OBT 人財マガジン

2012.11.14 : VOL151 UPDATED

経営人語

  • 組織の進むべき方向とは!

    国内外の主要企業の業績公開がいま、盛りとなってきた。
    中国情勢や世界経済の減速等予測しにくい課題が多く、今後の成長に向けての方向性を
    どのように構想するかといったことで頭を悩ませる経営者も多いであろう。
    然しながら、長期的に見ると業績も底堅くて多少の変動はあっても「あの会社なら大丈夫」
    という安心感を持てる企業と、足元がふらふらで一体どこに向かおうとしているのか
    よく見えない企業にわかれるように思う。

    この2つを分けるものは一体何か。
    ひとつは、いたずらに売上規模を追うことなく、利益をしっかりと確保するような経営を
    志向しているかどうかであろう。
    パナソニック、ソニー、シャープ等の苦境を見ているとただ単に規模やシェアを
    拡大するために、単なる目先を変えたレベルの商品で商品の品数、商品の幅を増やす等の
    経営ではもはや競争力がないということを示している。

    企業経営において成長を目指すというのは必然である。

    然しながら、間違えてはならないのは、規模の経済即ち、規模が大きくなれば生産性が
    向上して管理費を減らせ収益が向上すると考えることである。
    規模が大きくなればなるほど生産性は低下し管理コストが高くなり、収益性は
    悪化するのは必定である。

    現在の企業経営においては、独自の道を歩むのはなかなか難しい。
    何故ならば、多くの企業が"トレンド"や"流行りの手法"ばかり追いかけているので
    どうしてもみんな打ち手や施策が似たり寄ったりで画一的になってしまっている。

    本来、常識外から新しい可能性が生まれてくるのは、ビジネスでも経営でも勝負事でも
    同じことがいえる。

    経済の成長終焉、市場規模の縮小、供給過多、顧客ニーズの多様化、高度化等で
    あらゆる業界が大きく変貌することを余儀なくされている。
    かっては、どこの業界でもその業界の仕事のやり方の王道、本道というものが厳然と
    存在していた。
    従って、業界の定跡からはずれたやり方をすると、それは本筋ではないと上から
    怒られたりもした。

    然しながら、かっては、非合理だ、非常識だという戦略や施策が、今や面白い、新しいと
    受け止められるようになり変化の中で次第に合理性を獲得していく。
    非常識の常識化、非常識の定石化であり、そういう新しいトレンドが常識の壁を破り、
    事業の可能性を変えていくのである。

    大事な点は、守るべきものと変えるべきものとの重心のかけ具合であろう。
    悪い戦略とは、自分達を取り巻く厄介な問題は見ないで済ませ、「選択と集中」を無視して
    相反するものを何でも取り揃えようとするものである。

    そして、目標、ビジョン、価値感等といった言葉を使ってはいるものの、企業としての
    方向性は示さない。
    このように曖昧に幅広く定義してしまうと「戦略」と「実行」が分断され断絶してしまう。

    多くの企業では、目標と戦略を取り違えており、また、悪い戦略は目標が多すぎる。
    長々しい「やることリスト」は、単にTO DOを列挙しただけに過ぎない。
    戦略の基本は最も効果の上がりそうなところに最強の武器を投じることである。

    また、モチベーションだけが頼りの仕事のやり方はあまり薦められない。
    ビジネスの競争は「意思や気持ち」だけではどうにもならないし、最終的に差がつくのは、
    洞察力や差異化を図る能力である。

    現実の企業間競争を考えた時に、双方が完全に同等ということはあり得ず、数多くの
    非対称性が存在する。
    そのために、どの非対称性が決定的に重要かを探り出し、それを自らの優位性に
    変えることを考えるのが、経営リーダーとしての仕事であろう。

    市場全体の中でイニシアティブがとれる経営、不毛な価格競争にいかない経営、顧客に
    振り回されることのない経営等"やるべきこと"と"やらないこと"を明確にする。
    これが重要であろうし、事業的にみてもこれが強みになることは必定である。

    それと共に考えるべきは、働く人たちの将来であろう。
    人間は、若い頃からどんな仕事をどのような環境下でやってきたかということが本人の
    将来の在り様に大きく影響する。

    ただ目標数字だけ追いかけて顧客の間を駆け巡り、何でも屋的に忙しく仕事をしてきても
    本人の将来の能力や力には全く結実しない。
    せいぜい如才のなさや多少のバランス感覚、或いは薄識さが身につく程度である。

    本来、若い内から自分のやっていることにプライドが持てるような仕事、外部に出ても
    十分通用する能力を培えるような仕事、日々成長を実感出来るような仕事体験が極めて
    重要なのである。

    そのためには、経営リーダーとして"企業の進むべき方向"をどのように定めるか
    ということにかかる。

    人こそ最大の経営資源と言われる時代、最も考えなければならないテーマで
    はないだろうか。

    On the Business Training 協会  及川 昭