OBT 人財マガジン

2008.06.11 : VOL47 UPDATED

経営人語

  • 経営における「組織」と「個人」の両極化

    2009年春の新卒者の採用活動が本格化している。

     

    生産年齢人口の減少等で来春もまた売り手市場が継続する見通しとかで今年の5月までが就職活動のピークといわれている。

    日本経済新聞社の「学生アンケート調査」による「入社を決める上で重視すること」の結果を見てみると、企業規模や将来性、希望職種につける可能性等を抑えてトップであった回答が「社員の魅力や社内の雰囲気」(54.3%)そして7位に「勤務地や転勤の有無」(22.1%)といった結果とのこと。

     

    結論的にいえば"いい人間関係と居心地の良さ"を求める学生が増えているということであろう。

     

    これは、企業人としての旧来のパラダイムからすると"何を甘えているのか。仕事や社会はそんなに甘くない"等といったフレーズで間違いなく切り捨てられてしまうような価値観である。

     

    このことは、旧来型のパラダイムの我々に、2つのことを示唆しているように思える。

     

    まず、どのような時代になっても組織や仕事のパフォーマンスを上げる上で重要なことは、個々人の成果をシビアに測定して成果見合いの報酬体系を設定するといったような稚拙なレベルの話ではなく、人の意欲ややる気は"外圧的なものからでは決してなく""内発的なものからもたらされる"といった本質論である。

     

    "働いている職場の仲間との関係や一体感"そして"相互啓発や明るさといった職場の空気"等に帰属意識やロイャリティは育まれるのであろう。

     

    また、もうひとつ、経営を検討していくと「組織」と「個人」が両極で存在する。

    組織というのは、構造的、経営戦略的な側面から検討されるものである。

    例えば、人事の諸制度に関する理論であったり、組織の階層や役割定義の方法であったりする。

     

    一方、個人は資質や能力について検討されるものである。

    例えば、リーダーシップの議論であり、個別の価値観における動機づけであったりする。

     

    そして、個人という個別の価値観に対応しようとすればするほど、組織単位での効率性は減少してしまう。

    個人レベルでハイパフォーマンスを出せるようにすればするほど組織として最適化されず全体としての活動は限定的とならざるを得ない。

     

    クリス・アージリスの「組織学習」という概念がある。

    アージリスは役割分担が明確で活動領域が限定された、いわゆる官僚的な組織よりも、組織メンバーの意思決定を再設定しながら、柔軟に課題に対応していく状態の方が競争優位を占めやすいということを主張している。

     

    カンバン方式では、一人の人間が効率化を管理することを目指すのではなく、常に後工程のことを考えながら、ベストな処理を追い求める姿勢である。

    目指しているのは他部署との連携における自分の効率化である。

    「つまり相手が不要なものをいかに効率的に作ってもそれは無駄である」という考え方である。

     

    根底にある考え方は、常に他者と自分の業務を見つめてそのラインに最適なことを参加者がやっていくことが全体の生産性を上げることにつながる。

     

     

    "構造的な国内市場縮小の時代""人口減少の時代"は、"我々に日々変わることが求められる時代"であり、経営の視点もそろそろ合理や論理のパラダイム一辺倒から脱却し、人の価値観や動機づけといった観点に全面的にフォーカスしていかないと早晩、企業経営も立ち行かなくなるのではないだろうか。

     

     

    On The Business Training 協会  及川 昭