OBT 人財マガジン

2012.10.10 : VOL149 UPDATED

経営人語

  • ホスピタリティが必要とされる時代のリーダーに求められる"離見の見"!

    最近の日本経済は既に足元でマイナス成長に陥っており、世界経済についても悲観論が
    大勢になってきた。
    ユーロ危機は一向に解消されず頼みの中国や米国或いはインド等も停滞に入ってきている。

    かっての高度成長経済下では、多くの日本企業が同質化された量的拡大という中で成長して
    きたが、このような時代に企業は一体何を競争力とすべきであろうか?

    例えば、競争優位を差別化だとおいた時、今の時代どんなに頑張っても機能面だけで
    その違いを出すというのは極めて難しい状況となってきている。
    機能面だけを追求した競争力というのは、まさに同質化された中での戦い方である。

    同質化された中での競争を繰り広げている企業に見受けられるのは、組織内に閉塞感、
    無力感が漂い、躍動感やエネルギー等といったものは全く感じられない。

    そしてそこでは、感じる知性に不足したリーダ-が存在し、ただ部下を管理するのみでリード
    すること等は決してできてない。

    このようなリ-ダ-の下では、部下は一応体を動かしてはいるものの、ベストを尽くすという
    意欲は起こらず、必要最低限の仕事をこなしているだけになってしまい、組織を停滞に
    向かわせ課題に向かう集中力を削いでしまっている。

    これは、日本経済が成長していた時代に多く見受けられた典型的なスタイルであるが
    今やかなりアナクロといえる。

    では、一体、このような時代のリーダーにはどのようなスタイルが求められるのであろうか?

    室町時代初期の猿楽師で猿楽(現在の能)を大成し、多くの書を残している世阿弥は、
    自分の在り様を離れたところから見る、自分を客観的に俯瞰するということが自分を律する上で、
    自分を成長させる上で重要であると言っておりこの種のことを「離見の見」と表現している。

    端的にいうとリーダーとしての自らのスタイルを折にふれて振り返り、課題を修正していくことに
    前向きな姿勢を持っているかどうかが問われるところであり、これがまさに組織の頂点に立つ
    リーダーに必要とされる能力ではないだろうか。

    何故ならば、組織の上位へ行けば行くほど、地位が高くなればなるほど、自分のパフォーマンス
    に対する信頼すべき情報が得にくくなるため、本人の自己評価が現実から大きく乖離する
    傾向が強い。
    その理由は、部下は上司の前に出ると大方皆、化粧しているため悪い情報が間引きされ、
    良いフィードバックばかりが送られることとなり、トップや上位者には部分的な情報しか
    入らないし、また得られないからである。

    そこには、上司に気に入られたいと思う部下の心理があり、特に上位者自身の仕事の
    パフォーマンスに関するフィ-ドバックとなると、状況は極めて深刻である。

    この種の病気は組織内に蔓延しており、トップだけでなく上位者の大半が感染している。

    人間は誰しも自分の能力を過大に評価しがちという特徴を持っており、パフォーマンスの劣る
    人間ほど自分の能力を過大評価する傾向が強い。

    自分の能力に関して正確な評価を得る努力は、トップである自分の自己認識を決定的に左右し、
    ひいては人間としての成長や組織の業績にも影響を及ぼすということが理解できる。

    例えば、上位者がおりにふれて自分の仕事のやり方、或いは進め方について感じていることを
    周囲から率直に言わせ、それをきちんと聴くという姿勢が重要となるにもかかわらず、多くの
    リーダーは、周囲から自分に対する正確なフィードバックを求めようとしない。

    何故だろうか?

    自分の仕事のやり方が組織にどのような影響を及ぼしているかについて周りから有益な
    フィードバックを受けることが、組織全体に重要な変化をもたらすきっかけとなるということが
    理解できていないのであろう。

    トップや上位者のスタイルや姿勢が変化することが、組織全体に好影響を与えそしてそれは
    確実に広がりを見せるのであり、最大の効果があることは疑うべくもない。

    変革出来ない組織に見受けられる汎用的な特徴は、上層部が極めて旧態依然としていて
    "ただ部下に変わることを強いている組織"である。

    どのような組織においてもトップや上位者の在り様はメンバーの気持ちや感情を大きく左右する
    力を持っており、集団の感情を熱意ある方向へ導くことができれば、業績の向上も夢ではない。

    そのためには、単なる仕事の達成度や結果だけへの関心ではなく、トップには、メンバーとの
    気持ちレベルのつながりも求められる。
    トップが感情を良い方向へ導けば、組織の持つポテンシャルを引き出すことができる。

    何故ならば、人間の感情は、周囲から大きな影響を受けるからである。

    ホスピタリティの高いトップのもとでは、メンバー間の相互の関係が良く、組織のモラルも高い。
    このような組織では、メンバーはお互いを許容しアイデアを共有し、学びあいそしていい結果を
    出す。
    何よりも重要なのは、メンバー同士が気持ちのレベルで結ばれていると仕事がより意味のある
    目標になるということである。

    仕事がうまくいった時の喜びを皆で共有出来るということは非常に組織のモラルも高まる。
    そういう状態にある組織は、非常に高い目標にもチャレンジし、これを達成する。

    成熟化社会におけるマネジメントは、組織をこのような状態に導くことが大きな役割であり、
    そうした絆を作り上げることができる人がホスピタリティの高いリーダーといえる。

    On the Business Training 協会  及川 昭