OBT 人財マガジン

2010.07.14 : VOL95 UPDATED

人が育つを考察する

  • 第一回【自律型人財-前編】方向性を与え、信じて任せるマネジメントの下でこそ人は育つ

    • 「自ら課題を発見し、その課題解決に向け、周囲をリードしながら主体的に行動できる人財」。今、多くの企業がそんな"自律型人財"を求めています。どうすればそのような社員が育つのか。ヒントを求めて、現場で活躍する若手リーダーを訪ね、成長の軌跡を伺いました(聞き手:OBT協会 伊藤みづほ)

      シリーズ──「自律型の人財」の成長プロセスとは (第一回-前編)

       

      株式会社ベジテック 営業第3グループ課長
      大野真大さん(38歳)

      大野さんは、青果物商社大手のベジテックで新商品開発プロジェクトを担う若手リーダー。19歳で入社して野菜の配送担当からスタートし、大手スーパーから低迷していた注文拡大などの数々の偉業を成し遂げてこられました。何が大野さんに影響を与え、自律的な人財へと導いたのか。じっくりとお話を伺いました。

    • おおの・まさひろ

      1972年生まれ。中学・高校では野球部員として活躍し、高校卒業後に青果物商社の多摩サービス(現・ベジテック)に入社。配送担当、大手スーパーの営業担当を経て現職。「国産たけのこの水煮」など、新商品の開発プロジェクトのリーダーを務める。

      株式会社ベジテック http://www.vegetech.co.jp/

      青果物の大手専門商社。加工センターや流通センターを全国的に幅広く展開。産地開発にも積極的に取り組み、安心・安全で新鮮な野菜・果物を供給している。設立/1969年、資本金/4億3,750万円、従業員数/554名(臨時社員含、2010年4月1日現在)、売上高/542億円(2009年3月期)

    • 「お前は出世しろ」と上司に背中を押される

      伊藤 大野さんは、青果物の流通ビジネスにご興味があって入社されたのですか?

      大野 いいえ、まったく(笑)。本当は教師になりたかったんです。でも、高校の先生に「少子化で教員採用が減るから難しいぞ」といわれ、そうかとあっさり大学進学をあきらめて。たまたま、夏休みに多摩サービス(現・ベジテック)で荷物運びのアルバイトをしたら、ジュースはたくさん出るし給料もいい。こりゃあいいな、と。そんな安易な動機で(笑)、高校卒業後すぐに入社したんです。

      伊藤 仲卸は早朝からの大変なお仕事です。辞めたいと思ったことはありませんでしたか?

      大野 ありましたね。入社したらいろんな仕事ができると思っていたら、朝の2時半から野菜を仕分けてひたすら配送する毎日。最初のうちは、まあいいかと思っていました。でもあるとき、大手運送会社に就職した高校の同級生が、俺の倍の給料をもらっていることを知って。馬鹿らしくなって、親方(上司)にぶちまけたんです。「荷物を届ける仕事は同じなのに、給料がこんなに違うのはおかしい」と。そうしたらこう言われたんですよ。「そんな考えでいたら、世出(よで)になるぞ」と。

      伊藤 「世出」とはどういう意味ですか?

      大野 "ただ世の中に出ただけ"という意味です。出世の逆ですね。「目先の給料だけで比べるな。俺は勉強してこなかったからこうして配送担当をしているが、仲卸は物を売ってなんぼの世界だ。自分が担当を持って、商売をして初めて一人前とみなされるんだ。だから、一日も早く自分で売れるように頑張れ。そのためには、何をすればいいかわかるか。まずは、商品を知らなければ売れないんだぞ。だから、お前は今から勉強して出世しろ」と。親方は中学校の集団就職で来て、雪駄履きにダボシャツ。怖い人でしたが、俺はこの親方から人を思いやる気持ちや仕事に対する向き合い方を叩き込まれました。

      伊藤 「自分を超えろ」「世出になるな」というのは、なかなか言える言葉ではありませんね。その言葉は大野さんにとってどんな意味があったのですか?

      大野 そう言ってもらえることがすごくありがたくて、この言葉は今でも俺が頑張る土台になっています。プロジェクトに一所懸命に取り組んでいるのは、何も偉くなりたいからじゃない。親方に教わった「世出にはなるな」ということ。そのために頑張っているだけなんですよ。その後、親方のもとを離れて、入社3年目には大手スーパーの果物担当になるんですが、ここでもう一人、人生を左右する上司に出会うんです。

      上司の「好きにやってみろ」の言葉が、やる気と責任感を引き出す

      大野  大手スーパーを担当するという、チャンス到来の異動でしたが、担当初日にオンラインから流れてきた注文は1店舗から1ケースだけ。5店舗の受け持ちがあったにも関わらず、です。実は、前任者が不良品を納めたことがあって、取引停止寸前の状態だったんです。

      そこで、慌てて店回りを始めました。新しい上司からは「何を言われても、わかりましたと受けてこい。責任は俺が取る」と言われていたので、卸値が1ケース3500円のリンゴを2800円で納める契約をしてしまったんです。戻って報告したら、上司は「わかった。ついて来い」と。卸売市場に一緒に行ってくれて、「こいつの初仕事なんです。100円でも200円でもまけてもらえませんか」と、せり人に頭を下げてくれた。何て人なんだと。胸を打たれました。

      もちろんそれでも赤字でしたから、営業会議で「どうなってるんだ」と追及されて。そうしたら、俺が謝るよりも先に上司が「自分の責任です」と盾になってくれたんです。「まずはこいつの信用をつけなかったらどうにもならない。損してでも先方に顔を売ってこいと俺が指示しました」と。そんな生活がしばらく続きましたが、その間ずっと上司は、「この1年で、大野という人間をどれだけ売り込めるかが勝負だ。好きなようにやってみろ」と。

      だから、今度は自分でせり人に頭を下げまくって、担当する店舗にも通って。必死になってやって、引き継いだときには500万円だった月商を2年後には4倍の2000万円に伸ばしたんです。

      伊藤  取引停止寸前の状態から、どのようにして2年間で売上を4倍に伸ばされたのですか?

      大野 初受注のリンゴでいえば、先方もカマをかけていたんですね。卸値3500円のところを「2800円で」という要求に「わかりました」と即答したら、「え、いいの?」と。「もちろんです。やらせてください」と言ったら、「それなら明日、50ケース届けてよ」と。いきなり注文をもらったんです。そんな風にしているうちに、俺が通ったお店だけは果物の売り上げがポーンと上がるんですね。するとデータベースを見た隣店のマネジャーが「何をして売り上げが伸びたのか」とそのお店に問い合わせて俺のことを聞き、「うちにも何か持ってきてよ」と先方から連絡をくれて。

      お客さまの情報網は一流ですから、各店の売り上げをパソコンのボタン一つで見ることができます。店回りをするうちに、そのことに気づいたんです。そこで、まずは取引きいただけたお店の果物の売り上げを徹底的に伸ばしたわけです。営業をかけてもなかなか認めていただけない店舗もありましたから、特定のお店の売り上げを伸ばすことが、ほかの店舗への刺激になるのではないかと考えたんです。

      予想通り、売り上げを伸ばした店に周辺のお店から問い合わせが入り、「ベジテックの大野と付き合うと面白いらしい」という話が広がって、5店舗の基盤を絶対的なものにできたんです。それも、「好きなようにやれ。責任は俺が取る」という上司の言葉があったから。上司が盾になってくれたから、最初のスタートを切ることができたんです。

      伊藤  マネジメントの現場では、上司が細かく指示しすぎて部下の考える力を奪うケースがあるということをよく聞きます。上司の方が信じて任せてくれたことによって、大野さんのやる気や責任感が引き出されたように感じるのですがいかがですか?

      大野 そうですね。でも当時はとにかく、盾になってここまで言ってくれる上司に、絶対に恥をかかせちゃいけない、と。自分の業績がどうこうよりも"この上司を男にしたい"という、その一心でした。

      それに、そもそもはその上司が、俺を大手スーパーの果物担当に引っ張ってくれたんです。その前は、果菜(キュウリやトマトなど)の助手をしていたんですが、一日も早く自分で売れるようになろうと頑張っていたら、「大手スーパーの果物担当を変えることになった。お前にやってほしい」と言ってもらって。そう声をかけられて俺もやる気になったんです。この上司は俺にとっては父親のようでもあり、この人みたいになりたいと思う、今でも目標とする存在ですね。

      伊藤 大野さんの頑張る姿を見て、一つ上のステージの仕事を与えてくださったことで、大野さんの潜在的な力が引き出されたのですね。大野さんご自身も現在、部下8名を持つ管理職でいらっしゃいます。目指す上司像を改めて教えてください。

      大野 部下が腹の底を見せることができて、それに対して"方向性"を与えられる人。そして、与えた方向性に対して責任が取れる人、ですね。自分の方向性が間違っていたと気づいているのに目をつぶるような人間なら、上司でいる資格はない。そう思います。


       

      インタビュー後記


      今回お話を伺った大野真大さんは、人との出会いによって成長のステップを踏んでいる。

      人との出会いは全ての人に平等に与えられていると思う。
      そして出会いは偶然であるが、その偶然という出会いを必然という形に変えていける人と単なる偶然のまま通過させてしまう人がいるということであろう。
      その出会いから何かを得る人とそうでない人、その出会いをモノにできる人とそうでない人がいる。また、同じものを見ても見える人と見えない人がいるのである。

      それは"いい人との出会い"があったからでは決してなく、大野さんだったからこそ、大野さんの人間性、生き方そして意欲等に魅かれたからこそ出会った人たちは自身の体験から感じたことや学びのチャンスの場を与えたのではないだろうか。

      大野さんのように偶然を必然に変えていく人は、常に仕事や自分の成長を考え続けているからこそ見えるのであり、機会を見逃さないのであろう。その機会をチャンスと捉えられるかも、その人次第、すべからく自分なのである。
      まさにその人そのものといえるのではないだろうか。 その考えなくして、"上司に恵まれない"と嘆いていてもしょうがない。

      後編では、さらなる大きな出会いをする。そこで新たなものの見方や考え方を学んだと語る大野さん。では、その出会いをどう捉え、どう考え、進んでいったのか"考え方と行動の変容"のプロセスを伺います。


      On the Business Training 協会  伊藤みづほ 菅原加良子


      *続きは後編でどうぞ。
        第一回【自律型人財-後編】関係した人の関わり方によって育ち方が決まる