OBT 人財マガジン

2008.05.28 : VOL46 UPDATED

経営人語

  • 悪貨が良貨を駆逐している経営改革!

    今、多くの企業で若手社員の意識変革や主体性を醸成させるといった目的で経営改革案

    や業務改革案等を選抜した若手社員に一定期間検討させ、最終的に改革案を経営陣に提案させるといった施策をとっている企業は多い。

     

    経営陣への提案場面でよく見受けられる光景に、提案内容に対して経営陣の中から「どこが変わっていないのか。少しずつ変えているじゃないか。何を変えようというのか具体的に言って見ろ」等といった否定的な見解が示される場合も多い。

     

    "何でも率直に提案しろ"と言っておきながら実際には上述のような受け止め方が多いのである。

    これはもはや修正のしようのないギャップなのである。

    これに参加した若手社員に、"我が社ではこのような提案をしても受け入れてもらえない"という認識を植えつけてしまい企画のねらいとは全く逆効果となってしまう。

     

    このようなことが続くと、組織の中に"労あって益なし"という事実がひとつひとつ積み重なってくる。

    そうすると、"何も変わらない、変える事は出来ない"という実感が組織の隅々までじょじょに行きわたる。

     

    何も変わらなければ、仕事のやり方も変わらないし、業績が悪い組織では業績も変わらない。

    ただただ負け戦が続くだけ。

    そうなると人間は、もう前に向いて動くということをしなくなる。

    参画はおろか、逆に不信と不安感を醸成し、疲弊していくのである。

    そして問題が生じても本質的な要因に触れることはなく、表面的なパッチワークで終る。

     

    改革の本来意味するところは、改革実現の条件を経営陣や組織管理者が危機感を持って個々のマネジメントの中で認識することから始まりまた、当然、それを行動に転嫁出来るマネージメントが重要となる。

     

    具体的には、企業としてこれまで成長してくる中で、培ってきた成功体験の中から作り上げてきた仕組み、常態化した発想、物事に対する判断基準、いろいろなものに対する対処の仕方等の行動パターンを全く白紙にして残すものは残す、捨てるものは捨てる、変えるものは変えるという作業を通じて新しい仕組みと体制に組みなおさなければ生き残れないことを意味する。

     

    既存の体制の中にある異質さや異なる考え方、出る杭や挑戦等の行動を進化の兆候として許容し大事に育む。

    そして出る杭をさらに突出させる度量と仕組みを作り出すか逆に変化を嫌い、それらを摘み取ったり、抹殺したりする。

     

    組織の中で"現状維持に懸命なパワーが体勢を占めている"のか"変化していこうとするエネルギーがあるのか"明日の明暗はこの一点にある。

    ここに成長と衰退、進化と退化繁栄と滅びの分水嶺がある。

     

    そういう意味では、企業の経営陣、組織責任者の役割と使命の本質はこの一点にあるといえる。

     

    どのように優れた戦略も制度も仕組みもそしてどんなに能力の高い人材で構成された組織も全てはマネジメントに包括される。

    そして、それを超えることは決して出来ない。

     

    企業はその経営トップの器以上でも以下でない。その器そのものということである。

     

     

    例えば、冒頭の事例のごとく若手社員の改革案に対し経営陣が聞く耳を持たず、組織や人と情報を共有せず、言われたことを黙ってこなすことだけを求める経営とマネジメントを長年続けていたら人財や組織はどのようになるのだろうか?

     

    管理者や社員にひたすら決定事項や指示したことを忠実に実行することだけを求めるような経営を続けてきたらどうなるだろうか。

     

    企業全体に危機意識を持ったり、時代の変化や環境の変化、自社の業績の変化に問題意識を持ったりすることが出来ない人財が育つこととなる。

     

    このような企業の経営陣にかぎって一様に"我が社の社員は言われたことしかしない。危機意識に欠如している"と嘆くのである。

     

    改革の最大の障害は組織内部にある"目に見えない変化を嫌い、目に見える今の現実を維持しようとする人達、既得権や既得権益を失いたくない負のパワー、負のエネルギー"なのである。

    そしてこのような体質を作って来たのは、これまでの経営陣の発想、考え方、行動パターンにほかならない。

     

    企業の停滞や倒産というのは、人災である。経営トップを始めとする組織上位者の経営に対する考え方とマネジメントのあり方に起因するのである

     

    企業に衰退・倒産には驚くほど共通点がある。

    組織の硬直化、組織間の壁、組織の防衛、驕り、既得権、総論賛成各論反対の構造、変化への抵抗と回避、顧客軽視、社員軽視等の風土。

     

    「数値目標と計画は詳細にあるが、人財をやる気にさせる、人財活かす方策は皆無に近い」。

     

    いかなる組織も仕組みも人が作り、人が運営し、人がマネジメントするものであって、それがおかしくなって崩壊するのは人災以外の何ものでもない。

     

    "改革のためあなたは何をやっているのか"という質問をひとつ投げかければいい。

     即座に明快に答えることが出来ない経営幹部や組織責任者は、その任には不適当である。

     

    "悪貨は良貨を駆逐する"ことはあってもその逆はほとんどない

     

    今の時代、組織も人も"変わるリスクよりも変わらないことにより生じるリスクの方がはるかにリスキ-である"という認識が重要なのではなかろうか。

     

    On The Business Training 協会  及川 昭