離れたところで、「研修」が繰り
  返され、無駄足に終わってしまいます。
・ 今回の案件でも、企画担当者様と何度も何度も議論を重ね、まずは課題の明確化と
 全体像を描く事から始めました。

【浮かび上がった課題】
 ◇ 企業風土が旧態依然。高度成長期から考え方が変わっていない。
 ◇ 経営方針、中期経営計画が浸透していない
 ◇ HDの体制が機能せず、事業会社が孤立(グループシナジーがない)
 ◇ 現場は沈滞化し、離職者もでている 等々
 → 先陣を切って変革に取り組むリーダーが不在

②トレーニングの目的を明確にする
・ 次に重要なのが「今回のトレーニングを通じて何を実現するのか」という目的をはっきり
  させることです。
  教育施策の実効が上がらない場合、大抵は「何のために」という目的が曖昧です。
・ また、目的を絞るためには「できること」「できないこと」の線引きが重要となります。
 『外部でできる事・Off-JTの有効性/限界』、
 『社内で取組まなければならないこと』等をはっきりさせ、
 『成果を上げるための条件』を共有する事が大切です。

【本案件の目的】
 ◇「10年後、当グループが生き残るために」-変革を推進していくリーダーの育成
  上記実現に向けて本プロジェクトでは以下の三つを醸成する
 ① 危機意識 
 ② 変革に向けての当事者意識   
 ③ 事業会社を超えたネットワーク 

③どの様にトレーニングを行うか
・ 後はトレーニングですが、こちらは、次回後編で「参加者の反応や変化」と併せて、
  お伝えしたいと思います。


後編も是非、ご覧ください。


■今回の記事に関連する情報

・OBTの考え方・手法 http://www.obt-a.net/about/index.html
・経営戦略としての次世代リーダー育成と企業風土改革(OBT協会のセミナーより)
・風土改革を成し遂げた企業様にインタビュー
  強い企業をつくる──21世紀型のビジネスモデルを確立する"創造的改革"
  株式会社菱食/代表取締役社長 中野勘治様

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