OBT 人財マガジン

2007.05.30 : VOL23 UPDATED

OBTカフェ

  • 気づき

    あらゆる事柄について、見方を変えて多角的に考えなくてはいけないと、頭ではわかってはいるものの、自分でも気づかないうちに勝手に決め付けてしまっていることはたくさんある。
    そういった固定観念や先入観が打ち破れたとき、自分はどうしてそんな風にしか考えられなかったのだろうと恥ずかしい気持ちになる。しかし簡単には受け入れられないし、受け入れたくないという気持ちにもなってしまう。反面、何かから開放されたような安堵感も感じる。

    愛知県のホームレスの実態調査によると、4年前に比べてホームレスの数が現在半減しているという。4年前2121人であった愛知県のホームレスの数は現在1023人。名古屋市だけで見ると、1788人から741人まで半分以下になっている。これは、自治体によって多くの自立支援施設が設置されたためだと考えられる。

    僕は今まで、日本のホームレスは自分に甘えているだけだと思っていた。ただ働きたくないだけなのに、全て社会のせいにして、楽しているだけだと思っていた。子供のための公園なのに、ホームレスがいるため子供どもが怖がって遊べないところだってある。
    その気があれば仕事なんていくらでもあるのに、と勝手に決め付けてホームレスの人達を軽視し、偏見の目で見ていた。

    しかし、働きたくても働けない人がたくさんいることを知った。というより、チャンスさえあれば精力的に働く人がたくさんいることを知った。
    自分に偏見があったことをとても恥じた。そのきっかけになったのが、ビッグイシューの存在だった。
    今年の1月まで2年間ブラジルにいたこともあって、僕は最近までビッグイシューの存在を知らなかった。名古屋に来てその存在を知って、すぐに買いに行った。営業に行く途中で時間がなかったので、さほど話を聞くことができなかったが、話しかけると気さくに答えてくれた。ほとんどの人が彼を無視して通り過ぎていく中で、両手で雑誌を高く掲げ、懸命に売っている彼の姿を見て衝撃を受けた。

    ビッグ・イシューとはホームレスの社会復帰に貢献することを目指して、イギリスを発祥に世界で発行されている雑誌のことである。ホームレスの人の表現活動に重きをおく雑誌ではなく、誰もが買い続けたくなる魅力的な雑誌をつくり、ホームレスの人たちにはその雑誌の販売に従事してもらうというポリシーで、1991年にロンドンで創刊され、その結果、大成功を収めた。
    日本では英国ロンドンで初めて『ビッグイシュー』が発刊されてから12年目の2003年9月11日創刊が始まった。

    僕はこの約1ヵ月半の名古屋での営業研修で多くのことを学んだ。営業のスキルばかりでなく、仕事に対する姿勢や、一緒に仕事をしていく仲間の大切さなど、たくさん。
    その中で最も強く感じたことは、『色々な人がいて、色々な考え方を持っている。』という誰もが知っている当然のこと。

    この1ヶ月半の間に50社近い会社に訪問したり、同行させていただいたりした。飛び込みをあわせると200社以上の企業へ訪問した。今までこの短期間に、これほど多くの人に出会ったことはない。それに、お話をさせていただくのは僕よりもずっと社会人経験の長い大先輩ばかり。経験も知識も豊富で、お話をさせていただくだけでも勉強になった。新人の僕のつたない説明にも真剣に答えてくださり、励ましの言葉をかけてくださる方も何人もいた。そういった人の優しさに触れることによって、幾度となく勇気付けられた。

    しかし、そういった人ばかりではない。厳しい方も多く、なかなか上手くいかないこともたくさんあった。むしろそのほうがずっと多かった。
    当然未熟な僕に原因があるのだが、先方に固定観念や先入観があるとすれば、僕はそれを打ち破って気づきを与えられるようにならなくてはいけない。

    僕自身、営業をしたこともないのに、学生時代は楽しい営業職なんてないと思っていた。しかし、実際社会に出て仕事をしてみると、とてもやり甲斐があり、楽しい。
    ホームレスになったこともないのに、ホームレスの人たちは自分に甘えているだけだと思っていた。そんな風に考えていた自分が恥ずかしい。

    自分が今いる状況によって考え方や見方が全く違ってくる。
    逆に言えば、自分のいる立場以外のことに関しては、どの立場から見ているのか自分でも本当は分かっていないのではないかと思ってしまう。だからこそアンテナを高く立て、多くの情報や人の意見に柔軟に対処しなくてはいけない。

    見方を変えるのはそんなに簡単なものではない。自分の「考え」が「固定観念」になってしまわないように心がけなくてはいけないと思った。
     
     名古屋での営業研修も今月一杯で終わる。ここで学んだことや感じたことの多くをこれからの人生にいかしていきたい。


     OBT協会 伊藤誠司