OBT 人財マガジン

2006.09.13 : VOL7 UPDATED

この人に聞く

  • 田辺製薬株式会社
    信頼性保証本部 お客様相談センター 所長 進藤 義幸さん
    医薬営業本部 営業企画部 人材育成課長 山岸 景子さん

    情報を知的資本に変える仕掛けとは(後編)

    工業化社会から情報化社会への発展に伴って、経営資源は土地やモノから知識や情報に変わりつつあります。目に見えない資本である知的資本が充実する組織をつくるにはどうすればいいのか。田辺製薬の進藤義幸・お客様相談センター所長と山岸景子・医薬営業本部人材育成課長にお話を伺いました。

  • 田辺製薬株式会社http://www.tanabe.co.jp/

    1678年創業。世界110か国以上に導入されているカルシウム拮抗剤「ヘルベッサー」を始めとして、独自性の高い医薬品を創出。2003年には関節リュウマチやクローン病に高い治療効果を発揮する「レミケード」が承認され、大型新薬として期待されている。

    YOSHIYUKI SHINDO

    1952年生まれ。74年に田辺製薬株式会社に入社。医薬情報担当者(MR)、営業統括部企画課長、ヘルスケア事業部営業推進部長、などを経て、2003年から現職。

    KEIKO YAMAGISHI

    1959年生まれ。83年に田辺製薬株式会社に入社。研究企画部、秘書室長を経て、02年に人事部人材育成課長に就任。2004年から現職。

  • 組織のビジョンと個人の仕事観をすり合わせ、
    チームとしての総合力を発揮する

    ────お客様相談センターがそれほど高い機能を果たせる秘けつは、どこにあるのでしょうか。

    進藤 人材の育成と採用、それに使いやすいシステムの融合。そこに尽きます。加えて、総合力を発揮できるようにいかにマネジメントするか。派遣や業務委託のスタッフも多いのですが、定着率は非常にいいです。女性中心の職場ですから、結婚や出産でリタイヤしても帰ってきたいと思えるような働きやすさを作ることが、マネジメントの一番の鍵ですね。

    ────働きやすさのポイントは、どんなことですか。

    進藤 職場のインテリジェンス、知的レベルを上げるんです。周囲のクオリティが高いから、一緒に仕事していて楽しいという状態ですね。成長する機会も与えます。派遣や業務委託のスタッフも正社員と同様に研修しますし、必要であれば学会も聞きに行ってもらいます。

    ────自分自身に知識が蓄積されてレベルアップしていくことが、モチベーションの源になるのですね。

    進藤 モチベーションとしては大きいと思います。例えば、派遣スタッフの場合は薬剤師資格を有するか同等の知識や経験があることを前提としていますが、専門知識を枯渇させたくないという欲求が強いんですね。いつも最先端の情報に触れていたいと。当センターには最先端の情報が集まりますので、楽しいみたいですよ。しかも、ワークシェアしても構いませんので、自由な時間で仕事ができる。自分の担当が終われば帰れますから、残業もそれほどありません。

    山岸 ですから、お子さんのいらっしゃる方には人気なんです。

    進藤 雇用形態に派遣や業務委託も導入したのは、企業風土までは変えられないとしても、少なくとも仕事のやり方は変えたかったということもあります。今までは、企業内での勝ち残り競争といった発想がどちらかというと強い。いかに総合力を発揮するかという横の連携プレーができる人って、意外に少ないのではないかという感じを受けていました。そうではなくて、役割分担を活かしながらフォアザカンパニーの発想で総合力を追求するとどういう方法があるのか。それを具現化してみようじゃないかという試みです。

    ────コール数が伸びておられるということは、スタッフの方々の数もかなり増えたのではないですか。

    進藤 最初は十数人でスタートして、28人にまで増えました。でも、まだ足りないですね。特にMR対応をしていますので、欲しいのは営業現場を知っていてメンター役になれる人材。情報を流すだけではなくそれをどう伝えるか、ドクターとのコミュニケーションについてアドバイスできることが必要な時期にきています。センターの立ち上げから次のステップに入り、そういうスタッフを育成することが今の課題です。

    ────スタッフ数が増える中で、お客様相談センターのビジョンを一人ひとりに浸透させるのは簡単ではないように思います。どのようなことに留意して進めてこられたのですか。

    進藤 一人ひとりに対して、「聞いて語る」ことですね。ただし、それができるのは10人程度まで。人数が膨らむと、マネジメントのスタイルを変えることが必要です。上下関係を含めたスタッフの目線を揃えて役割を分担するという組織運営の基本は変えないで、マネジメントのスタイルだけ変える。部下に責任委譲をすることにつきるんでしょうが、ここから先は難しいですね。

    ですから私が一番上なんですが、この春まではスタッフと同じシマの中に座っていたんです。その方が話しやすいし、横で何をやっているかが分かりますから。ただし、さすがに20人を超えると目が届かなくなってくる。今はそこが悩みどころで、優秀なマネジャーが欲しいんです(笑)。

    ────ビジョンは、温度を持って伝えることが大切ではないかと感じます。ビジョンを達成することが、その方の人生や生き方とどう関連するのか。そういった視点については、どうお考えになりますか。

    進藤 そこがポイントですね。できる限り1対1で時間を取ります。スタッフとの面談では目標管理シートを使うのですが、それはあくまでも材料。大切なのは、本人がこれからどうしたいかということなんです。職制に上がりたいという希望があるなら、こういった仕事をこれくらいのレベルでできるようになって、周囲とはこういう関わり合いができるようになろうよと。周囲や人事に対する関わりを私が仲介するようなアプローチをします。

    派遣社員であれば、人生の一番いい時期を当社で何年か働いてもらうということでもある。ではその先どうするのか、正社員になりたいのか今のスタイルがいいのか。本人が希望する次のステップによって、仕事の与え方や勤務時間などを変えていきます。業務委託のスタッフは委託先のスーパーバイザーが管理しているのですが、当社の仕事をすることでどういう能力を取得したいかによって、やはり仕事の出し方は異なります。その後は、自己責任。できが悪ければ、「ここはできていないからダメだよ」と、正直にコミュニケーションしていきます。

    ────人生の大切な時間を職場で過ごしてもらうことへの責任を感じながら、マネジメントをされているのですね。

    進藤 それが、マネジメントにとっていちばん大切なことです。だから一緒に「キャリアデザイン」していくことなんです。一人ひとりが持っている希望や能力にセンターがどう対応してあげられるか、それはいつも考えていますね。

    ────そうなると、マネジメントする側も自分の人生観や仕事観を持っていることが必要ですね。

    進藤 それ程の能力はないし難しいですね。しかし、相手の話をじっくり聞く。本人がやりたいということがうわべだけのものではなく、本心から出ているなら信じて大丈夫です。そして、長所だけを見てあげることですね。できの悪いところだけを「ダメだ」「ダメだ」といっても、人は伸びませんから。

    社内にも積極的に働きかけ、
    コールセンターの認知を高める。

    ────お客様相談センターに対する社内の認知にも、変化は起きているのでしょうか。

    進藤 営業現場は、当センターの機能が向上してきたことを実感してくれているのではないかと思っています。当センターが現場と一番密接していますから。一方で社内の他の部署では、お客様からのクレームに対応する部門だという印象がまだ残っているところもあるかもしれませんね。

    ────そうではなく、製品開発そしてMRありきのご業界の中で、製品情報も製薬会社の命なのだという発想の転換が、センターでは実際は行われているわけですよね。

    進藤 そうです。製品情報をいかに活用するかということを新しいコンセプトに変えて運営しているのですが、医師・薬剤師との接点は全てMRに任せておくことという印象は、まだ残っているかもしれませんね。

    ────社内認知を高めるためにされていることも、何かあるのですか。

    進藤 お客様相談センターと日常的には接点を持たない部署に対しては、社内コマーシャルを心がけています。社内広報誌にできるだけ取り上げてもらう、いろんな会合に積極的に顔を出す、そこで時間をもらってセンターのプレゼンテーションをし、最新情報を提供する。高校生が修学旅行で企業訪問をするというので、当センターが受け入れたこともありました。そういうイベントって、いろんなところで告知や広報がされますよね。

    それらの取り組みの中でも、いちばん有力なツールは代表電話。社内のすべての部署に、電話を取り次ぐことになるのがポイントなんです。「お客様相談センターですが」ってやると、自然と存在が浸透するんですね。

    山岸 昔は、代表電話は総務で取っていたんです。

    進藤 ですから、代表電話の取次ぎを引き受けたのは、製品に関する問い合わせも多いという理由もありますが、社内認知度を高めるという狙いもあったんです(笑)。

    自己責任で動き、周囲を主体的に巻き込むことが、
    新しい仕掛けを成功させる秘けつ

    ────新しい試みを成功させるポイントは、どのようなことだとお考えになりますか。

    進藤 難しい質問ですが・・・・・・、大きな観点でいいますと、自己責任で主体的に、能動的に取り組むということでしょうか。自分ひとりでやるということではないのですが、自分でやりきるという心構えですね。

    こう考えるようになったのには、きっかけがあります。何年か前になりますが、外部から講師を招いた部長研修に受講者として参加しました。そこでの一貫したテーマが「自らがなすべきことは何か」ということだったんですね。その研修で実感したのが、やりたいことはしないとダメだということ。思っているだけで動かないのではなく、主体的に仕事の中に取り込んでやってみよう、それで仮にマイナスの評価を受けたとしても、それはそれで本望だという気持ちになったんです。

    もちろん会社の方針に沿っていることが大前提ですが、方針と整合性を取りながらも、全体の方向性を少し動かせるようなレベルで何かを形にする。それが、会社にとっても貢献になる。思いは、形にしないと面白くないですよね。ですから自分なりのビジョン、それも夢みたいなものではなく、実体験にもとづいた実現可能なものとして、これは必ず実現できると信じられるビジョンを持つということだと思います。

    それから、関係者と徹底的にパートナーシップを築く。これも、大切です。社外関係者であっても社内関係者であっても一緒になって、互いの成果を目指すということ。お客様相談センターの構築は社内のシステム部門との協業です。システム部門の社員も、システムを使って仕事が成功したという成功体験を味わったといってくれています。手がけたことが形になり、コール数や医療機関の評価などとして数字に表れますよね。そこに達成感を感じてくれているようです。こういうことがそれぞれの成功体験になり、社内に新しい考え方や試みが生まれる土壌になっていくんだと思います。

    そのためには、徹底的に情報公開するということにもこだわっています。持っている情報はすべて公開するというのが、私の基本スタンス。社内情報も、機密情報でない限りは社外の方にできるだけ公開します。こちらから情報を出すことで、相手もこちらに何かを教えてくれるという関係が築けるんです。後は実務上の問題で、人をいかに育てるか、総合力をいかに引き出すかということ。

    順番としては最初にビジョンがあって、実現するための具体的なツールとして関係者とのコラボレーションやパートナーシップがあるという印象ですね。仮にビジョンに対して実現は難しいと感じることがあるとすれば、「これはしてはいけない」「こうあるべきだ」といった「べき論」が先に立つからできないだけで、本当に主体的になればそう難しいことでもないと思うんです。

    ────ありがとうございました。

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