OBT 人財マガジン

2008.08.27 : VOL51 UPDATED

経営人語

  • 安っぽい同情はするな

    「柔道はスポーツではなく戦いだと思っている!」


    ご承知のように、
    北京五輪の柔道男子100キロ超級で金メダルに輝いた石井選手の言である。
    私は、この言葉は非常に含蓄のある言葉であり、
    ある意味で現在の日本社会に突きつけられたフレーズだと思う。

    多くのメダルが期待された日本選手が、
    期待に応えられない結果に終わってしまった中で、
    この石井選手や水泳の北島選手には"参加することに意義がある"
    という価値観ではなく
    "勝つための戦いをしている"という
    ある種の真剣勝負の迫力を感じさせるものがあった。

    大変な緊張感の高いオリンピックという大舞台で平時の力を発揮出来、
    勝利を勝ち取れる精神力は大変なものだと考える。
    例えば、"ママでも金"の柔道の谷亮子選手の銅メダルに対する
    マスコミを含めた日本流の評価は、
    "出産、子育てという環境の中で良くやった"ということであろう。

    然しながら、
    "出産、子育てという環境の中で職業人として大変なパフォーマンス"
    を上げている女性は私の周囲にも存在している。

    " 出産し子育てしながら練習に励む"ということは
    大変な努力が必要であるということは勿論、
    評価するもののそれと"金メダルを獲得出来なかった"という結果を同じ土俵の中で論じ、
    その結論として当たり障りのない"良くやった"とか"美しかった"等という
    評価を下すことは、全く当を得ていないのではないだろうか。

    谷選手の話しではなく、これが、まさに、現在の日本社会を象徴する事象である。
    勿論、多くの日本選手がいろいろな場で
    一生懸命取り組んだことは間違えないところであろう。

    然しながら、スポーツでも、ビジネスでも勝てなければ話にならないのである。
    敗れるというのは、自分の弱さ以外の何物でもないのである。
    自分の心の弱さを超えられないということに他ならない。
    結果は別として "何か一生懸命やった"ことに意味のあるような
    今の日本の風潮が競争力を喪失せているのではないだろうか。


    ビジネスでもスポーツでもすべからく同じであるが、優勝劣敗という言葉がある。

    人は決して平等ではない。能力のある人、無い人がいる。
    勝つ人、負ける人がいる。
    殺しあわなくても競争、闘争はいくらでもある。
    誰かが出世すれば、誰かが取り残される。
    あなたの会社が勝ち残れば、他社は負け組みとなる。
    場合によっては倒産して失業者も出る。
    不幸な人を見て心痛めるのは人間として大事なことである。

    だが、可愛そうといって自分の昇進昇格を辞退する人はいない。
    理性なんて命がけの戦いの場では何の役にも立たない。

    生きるとは戦うことであり、戦いは美しくも綺麗でも何でもない。
    ビジネスもスポーツも人生も無数のトレードオフ、
    葛藤の中で最適解を見出し、それを実現していく厳しい仕事といえる。

    その矛盾、葛藤を最終的に背負い込み、
    自社にとっての、自分にとっての最適解を選び、
    その結果について責任を負うのは自社や自分以外にはいないのである。

    結果についての責任を負うのは全て自分であるということを
    本当に心からわかっていれば、
    自分や他人そして世の中の在り方等に
    もっともっとシビアになれるのではないだろうか。


    "変わらざるは悪"これは某社の経営理念である。
    常に現状に疑いの目を向け、否定し、改善と変革を継続していく。

    そこにしか、"人生の成長と安定も""企業の成長と安定も"はない。
    "変わらざるは悪である。今の自分に満足しないシビアさが強さであり競争力といえる。"

    On The Business Training 協会  及川 昭