OBT 人財マガジン

2010.09.08 : VOL99 UPDATED

OBTカフェ

  • "和"の心

    社訓――それは、企業が自らの向かうべき方向を示す指針。社員たちはその訓えに
    倣い、組織のカラーへと染まっていく。

    帝国データバンクによると、4,000社の長寿企業を対象にしたアンケートで、約8割もの
    老舗企業が「家訓や社訓、社是がある」と回答したという。そして、その多くが創業当
    時の社訓を変えることなく、今なお大切に守り継いでいる。

    老舗企業の共通点は、訓えの存在だけではない。私の知る限り、その内容もまた実
    によく似ている。一つ目は、「人に対して"誠実"であれ」ということ。「人を敬い、言葉に
    は気をつけよ」「人を軽んじて威張ってはならない」といった、人を大切にする精神を説
    く内容のものは群を抜いて多い。老舗の密集地域である東京・日本橋エリアや企業
    寿命の長い京都にもまた、客や職人、取引先や仕入先の感謝の気持ちを諭す内容の
    訓えが多く見られた。二つ目は、「本業に真面目であれ、ほかの事業には手を出すな」
    という謙虚な経営姿勢だ。「副業におぼれず、身の丈にあった商売をせよ」と訓えてい
    る企業も非常に多く。三つ目の「勤勉、倹約」といった欲におぼれない慎ましい精神を
    説く内容の訓えとリンクする。

    それでは、大企業と呼ばれる現代の企業はどうか。気になって100社ほどの社訓一覧
    を調べてみると、そこにもある共通点が見られた。キーワードは『発展』と『挑戦』。企業
    がさらなる発展を遂げるために「努力し続けろ、全力で頑張れ!」といった、アグレッシブ
    な内容のものが非常に多く見受けられた。「自分たちのサービスや製品で社会に『貢献』
    する、といった使命感のようなものを掲げている企業もまた、実に多い。

    おもしろいのは、これは『老舗』の訓えとよく似ているなぁと思ったところが皆100年企業
    であったということだ。例えば「誠意は人の道」「礼儀は美」と説くシャープ、「人に信を得
    る最善の道は自ら誠をもって実行すること」と訓えるコクヨ、「先義而後利者栄(義を先に
    し、利を後にする者は栄える)」と掲げる大丸など。人を敬い、自らを律する姿勢や欲にお
    ぼれない慎ましやかな精神に、古きよき日本の魂のようなものを感じてしまうのは私だ
    けだろうか。例えば、「人間尊重」「常にお客様の立場に立ち~」といった現代の訓えと
    は、表現は似ているが根本的な精神が全く異なるのである。

    もちろん、時代には変化というものがあるので、社訓の傾向に変化があるのも当然のこ
    とだ。厳しい現代の競争社会を勝ち抜くためには、強い危機意識と向上心は欠かせな
    いものだろうし、もしかしたら、そういう企業でなければこれから先の100年を生き残るこ
    とはできないのかもしれない。それでもなお、日本人が古くから大切にしてきた"和"の心
    を、忘れてはいけないような思いに駆られてしまうのである。世界を圧倒する長寿の秘訣
    には、日本人が大切にしてきた"和"の心にもあるのではなかろうか、と。

    競争に追われ、合理化が進む現代に、日本人の"おくゆかしき心"はどれほど残されてい
    るのだろう。今の日本に、100年続く企業は一体どれくらいあるのか――。