OBT 人財マガジン

2011.03.23 : VOL112 UPDATED

人が育つを考察する

  • 第五回【自律型人財-後編】仕事への信念を持って経験を積み重ねることが、成長につながる

    • 「自ら課題を発見し、その課題解決に向け、周囲をリードしながら主体的に行動できる人財」。今、多くの企業がそんな"自律型人財"を求めています。どうすればそのような社員が育つのか。ヒントを求めて、現場で活躍する若手リーダーを訪ね、成長の軌跡を伺いました(聞き手:OBT協会 伊藤みづほ)

      シリーズ──「自律型の人財」の成長プロセスとは (第五回-後編) 最終回

       

      株式会社損保ジャパン・システムソリューション
      構造改革・統合本部 団体グループ 課長
      三浦忠信さん(42歳)

      損保ジャパン・システムソリューションは、損保ジャパングループのIT戦略を担う企業。三浦さんは入社以来、団体保険のシステム開発を手がけ、開発の上流から下流に至る全工程を網羅する技術力と、仕事への強い信念を武器に、数々のプロジェクトを成功に導いてこられました。しかし、意外にも新入社員時代は技術研修に苦戦され、エンジニアとしてのスタートは順調ではなかったとか。さまざまな経験と向き合ってこられた20年間の道のりを伺いました。

    • みうら・ただのぶ

      1968年生まれ。大学卒業後、安田火災システム開発に入社。一貫して、団体契約向け損害保険商品のシステム開発に携わる。汎用大型機(大型コンピューター)を使用するシステム開発を手がけた後、Web系のシステム開発にも従事。小・中規模から約3000人月規模の大型案件まで、多数のプロジェクトでサブリーダー、リーダーを務める。

      株式会社損保ジャパン・システムソリューション http://www.sompo-japan-sys.co.jp/

      損保ジャパングループのシステム・ソリューション・プロバイダーとして、「システムでNo.1」「ITソリューションでNo.1」「働きがいでNo.1」の「3つのNo.1」を掲げる。中でも人財を「最大の財産」と位置づけ、全社をあげて「人づくり」に取り組んでいることが同社の特徴。設立/1984年、資本金/7,000万円、従業員数/670名(2010年4月現在)、売上高/244億9,048万円(2010年3月期)

    • 仕事への信念を持って経験を積み重ねることが、成長につながる

      伊藤(OBT) サブリーダー時代に難局を乗り切られたご経験をもとに、次の開発をプロジェクトリーダーとして円滑に遂行されました(前編参照)。その次には、100人月規模の新規システム開発のプロジェクトリーダーをなさられたそうですね。

      三浦 これも大変な開発でした。私は途中から引き継いだのですが、蓋を開けてみたらかなり難航している状態だったんです。

      伊藤 こういった行き詰っている案件を途中から引き継ぐということはあまりないとは聞いているのですが、どういった問題が発生するのでしょうか。

      三浦 システムの使用目的上、リリースを延期することができず、納期が決まっている中でスケジュールを立て直すのが結構大変で。最終的には、お客さまにご迷惑をかけずにリリースできましたが、非常に苦労したプロジェクトでした。

      伊藤 開発を円滑に進めるには、初期段階の設計やスケジュール立案が大切だということでしたが、そこに関わっておられないプロジェクトだったのですね。これまでにはないご苦労があったことと思いますが、どのようにしてプロジェクトを立て直されたのですか。

      三浦 まずは、できているものといないものを仕分けして、作業の優先順位を早急に組み直しました。優先度が高いものから手をつけて、遅らせても致命傷にならないものは後ろに回す。スケジュールをより細分化して、中間のチェックポイントを増やし、確実に進める。そういった工夫をしながら進めていきました。

      伊藤 その当時、メンバーや協力会社の方々のモチベーションは、どのような状況でしたか。みなさん、大変だということに気づいておられたのでしょうか。

      三浦 開発メンバーには、私のほかに当社の社員がもう1人いたのですが、まだ若いので、大変なのはわかっていても詳しくは把握していなかったんです。私が入ってから本当に大変だということに気がついたのですが、そこでもまずはメンバーを安心させることを第一に考えました。「君は私についてくればいい。スケジュールは私がきちっと組み立てるから」と。そんな感じで引っ張っていきました。

      この1つ前の、順調にいったプロジェクトでは、「いいものをつくる」と言い続けることでメンバーのモチベーションを高めましたが、このときは安心させることを最優先に考えましたね。

      伊藤 順調なときと難局では、メンバーとの関わり方が違うのですね。

      三浦 かけた言葉は違いましたが、基本的な姿勢は同じです。上に立つ人は下に不安を与えてはいけないと、私は思っているんです。厳しいときでも、凛として背中を見せたいなと。といってもグチも言いますので、パーフェクトにはできていませんが(笑)。

      伊藤 そうしたリーダーとしての姿勢やプロジェクトの進め方を、どのようにして身につけていかれたのですか。上司や協力会社の方から学ばれたことも多かったのでしょうか。

      三浦 私は、人から影響を受けることがあまりないんです。リーダーとしての姿勢でいえば、私はもともと負けず嫌いなところがありますので、弱いところを人に見せたくないんですよね。上司にも「三浦は大変なのに大変そうにしないな」と言われたことがありました。システム開発の技術や知識は、会社の研修も受けましたし、本やインターネットでも独学で、実際の仕事の経験から得たことも多くありました。

      伊藤 常に「いいものをつくりたい」と考えておられるというお話も印象的でした(前編参照)。そうした三浦さんの物事に向き合う姿勢と、さまざまな規模や難易度のプロジェクトでのご経験が合わさって、今の三浦さんにつながっておられるのですね。その三浦さんご自身のモチベーションの源は、どこにあるのでしょうか。

      三浦 やはり、負けず嫌いだということでしょうか(笑)。人と競い合う気はないのですが、与えられた仕事は途中で投げ出したり、諦めたりしたくないんです。いいものをつくりたいという思いもそう。自分の仕事がこの程度だと思われたくないという、技術屋としてのこだわりがあるんです。それと、いまは自分の仕事だけではなく、メンバーの存在が大きいですね。メンバーを守りたい気持ちが、大きなモチベーションに繋がっています。

    • 立場が潜在的な能力を引き出す

      伊藤 「メンバーを守る」とは、具体的にはどういったお気持ちなのですか。

      三浦 まず思うのは、仕事には辛いこともたくさんありますから、そういったことから純粋に守ってあげたいということですね。ときにはあえて辛いことをさせる場合もありますが(笑)。また、極端な話をすれば、今のご時世は何があるかわかりませんから、メンバーには他社でも通用する技術力を身につけてほしい。そういったことをひっくるめて「守りたい」ということなんです。

      伊藤 いつ頃から、そういった考えを持つようになられたのでしょうか。

      三浦 あまり意識したことはありませんが、一メンバーだったときには、ほかのメンバーを守りたいなんて思ったこともありませんでしたから、やはりプロジェクトでサブリーダーやリーダーを務めるようになって、立場が変わってからだと思いますね。今は管理職になりましたので、上司として部下に同じ気持ちを抱いています。会社からメンバーを任された以上は、仕事上の役割だからということだけでなく、「守ってあげたい」と純粋に思ってしまうんです。

      伊藤 入社当時は会社を辞めたいとさえ思っておられたのが、「いいものをつくる」ことを追求し、部下やメンバーを守りたい、育ってほしいと考えるようになられたのは、何が三浦さんに変化をもたらしたのでしょうか。

      三浦 変化したというよりは、先ほどもお話したように、もともとそういう性分なんだと思います。入社当時から、他人がつくったプログラムが気に入らなくて「自分ならこう書くのに」と思った(前編参照)こともそうで、そういった思考が「いいものをつくる」姿勢につながったのではないでしょうか。

      ただ、いま振り返ってみると、私がプレイヤーだったときに、自由に仕事をさせてくれた上司の存在があったからこそ、いろいろな経験を積むことができたと思いますし、結果的に今のメンバーにも同じような思いを持てるのではないかという気がします。

      伊藤 三浦さんの根底にあるのは「少しでも良くしたい」という仕事に対する姿勢なのですね。

      三浦 そうかもしれませんね。それはシステム開発に限ったことではなくて、2年ほど前に社内の年度末委員会の委員を務めたときもそうでした。必要な資料が揃っていなくて手探りで進めざるを得なかったものですから、毎年のことなのにどうしてこんなに苦労しなくてはいけないのかと。私の思いをぶつけて、次の年の人がやりやすいように資料を整理していったんです。完ぺきにはできませんが、少しでも現状をより良くしていくこと、その積み重ねが仕事では大切だと思っております。

      伊藤 個人の意思を尊重して、良いことであれば現状のやり方を変えていくことを受け入れる風土も、三浦さんの成長に繋がったのではないかと感じました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

    インタビュー後記


    「思い」は重要な経営資源である


    今回の三浦さんの記事から学ぶべきことは、「思い」の大切さです。

    ● 仕事への「思い」
    「途中で投げ出したり、諦めたりしたくないんです...
    自分の仕事がこの程度だと思われたくないという...こだわりがあるんです」

    ● メンバーへの「思い」
    「メンバーには他社でも通用する技術力を身につけてほしい。そういったことを
    ひっくるめて「守ってあげたい」と純粋に思ってしまうんです」

    ご自身のモチベーションの源泉として、上記2つを上げていますが、
    これが、三浦さんが自律的な人財へと成長した大きな源泉だと思います。

    なぜならば「思い」がない人に何を、どれだけインプットしようとしても成果は上がらないからです。

    例えば、「私の組織は、こういう組織にしていきたい」
    「私のメンバーは、こういう人財に育てあげたい」という思いがなければ、
    "マネジメント研修"を何回、繰り返しても成果は上がりません。

    企業の経営資源には、人、モノ、金、技術、情報等、様々なものがありますが、
    働く人たちの「思い」や「主体的意思」こそ、これから最も重要な資源であり、
    また、他社と差別化を図りうる唯一の資源だと認識すべきではないでしょうか。

    企業は自社の社員が、担当している仕事や会社、そしてメンバーに対して、
    何かしらの「思い」を持っているのかどうかを、まずは、見つめなおす必要があると思います。

    では、「思い」はどの様に醸成されるのか。

    「思い」は本人の特性によるところが大きいと言われていますが、
    一方で、三浦さんの記事から「環境」によって培われる側面もあると思います。

    三浦さんの場合も、本来持っている素質に加え、
    プロジェクトリーダーの経験を通じてメンバーに対する意識が醸成されています。
    (その他にも前編でご紹介した新たな職務にトライする環境や、
    三浦さんの自主性を尊重した上司や風土の存在も上げられると思います)

    「育つための環境づくり」もどれだけの企業が重視しているかは非常に疑問です。
    多くは業務上の都合だけで社員を現場に固定化させたまま、
    「もっと良い研修はないか」と、目先の手段に意識が向かっているように感じます。

    「自律的な人財を育成する」という抽象的な目的に留まらず、
    社員の持つ「思い」こそが、重要な経営資源だと捉え、
    それを育むための環境を構築していく事が、
    結果的には自律型人材育成に繋がるのではないでしょうか。


    On the Business Training 協会 海津茂史