OBT 人財マガジン
2010.10.13 : VOL101 UPDATED
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過酷な環境で育ったトマトは甘い実を付ける
先日、ある料理人の方に話を伺う機会があった。無添加の調味料や無農薬の野菜をはじめ、肉や魚、卵にいたるまで、食材選びには強いこだわりがあることで知られている方だ。彼のすごいところは、サンプルなどは決して取り寄せないということ。どんなに遠くても必ず現地まで足を運び、自分の目で確かめ、自分の舌で味わい、自分の耳で生産者から直接話を聞くという。「料理を作る人間というのは、生産者が作ったものを消費者に届けるつなぎ役。生産者の努力や食材のおいしさを、調理というひと手間を加えて消費者に伝える伝道者である」という考えから、「どんな思いで、どう作られているのか」を知るために、畑や漁港はもちろんのこと、例えば扱う食材が『鰹節』であれば、削るところまですべて見学をするのだそうだ。食材を何よりも大切にしているその店では、小魚一匹、ネギの根ひとつも捨てることがない。「おいしいものをいただく、ということは、命をいただくということ」。その言葉が胸を突いた。有機野菜について及ぶと、興味深い話を伺うことができた。「農薬を使っている野菜は、無農薬の物に比べて治癒力が弱い」というのだ。人間でも「薬を多く服用していると、免疫力が低下する」という話をしばしば聞くが、それは野菜でも同じことらしい。例えば、農薬をたっぷり使ったネギは、無農薬のものとは対照的に、常温で置いておくとすぐに"溶けて"しまうのだという。農薬を使ったジャガイモと有機栽培で育てたジャガイモをそれぞれ水の入った瓶に入れておくと、農薬を使ったジャガイモは水ごと腐ってしまうが、有機栽培で育てられたものは、何年も原型を留めている、という話にも驚いた。農薬や肥料に頼っている野菜は、腐るのも早い。病気や害虫から身を守るための薬が、野菜の持つ自然治癒力を奪ってしまうというのは、なんとも皮肉な話である。過酷な環境で育ったトマトは甘い実を付けるというが、人間もまた然り。苦労や試練を乗り越えた後に大きな成長があるというものだ。また、食材の力強さは味の濃さにも関係する、とも。例えば、通常ならニンジン10本を使わないと味が出ないものでも、味の濃い食材であれば2本ぐらいで済んでしまうこともあるという。聞けば、「仕入れ値が多少高くても使う量が少なくて済むため、結果的に安上がりになることもある」とか。これは、人財に関しても言えることなのかもしれない。同じ雇うなら"濃い"人財を雇いたいし、同じなるなら"濃い"人財になりたいものである。食糧問題や食の安全はもちろんのこと、仕事と向き合う真摯な姿勢や人財雇用・育成までもを考えさせられることになるとは!食材選びについて伺うつもりが、多くを感じる貴重な機会となった。