OBT 人財マガジン

2010.01.27 : VOL84 UPDATED

経営人語

  • 生き残るのは、種の中で最も強い者ではない。

    生き残るのは、種の中で最も強い者ではない。
     種の中で最も知力の優れた者でもない。
    ・・生き残れるのは、最も「変化」に適応し得た者だけである・・

     

    「日本は世界一である。米国は日本に見習うべきである」とハーバード大学社会学部のエズラ・ボーゲル教授が執筆した「Japan as NO.1:Lesson for America」という本がかって非常に話題となった。

     

    米国だけでなく、アジアの新興諸国でも大変売れた本だそうである。
    あれから30年、高度成長のモデルとされたその日本が今や世界の中で国際競争力、経済力共に相対的な地位の低下が著しい。

     

    また、かつて就職企業ランキングで常に人気企業のベスト5にランクされ,TVドラマの

    モデルにもなり、城達也氏のナレーション、ジェットストリーム等日本の高度成長期を

    代表する企業のひとつ、鶴のシンボルマークの日本航空が経営破綻した。
    往時は、外部の人たちから「うらやましいですね」といわれた社員の方々も今や「大変ですね」「お気の毒ですね」といった声に変わってしまった。

     

    いずれの例も昔日の感がある。

     

    Japan as NO.1と見習うべき日本といわれた国の衰退、日本のナショナルフラッグキャリアであった日本航空という企業の経営破綻、この2つの背景にあるものは、一言でいえば、時代の変化ということかもしれない。

     

    然しながら、「変化の時代」といわれて久しいが、考えて見れば、変化の無い時代等

    あったのだろうか。
    大昔から時代は変化していたわけで、そう考えると大きく変化しているのはあくまでも「現象」であってその背後にある真理は、大きく変わっていないのである。
    日本の衰退も、日本航空の経営破綻もあくまでも「激動している現象」のひとつにしか過ぎない。

     

    然しながら、大変残念に思うことは、同社の今回の事態が、単なる芸能ネタレベルで論じられていることである。
    勿論、マスコミ等にも問題はあるが、多くのビジネスマンもTVや新聞、或いは週刊誌等も断片的な現象でこの問題を評論しているのみで、その真理についてはほとんど語られていない。
    要は、単なる「A氏の日本航空経営破綻論」と「甲氏の日本航空経営破綻論」等が行き交っているだけで、それがいかにも最もらしく語られ、一人歩きしているところに大きな問題を感じる。

     

    これでは、大麻問題で逮捕された芸能人にまつわるレベルの話題であって滑稽でもあり、憂慮すべき状況でもある。

     

    滑稽であり、憂慮すべきというのは、これでは「何も学べない」「何も学習できない」ということである。

     

    「大変優秀であるといわれている官僚たちは、国民が幸せに暮らせる国家とは、という観点で日本という国の将来を考えて本当に国づくりと行政をしてきたのだろうか」、「日本航空の優秀な社員たちは、顧客のために、顧客に支持される会社としてのあるべき姿はどのような形であろうか等、といった観点で本当に会社づくりや経営をしてきたのだろうか。」

     

    これが、行政や経営の普遍的な真理である。
    組織も人もこの普遍的な真理を忘れた途端に坂道を転げ落ちるのである。

     

    成長と膨張は明らかに異なる。
    成長とは、真理の面で質的に向上することであり、膨張とは、現象面の量的拡大にしかすぎない。
    従って、単に膨張で大きくなった組織は変化に極めて弱いのである。
    本質的な改革を先送りし、表層的な面の化粧直しに終始して延命してきたに過ぎない。

     

    もしかしたら、日本という国も日本航空という企業も、真理面での成長ではなく、単なる規模の膨張に過ぎなかったのではなかろうか。
    その結末を今迎えているのである。
    要は、なるべくして、起こるべくして生じた事態ということである。
    このような視点で捉えた時、日本という国の衰退、日本航空という企業の経営破綻が我々に示唆するのは、これが「我が社の明日の姿」ということである。

     

    国に対する、企業に対する国民や社員の求心力というのは、成長という実感を感じさせるしかない。

     

    形はいろいろあっても、国も企業も人も成長しなければならない。
    時の流れは待ってくれない。

     

    後年、「確か昔○○という会社があったなあ」等とうわさ話にさせないことであろう。

     

    「我々は一体、何のために、どこを目指しているのだろうか」といった経営の真理への

    問いかけをすべきではないだろうか。

     

    今ほど、チャールズ・ダウイーン氏の進化論の言葉が心に響く時はない。

     

    進化とは変化適応そのものである!

     

    生き残るのは、種の中で最も強い者ではない。
         種の中で最も知力の優れた者でもない。
         ・・・・生き残れるのは、最も「変化」に適応し得た者だけである。

     

    まさに、これこそ真理といえよう。

     

    現代に生きる我々が全く先例から学べない、学習出来ないのに、18世紀にこの見解を述べたチャールズ・ダウイーンの先見性には驚くほかはない。

     

    我々は一体、進化しているといえるのだろうか?

     

    On the Business Training 協会  及川 昭