OBT 人財マガジン

2006.07.25 : VOL4 UPDATED

この人に聞く

  • 日本システムウエア株式会社
    人材開発部長 中村 武人さん

    第二創業期を支える人材戦略

    これまでの事業基盤を武器に新たな事業展開に打って出る、「第二創業期」を標榜する企業は多くあります。そこで課題になるのが、既存事業から新しい事業を生むシナジー効果を発揮するにはどうすればよいのかという事。日本システムウエアの中村武人・人材開発部長にお話を伺いました。

  • 日本システムウエア株式会社http://www.nsw.co.jp/

    1966年設立。独立系のマルチベンダーとして、ソフトウエア・ミドルウエア・ハードウエアの各分野において、コンサルティングから開発、運用まで、データセンターサービスを含めたソリューションを提供している。

    TAKETO NAKAMURA

    1954年生まれ。77年株式会社事務計算センター(現・日本システムウエア)入社。97年に品質保証室長、2000年に能力開発室長への就任を経て現職。

  • さまざまな施策がスタートした第二創業期の幕開け

    ────平成16年に企業理念を、これまでの"Systemware By Humanware"から、"Humanware By Systemware"に改定されました。その背景には、どのような環境の変化があったのでしょうか。

    1966年の設立の当時から当社では人材を重視し、「人」という事を標榜して事業を推進してまいりました。そして1982年に、社名を「事務計算センター」から「日本システムウエア」に改称した際に、ハードウエア、ソフトウエアに対する概念として「システムウエア」という当社独自の言葉を作り出し、その時に企業理念のフレームワークが整いました。これを後に明文化したものが、"Systemware By Humanware"であり、創業以来の理念は、こういった経緯で生まれたものです。

    その当時に「ヒューマンウエア」として意識していたのは、社員の個性や感性、創造力といったものです。これらの個々の力をもとに、お客さまの役に立って社会に貢献できるようなシステムウエアを提供しようと。こういう意味合いの、"Systemware By Humanware"だったんですね。

    ところが今、時代も変わり、企業の社会的責任の比重が高まってきています。その観点に立った理念を発信すべきではないかという議論の中で検討された結果、長く使ってきた"Systemware By Humanware"を、"Humanware By Systemware"と改定しました。お客さまや社会環境、ひいては人類や地球環境などを含めた概念を「ヒューマンウエア」と捉えて、私どもが提供するシステムウエアが「ヒューマンウエア」に貢献するという気持ちを前面に出そうと。こういった経緯から、企業理念の改定に至ったという事です。

    ────理念を改定した事で、社内にはどのような変化が現れたのでしょうか。

    ITバブルの崩壊やインド・中国の台頭などのさまざまな外部環境の変化があり、理念の改定と相まって、社内の改革が一気に進みだした時でもありました。ですから、理念が変わったからという事ではなく、タイミング的には、同時進行的にいろいろな事が始まったといえると思います。

    ────具体的には、どのような事が同時進行で始まったのですか。

    既存事業の再編や新しいビジネスの立ち上げ、社内の横断プロジェクトや成果主義の導入、組織のフラット化など、いろいろな改革を行っています。

    これは、私の考えになってしまうかもしれませんが、いろいろな業界がある中で私どもは人によって成り立つ業界ですから、人材が変わらないと会社が変わらないんですね。経営者からも、「大事なのは人である」「人をどう変えていくか」という事を、かなり強いメッセージとして受けています。それに対する施策の一つが組織変更であったり、社内の横断的なプロジェクトであったり、採用の強化であったり、教育投資の強化であったりと。取り組みはさまざまに進めています。

    経営者と社員との距離を縮めれば、経営の理念や方針は社内に浸透する

    ────そういった改革では、経営が意図する事を現場の方々が理解する事が重要ではないかと思います。御社では、どのように働きかけておられるのでしょうか。

    いろいろある中で大きいと私が感じているものの一つに、経営者が主催するミーティングがあります。社内では「ダイレクトミーティング」と呼んでいるのですが、基本的には1泊2日の合宿形式で行います。人数を限って、経営層といろいろな層の社員がひざを交えて、夜まで話し合うんですね。経営者からは経営のビジョンや方針を直接語りかけますし、社員から質問があればその場で直接答える、要望で可能なものは採用してすぐに対応する。こういう取り組みを、2年前から行っています。

    これは社員に対しても、会社はこういう事をやります、あなたたちは何をしてくれるんですかと問いかける場でもあるわけです。そうすると、今までは受身で動いていた人材が、考えるようになってくるんですね。まだ、経営者が意図するところまでは達してないとは思いますが、自分で考えて行動する自立の方向へ、少しずつ向かいつつあると感じています。

    ────ミーティングにはその都度、いろいろな役員の方が参加されるのですか。

    役員は毎回、全員がフル出場します。一方の社員は、参加したいという者が優先ですね。公募もしますし、職場推薦もします。ただし、集め方はその都度変えています。例えば、同じ事業ラインだけで固める時もあれば、事業ラインを超えて開催する時もありますし、同期生でやる場合もあればいろいろな年次を混ぜる時もあります。

    ────ミーティング1回につき、参加者の人数はどの程度にされているのですか。

    役員も含めて40名強です。それを4〜5グループに分けてテーマを決めて丸一日討論し、翌日に成果を発表します。もう2年になりますから、ミーティングを経験した社員は、相当な人数になりますね。

    ────ミーティングで出される社員の方々の問題意識の視点は、短期的なのか中長期的なのか、その辺りはどうお感じになりますか。

    まず、会社からのメッセージとして中期的なビジョンや方向性を伝えます。どういう風にしようとしているのか、そのためには何が課題なのか、社員に期待するのは何かという事を経営者がきちんとプレゼンテーションしますので、中期的に会社が何を目指しているかという事は、理解が深まっていると思うんですね。

    それを受けた後の各グループ討論では、テーマをその都度決めています。中期的に討論させる事もあれば、まさにカレントに何をすべきかというテーマに絞る事もある。ミーティングごとに、今回はどういう風にしようかという事を、役員と事務局とが事前に討議して運営しています。

    ────ミーティングを開く前のご準備にも力をいれておられるのですね。

    そうですね。準備は大変です(笑)。

    ────社内の空気が変わってきたなという事を、お感じになりますか。

    非常にモチベーションが上がっていますね。今までは遠い存在だった経営者から、直接ビジョンや方針が聞けるわけですから。文章で見せられても理解できなかった事がきちんと説明されて良く分かったとか、自分も意見をいう事ができたとか、一緒になってやろうという気持ちが高まったとか、そういう声を聞きます。

    ────そこで話し合われた事は、社内で広報されるのですか。

    ミーティングの実施報告は、社内報に概要をリリースしています。また、社内限定のサイトがあるんですが、テーマや内容によっては話し合われた課題をアップして、その後の進捗状況も確認できるようにする場合もあります。対応はケース・バイ・ケースですね。

    フロー型ビジネスからストック型ビジネスへ。
    新規事業創出の源は、社内の横断プロジェクト

    ────事業展開としては、どのような手を打たれているのですか。

    中長期的な経営戦略に対する課題として、フロー型ビジネスからストック型ビジネスへのシフトというテーマを掲げています。背景には、ITバブル崩壊以降、顧客からのコストパフォーマンスへの要望が非常に強くなっているという事業環境の変化があります。中国を始めとする南アジア地区のオフショア開発の台頭が著しく、そういった意味でもコストパフォーマンスへの要望は強まる一方なんですね。

    もう一つは社員の問題なのですが、毎年新人を採用してはいるものの、40年も経つと高齢化も進んでまいりまして、社員構成が変わってきているという内部環境の変化もあります。

    こういった環境下で成長し続けるためには、限られたリソースを有効に使う事が必要です。つまり、受託開発といった従来のフロー型の事業は基盤として維持・拡大させつつも、その上に資本集約型、知識集約型のストック型のビジネスを立ち上げて、リソースをシフトしながら事業の転換を図っていく。こういう取り組みを、進めているところです。

    ────先ほど施策の一つとして挙げられた社内横断のプロジェクトも、これに関連してくるのでしょうか。

    そうですね。従来ですと、新規事業の立ち上げはミッションを持った部署が担っていたのですが、今は、全社の知恵を集めて検討することを重視しています。そこで、事業になるまで育てながら進め、事業化のメドが立った時に事業部門という形で組織化するわけです。

    これにはきっかけがありまして、4年ほど前に外部の専門家に依頼して社員研修を行ったんですね。その最後に、参加メンバーが成果を役員にプレゼンテーションしたんですが、この時に提案したのが、「初めて事業ラインを超えて各世代が集まっていろいろ考える事ができた、今後も、組織の壁を超えて情報交換できる場を設けてほしい」という事でした。それを経営層が受けて、翌年にプロジェクトが発足したのです。その中から、ストリーミング・ソリューション事業(ストリーミング技術を使った映像配信サービス)のように、事業として立ち上がったものも生まれています。

    ────プロジェクトメンバーはどのように選抜されるのですか。

    一概にこうという形はありませんが、参加メンバーに欠かせないのは、熱意やバイタリティです。事業を進める上で必要なノウハウや知識があるか、吸収できる素地があるかという付帯条件もありますが、最終的に必要になるのは新しい事にどれだけ取り組めるかという事なんですね。

    ────では、若い方も希望すれば参加できるのでしょうか。

    そうです。若手社員がリーダーに抜擢されるケースもあります。

    経営者が危機感を持って関わることで、組織のシナジー効果が生まれる

    ────横断プロジェクトから新規事業を創出するためには、どんな事が大切になるのでしょうか。

    経営者が真摯に現場の意見を聞き、一緒になって考えるという事が大きいですね。また、新しいものを自分たちで創り出す喜びとや面白さを体験的に得られる機会が増えてきている事も、いい影響を与えていると思います。

    組織変更も柔軟に行います。3年間を基本とする中期経営計画に合わせて2、3年に1回は大改定を行い、その後も必要があれば小改定を頻繁に行います。また拠点も、以前は首都圏だけでも複数に分散していたものを、今は渋谷に集約させています。近くにいるほうが横断的なプロジェクトやタスクフォースは活動しやすく、シナジー効果も強まるんです。

    ────経営の理念や方向性が組織に浸透するためのプロセスに非常に注力されておられますね。そういった事を通して、組織が活性化していくという事もいえるのでしょうか。

    はい。ただし、時間はかかると思います。私どもの風土は40年の歴史の中で築かれてきたものですから、これを一朝一夕で変えるという事は難しいと思うんです。しかし、経営者が危機感を持って先頭に立って取り組んでいるという事が、この先、大きな成果として出てくると思います。

    第二創業期に求めるのは、「自立型」の人材

    ────一方で、フロー型からストック型へという動きはご業界に共通するものかとも思うのですが、その中での御社の競争優位性をどのように捉えていらっしゃいますか。

    私どもの競争相手は、業界会社だけではないんですね。従来はIT技術そのものがコアだったのですが、今やIT技術は道具として当たり前になり、どの業界からも参入できる。異業種も含めて非常に競合が起きています。その中でどうやって勝ち抜くかという事が、重要になってくるわけです。

    その意味での当社の強みは、長く培ってきた流通業向けソリューションビジネスの実績をベースにして、上流のコンサルティングからシステム開発、運用・メンテナンスまで、データセンターサービスを含めたベストソリューションを提供できる事にあります。また製造業向けのサービスとして、LSIの設計からファウンダリー(製造請負先)を活用したチップの製造、さらには組込み系のソフトウエア開発技術を活かした製品化といったソリューションを一気通貫に提供できる事も、私どものコアです。これらを活かして、ストック型ビジネスへのシフトを行っていくということです。

    さらに、今後はどこでもネットワークにつながるユビキタスの社会になるといわれていますが、そうなった時に、私どものコアをうまく提供する事によって、お客さまに一番近いところでパートナーとして一緒にビジネスをやらせていただくと。こういうところへ強みを持っていきたいと考えています。

    ────フロー型ビジネスとストック型ビジネスでは、求める人材像も違ってくるといえますか。

    ご指摘の通りだと思います。フロー型のビジネスで求めたのは、高い技術力を持ってお客さまの要求を忠実に実現できる人材でした。一方でストック型のビジネスでは、「自立型」人材と呼んでいますが、お客さまにとって有効な解決手段を見出して提案し、自ら率先して事業として進めていける人材を必要とするようになってきています。

    ────それに伴って、採用や育成の方法にも変化はあるのでしょうか。

    そうですね。当然ながら採用は要件を明確にして強化していますし、組織変更や新しい事業を始めるタイミングで人材を投入するといった事をベースにしながらローテーションにも取り組んでいます。私自身のミッションとする教育面でも、取り組みがかなり変わってきていますね。

    自立型人材をどう育てるか。カギは「他流試合」にあり

    ────具体的には、どのような事に注力されているのですか。

    テーマは、自立型の人材をどのようにして育てるかという事です。当然ながら、社員にもさまざまな要求を出していかなくてはいけませんが、要求するだけでなく会社としての支援も当然の事として行っていく必要があります。どんなに苦しくても教育投資は惜しまない、教育は社員への支援だというのが経営者の考えであり、毎年、相当な規模の教育予算も計上しています。

    そこで今、経営層から打ち出されているのが「他流試合」です。社外をベンチマークして、競合他社と比べて自分たちはどうなのかという意識を持つべきだという事なんです。型にはまった規格型の人材を育てるのではなく、個を活かすという事ですね。

    大げさな事をいうと、幕末や明治維新の時に出てきた吉田松陰や橋本佐内といった、国家を動かすとまではいかずとも、社内において組織を変えていくような個の存在ですね。こういった存在がある目的に合致して集まったときに、大きな力になっていくんだろうと思うんです。こういった人材の育成が、今後のテーマであり、具体的には、年に一人か二人を選抜して、外部機関や他社に預けるというような形ができればと考えています。

    ────他社に、というのはとてもいい機会ですよね。

    いくら当社の中で競争して「勝った負けた」といっても、しょせんは社内の世界の事。現実には、成長している他社の人材と争って、勝っていかなくてはいけないわけです。他社が敵になるのか、アライアンスを組む仲間になるのかはわかりませんが、相手を知るという事は重要だと思っています。

    教育だけでは人材は変わらない。社員を伸ばす土壌を持つ事が大切

    ────自立型人材を育てるには、教育施策が重要だという事でしょうか。

    きっかけを与えるという意味では、教育は大事だと思います。しかし、教育そのもので人材が変わるわけではありません。本人の気付きや意識に依存するところが、大きいと思うんですね。ですから、そこまで達してくれれば教育としては一つの使命は果たしたかなとは思います。

    ────問題は、気づいた後にどうするかという事ですね。

    気づきを活かして活躍する場を与えて、オン・ザ・ジョブトレーニングで実践していく。こういう形のものを用意しなければいけないと思いますね。

    ────しかし、例えば社外に出て学習した事を社内で実行しようとすると企業体質や風土と相容れる事ができず、結局はスピンアウトする、リタイヤするというケースも、一般には多くあります。

    いちばん懸念されるのはそこですね。しかし、これは私どもの悪いところでもあり良いところでもあるのですが、他社のように組織がしっかりした形として出来上がっていませんので、戻ってきた時に新しいものを与えるチャンスはいくらでもあるんです。やる気さえあれば、抜擢されて一つの事業を任される可能性も非常に高い。現に、資質のある人たちは、そういったチャンスを与えられています。

    ────先ほどお話のありましたダイレクトミーティングや横断プロジェクトも、その機会の一つですね。

    そうです。昨年も若手を選抜して、事業の提案型の研修を実施しましたが、その中で提案されたものが今、事業の種として検討されています。また、研修で資質が認められた社員は、それなりのポジションを与えられています。

    ────改めて、中長期的な組織戦略や人材戦略としてどのようなテーマをお考えでいらっしゃるのか、お聞かせください。

    今まで申し上げてきた事の集約になりますが、ビジョンとしては自立型人材の育成と強固で健全な組織作りを今後も続けていくというのが一つの方針です。お客さまの要求や要件に対して満足していただけるビジネス戦略やソリューションを策定して提案できるだけでなく、高い収益も維持できる人材。こういう人材を輩出することが今後のテーマだと考えています。

    また、技術は基盤として当たり前のものになりつつある中で競争優位となるのは、お客さまが何を必要としているかを的確に把握する力。そのために必要になるのは、コミュニケーション能力や提案力、語学力、環境適応力、判断力や戦略眼といったような人材としての基礎的な力です。こういったものをどうやって磨くのかという事に対する取り組みをしなくてはいけない。それによって、幕末維新に出てきたような先見性を持って変化に即応できる有能な人材が輩出されれば、ビジョンの実現に向けた力強い戦力になると考えています。

    ────ありがとうございました。

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