OBT 人財マガジン

2012.08.22 : VOL146 UPDATED

経営人語

  • リーダーに問われる賢慮さ!

    昨今、現代のビジネス・リーダーには、成長や利益の創出等の経済価値の創出のみならず、
    社会価値の実現も求められているという流れの中で、リーダーに求められるのは賢慮さであると
    主張をされておられる方々がいらっしゃるが、私もこれには全く同感である。

    これからは、賢いか賢くないかが企業経営や事業を大きく左右する時代であることは間違いない。

    何故ならば、停滞している多くの日本企業を見た時に、「景気さえ回復すれば何とかなる」といった
    根拠のない楽観論、或いは我々は「技術力では負けていない。サムスンなんて所詮日本の
    モノマネだから」「安かろう悪かろうの韓国に負けているなんて」等の発言が目立つが、
    これは本当の意味で自分たちが世界中で進行する大変化の渦中にいるということを全く実感
    できていないということを示す象徴的な考え方なのである。

    自分達の状況が全く見えていないのである。要は俯瞰出来ていないのである。

    技術の進展スピードが加速する一方で、経済のパイは広がらず縮むばかりの状況の中、
    本来であれば、「何をどう作ってどのようにして売るのか」といった事業モデルの大改革が必要
    であるにも関わらず、単なる商品機能や生産コストといった、いささか賞味期限の過ぎた戦略で
    未だに戦っているというのが正直なところであろう。

    そのために、寿命を迎えた事業にしがみついたまま利益を伴わない不毛な努力を続けている
    場合が多い。

    個々の商品を売ることだけを追い求め販売数量を見て一喜一憂していると何時の間にか
    経営の戦略性が失われてしまう。

    主力事業や主力商品が変調の兆しを見せると企業は総じて、商品のラインナップを増やす
    或いは多角化等を志向するが逆にトータルでの生産性を落としている場合が圧倒的に
    多いのである。

    では、賢慮とは一体どのようなことを指すのだろうか。

    昨年度の大震災とそれに続く原発事故を考える際の最大のポイントは「想定」が崩壊するような
    非常事態が発生した場合「想定」に従って予め作られた既存の制度や仕組みではその機能を
    十分果たせないということである。

    我々は、過去の経験に基づき「想定」し、経験を通して再確認することによって「想定」に対する
    信頼感を高めていくのである。

    東日本大震災は、基本的に「想定外」の出来ごとであった。
    然しながら、関係者が口にする「想定外」という言葉には、常に責任逃れのニュアンスがつきまとい
    本当は「想定すべき」であった事柄を無視し、「想定外」即ち不可抗力という領域に逃げ込んでいる
    という印象は免れない。

    企業経営や事業、或いは政治の世界でも、想定外の事態に対して、的確な判断を下さなければ
    ならない局面が多々あるのも事実である。

    リーダーとしての能力が問われるのは、まさにこの想定外という領域への対応の優劣であろう。

    例えば、企業経営において想定外の出来事というと「経営破綻」或いは「倒産」という事態であろう。

    これを不可抗力と片付けてしまっていいのかということである。
    経営というのは、まさに想定外の出来ごとをつぶしていく仕事である。

    その時に必要となるのが「先を見通す力」である。
    世の中に絶対というものはあり得ない。

    常に想定内を超えたところまで考えておかないと思考停止に陥ってしまう。

    今は、経営でも、戦略でも技術でも「目に見える領域から目に見えない領域」へと
    変化してきている。

    このような前提で考えた時、私は、賢慮とは、「見通す力」「見えないものを見る力」
    「常識を超える力」と捉えている。

    例えば、昨今、日本企業の海外展開は非常に多い。
    確かに、中国、インド、ブラジル等の新興諸国は日本よりも多くの事業機会に満ちているという
    認識は正しい。
    然しながら日本国内の拠点の抜本的な改革に挑む前に海外進出した企業は、総じて進出先での
    生産性が伸びずに悩むケースが非常に多い。
    気がつくと企業グループ全体としての生産性が大きく低下している場合も多い。

    新興国の賃金は今後も上昇を続けるだろう。
    物流コストも上がり製品ライフサイクルも短くなっていく。
    足元の収益確保に追われ我が社の将来の競争力は弱体化していくばかりである。

    これを果たして賢慮な経営といえるだろうか。

    グローバル展開もさることながら、まずは、全体の最適化に視点を置くべきではないだろうか。

    経営の意思決定というのは、どうしても将来に対する予測を基に行うため、当然外れることも
    多々ある。
    経済が右肩あがりの時代は、外れたことにより生じた問題もいずれ何年かすれば、解消すること
    が出来た。

    ところがこれから先の右肩下がりの時代は、問題は時間の経過と共に悪化していく。
    時間が経てば経つほど問題は深刻化してくる。
    問題を抱え込んでじっと耐え忍んでも何時か時間が解決してくれるようなことは起こらない。

    変革が遅れれば遅れるほど企業の破綻につながる。

    今の状況は、「景気が回復すればなんとかなる」といったレベルの話ではなくまさに危機的な
    状況なのである。
    従来の発想が変えられず、根拠のない展望にすがっていると大変な状況になる。

    このようなことを見通せるかどうか、まさに賢慮であるかどうかが現代のリーダーに問われる
    のである。