OBT 人財マガジン

2011.03.23 : VOL112 UPDATED

OBTカフェ

  • プラスαの武器で心をつかむ

    現在は地震の影響で休園中であるが、ディズニーランドのリピート率の高さは有名だ。
    この不況下においても、いまなお90%近くのリピーターを抱えているといわれている。
    客の心を虜にするディズニーランドの魅力とは何か。たとえば、数年ごとに登場する
    新しいアトラクションやシーズンごとに装いを変えるパレードなど、ファンを飽きさせない
    演出や戦略はもちろん素晴らしいが、一番の魅力は、私は、キャスト(従業員)のホスピ
    タリティにあると思っている。

    さまざまな著書の中でもキャストによる心温まるエピソードが多数紹介されているが、私
    の友人が、噂は本当かとこんなことを聞いてまわったという。「ダッフィーのぬいぐるみは、
    どこで買えますか?」。菓子を売っている人、掃除をしている人、アトラクションの案内を
    している人......ディズニーランドの園内で、出逢ったキャストに端から声をかけたそうだ。
    ダッフィーというのは、ディズニーシーに登場するクマのぬいぐるみをモチーフにしたキャ
    ラクターのことで、グッズ類もお隣のディズニーシーでしか購入することができない。この
    質問をあえてディズニーランドでしたところ、すべてのキャストが「ここでは販売していない」
    ということを即答し、販売していないことを丁寧に詫びたという。なんと、警備員のおじさん
    までもが、だ。すべてのキャストが、その事実を把握していたということに驚いたという。

    元々ディズニーランドが大好きで働いている方々がほとんどなのかもしれないが、"ファン
    なら知っていて当たり前"のひと言では片付けられまい。ここには、自分の持ち場の仕事
    だけをしていればいい、という姿勢のキャストがひとりとしていないのだ。マニュアルだけ
    ではなく、個人的にも施設のことを勉強しているのだろう。最高のおもてなしでゲストを
    迎え入れたい、という思いが皆から伝わってくる。「目の前にいる人の"困った"を解決し
    てあげたい」、「楽しい思い出をたくさん作って帰ってもらいたい」という気持ちが幾重に
    も重なって、"夢の国"というスペシャルな空間を作り上げているに違いない。

    訪れる者をハッピーな気持ちにさせるのは、ほかでもない、マニュアルを越えたキャスト
    のおもてなしの心ではなかろうか。この話を聞いて、ディズニーランドが稼働し始めたら、
    しばらくぶりにまた足を運んでみたくなった。

    震災の影響で経済活動の縮小が大いに懸念されるが、こんな時だからこそ、真のおも
    てなしというものを改めて考える必要がある。単なる商品やサービスの提供だけでは、
    もはやこの苦境は乗り越えられないであろう。お客様が望むこと、喜ぶこと、感動する
    ことは何なのか――。人の心をつかむプラスαの武器があれば、どんな時代であろう
    と必ず顧客はついてくるはずだ。いまこそ、企業としての真価が問われている。