OBT 人財マガジン

2007.10.10 : VOL32 UPDATED

この人に聞く

  • 元気株式会社
    代表取締役社長 栢森 秀行さん (写真右)
    専務取締役 開発本部長 木村 智治さん (写真左)

    現場の自主性を育む改革とは(後編)

    企業には、「創業期」「成長期」「成熟期」「衰退期」と発展段階があるといわれます。「創業期」には、創業者の強力なリーダーシップのもとで事業の基礎を固め、「成長期」「成熟期」と発展するにつれて現場への権限委譲が進み、組織としても成熟することが理想とされますが、創業者のワンマン経営から脱却できずにいる企業が少なくないのが実情です。トップダウンへの依存体質をぬぐい去るにはどうすればよいか。元気株式会社の代表取締役社長 栢森秀行さんと、専務取締役 開発本部長 木村智治さんに伺った後編をお伝えします。

  • 元気株式会社http://www.genki.co.jp/

    1990年設立のゲームソフトメーカー。『首都高バトルシリーズ』『街道バトルシリーズ』などのヒット作で、レースゲーム界における独自の地位を確立する。剣術アクションゲーム『剣豪シリーズ』にも根強い固定ファンが多い。2002年にコナミと業務・資本提携を行い、2005年にコナミが保有する株式をダイコク電機に売却したことで、ダイコク電機のグループ企業となる。

    HIDEYUKI KAYAMORI

    1968年生まれ。2005年にダイコク電機株式会社代表取締役副社長に就任。2006年に元気株式会社の代表取締役社長に就任。ダイコクグループ各社(DIXEO株式会社、DAXEL株式会社、元気モバイル株式会社、DO株式会社)の代表取締役も兼任。

    TOMOHARU KIMURA

    1964年生まれ。1990年に創業メンバーとして、元気株式会社に入社。1999年に専務取締役開発本部長に就任。

  • 上司が部下に関心を持つための、
    遊び心あふれる仕掛けを導入。

    ────現場のコミュニケーションを活性化するにあたって、具体的にはどのような施策を導入されているのですか。

    木村 最近、運用を始めたものに『スキルアップシート』というものがあります。個人が、3カ月後なり1年後なりの目標を立てるというものです。ただし、テーマは仕事とはまったく関係のないもの。例えば「私は今年中に映画を10本観ます」とか、「車の免許を取ります」とか。何でもいいんです。その目標に対して上司が立ち会い人になり、「達成したらジュースを1本おごる」といった契約をして、「達成状況はどう?」と定期的に確認しながら進めていく。こんな仕組みで運用しています。

    ────面白いですね。

    木村 開発の現場はプロジェクトで動きますから、一つのプロジェクトが解散すると次は違うプロジェクトの配属になる。ですから、縦の関係が弱いんですね。「彼の上司は誰?」というのと、上司から見て「部下は誰?」というのが一致しないときもある。それは問題ですよね。

    「コイツにはこうなってもらいたい」という上司の下で部下が育って、上司も部下も一緒にステップアップしていくという関係が、最近なくなってきている。そこで、「ぜひそれを作ってくれ」と。「人の紐づけをしてほしい」と部長、副部長に頼んだんです。そうしたら、「誰が誰にぶら下がっているか分かりません」という者もいたのですが、「分からないではなく、とにかく結んでみて」とやらせて、その中から出てきたアイデアが『スキルアップシート』でした。これによって、上司と部下を一応は紐づけることができます。コミュニケーションを取るにはいいツールだと思って、許可してどんどんやらせているところです。最終的には、期末に社長や副社長が全員のスキルアップシートを見て、達成した人の中で「これはすごい」というものに社長賞を贈る予定です。

    栢森 親会社が「やれ」といったわけでなく、元気として独自のアイデアが現場からあがってきているのは非常にうれしいとこですね。初回はやはり、仕事に直接結びつかない物を社長賞として選んであげないと、と思っています(笑)。

    ────仕事に関係のない目標というのはいいですね。

    木村 仕事に結びつけると幅も狭まりますし、ただでさえコミュニケーションが取れていないのに取れるわけがないですからね。仕事にしてしまうと、「スキルアップシートを書くのは業務なんですね」など、趣旨と外れる質問も出てくるんですよ。ですから、「業務以外のこと」という条件で提案させたわけです。そうすれば、部下が書いたものに対して「こんな趣味があったんだ」といったことも分かりますよね。

    ────専務の『スキルアップシート』はないんですか?

    木村 私もね、やりたいんですよ。『スキルアップシート』を書いて、社長に「達成したら家を買ってください」とかね(笑)。

    ────報償も大きいですね(笑)。

    栢森 書くのは自由ですからね(笑)。

    木村 部長クラスなど、私が立ち会い人になっている者は何人かいますよ。「○○の資格取得に向けて○○を勉強します」という目標に対しては、最終目標は「試験に合格する」でいいと思うのですが、「その過程として、勉強したかしなかったかを毎日、報告してください」と。そして、「最終的に達成できたら好きなものをご馳走する」という約束をしているんです。

    栢森 いいコミュニケーションのきっかけになっていると思います。コミュニケーションというのは、「おはよう、こんにちは」という挨拶だけではありませんからね。

    ────相手に関心を持つということが大切なのですね。

    木村 そう、それが非常に重要だと思います。最近、周囲に関心を持たない人が本当に増えていますから。

    ────みなさんの反応はいかがですか。

    木村 楽しんでやっている者もいますし、「面倒くさいな」という者もいますね。

    栢森 「こんなの約束するんじゃなかったな」、とかね(笑)。

    木村 「こんな物は意味がない」という人もいます。そういう人も何年か時間をかければ、やってよかったと感じてくれるかなと思いましてね。やらないよりはやったほうがいいですからね。

    ────「企画公募制」という、商品企画を募る制度も設けておられますね。

    木村 これは、最初はお祭り感覚でスタートしたものなんです。始めたのは、2005年の9月ごろですね。「何か面白い遊びを創りだしたい!」「エンターテイメントに携わる仕事がしたい!」という人が多く集まっていますから、企画セクションだけのアイデアだけでなく、みんなから募集してみようという声があがったことが始まりでした。新しいアイデアを発掘するだけでなく、社員が事業に積極的に参加するきっかけにしたい。そう考えて始めたものなんです。

    ────制度導入後の、社内のご反応はいかがでしたか?

    木村 いろいろな人が参加してくれましたよ。当初は、表彰するということは考えていなかったのですが、がんばって参加してくれたので何か賞を設けないといけないと思い、『入選、佳作、特別賞』を作りました。1回の公募に集まるのは15件ぐらいでしょうか。スタート直後はもう少し応募があったのですが、最近では15件前後で安定しています。

    ────「企画公募制」から商品化につながったものもあるのですか。

    木村 ありますよ。「これで恥をかかない 明日つかえるDSビジネスマナー」というDS用のソフトがそうですね。もちろん商品化につながらないものもたくさんありますが、どの作品に対しても必ずフィードバックをしています。発想の良し悪しだけではなく、「次はこう練り直したらよいのでは?」というアイデアの磨き方や、「重要なポイントをいかに熱く伝えられるか」、「企画書の書き方のテクニック」などを、一人一人に返しているんです。

    「これで恥をかかない 明日つかえるDSビジネスマナー」

    (C)2007 GENKI

    『ビジネス』、『ビジネス用語』のほかに『一般常識』、『作法』、『雑学』、『恋愛心理』の6ジャンルから合計500問が出題され、クイズ形式でマナーを学ぶことができる。

    社内行事は強制しないことで、社員の参加率が高まる。

    ────フットサルなどの社内サークルも活発だと伺いました。

    木村 そうですね。先日は、関東のダイコクグループで試合もしました。元気だけで4チーム出場しましたね。

    栢森 当初は、何人かでグランドを借りて抗戦をしようかという程度だったのが、話が膨れ上がって、結局、総当たり戦になったんですよ。

    木村 日が暮れるまでやってましたね(笑)。

    ────最近は社内行事を嫌がる人が増えている中では、珍しいことですね。

    栢森 会社から押し付けた行事ではありませんからね。そういう動きが下から上がってきてくれるのは、うれしいですね。

    木村 元気も昔は社員旅行を必ず行っていたのですが、嫌だという人が増えてきたような気がして、6、7年前に止めてしまったんです。「社員旅行は業務だから参加するように」といえば、「それなら出社して仕事します」という人がいたり(笑)で、みんなが喜ばないものに経費と時間をかけるのはどうかという話になりまして。ところが、ダイコク電機では全社集会を毎年1回必ず開き、社員旅行も実施している。こういうのが必要なんだよなと、改めて感じているところです。

    最近の新入社員に聞いても「昔は社員旅行があったんですか? またやるなら行きたいです」というんです。ですから当社でも、ぜひまた復活させたいなと思っています。集団で行動することも大事なのだと、今になって分かりました。

    栢森 ダイコク電機の場合は、社員旅行といっても全員で同じところに行ってワーッと宴会をするわけではないんです。目的地だけ決めて、そこで一応は立食パーティなどを開くのですが、そのパーティに参加しさえすれば交通手段も自由、家族や彼氏、彼女を連れてくるというのも自由だよと。

    社員旅行の参加資格も明確な基準を設けています。年商目標に対して何%以上の上乗せをし、昨年の実績に対して少なくともプラスであること、損益分岐点比率が何割以下であることなど、いろいろな条件を決めまして、「それをクリアしたら海外旅行にみんなで行こう」と。

    そして、ハワイとラスベガスと北海道の3カ所でパーティを開きまして、好きなパーティに出ていいという風にしたんです。休みも月曜日から金曜日までの5連休。前後の土日を合わせて最大9連休で現地に行ってもいいし、旅行に使うのは2、3泊ということでもいい。パーティに参加したくないという人は、旅行費の補助は出しませんが、休みを取るだけでもいいよと。これは、若い人にはすごく好評でしたね。みんなで温泉地に行って宴会をしたいという50代の社員には「統一感がない」と批判されましたが(笑)。

    社員が自発的に、「組織活性化委員会」を組織。

    ────『組織活性化委員会』という委員会活動もされているそうですね。

    木村 副部長会の中に委員会が含まれるという形で活動しています。まずは、社内に休憩室を作るという活動をし、9月末にオープンしました。自動販売機やテーブル、椅子などを置いた、ちょっとした休憩スペースなのですが、もともとは私の役員室だったんです。それが委員会のメンバーから「使いたいので出てもらえませんか」といわれまして(笑)。私も席は社員に近いほうがいいなと思っていたものですから、明け渡したんですよ。で、「何に使うの?」と聞くと、「休憩スペースを作りたいんです」と。

    社内に喫煙ルームはあるんですが、煙草を吸わない人からも「ああいう場を作ってほしい」という声が出ていたんですね。ちょっとしたカフェ風のテーブルと椅子も、これは各部長の有志で出して設置しました。今後、社員から何か要望があれば副部長会で検討してもらい、社員がすごしやすいスペースになるようなものであれば設置していく予定です。

    ────有志とは、すごいですね。

    木村 経費削減といっているのに会社に請求しようとしていたもんですから、「いいよ、出すよ」と(笑)。いや、大した金額じゃないんですよ(笑)。

    ────喫煙ルームなどでの何気ない会話が、仕事を円滑に進める上で意外に役立つというのは、よくいわれることですね。

    木村 そうですね。私も、あまり良いことではないのですが、喫煙室で、「じゃあちょっと、これお願い」と、仕事の話をしてしまうことがありまして......。煙草を吸わない人からは、「木村さん、煙草部屋で仕事を進めないでください」といわれますが(笑)。それと同じように、煙草を吸わない人のための休憩室もほしいということなんですね。

    ────社員のみなさんの自主的な活動からそういった動きが出るというのは、素晴しいことですね。

    木村 組織活性化委員会も副部長研修のワークショップから派生した活動です。「社員は常日頃からいろいろな要望を持っているけれども、それをいきなり社長に対して『こうしてください』ということはできない。まずは自分たちが社員の要望を聞く入り口を作ろうじゃないか」ということで、発足したんです。

    全社員に無記名のアンケートを実施し、
    組織の課題をあぶり出す。

    ────みなさんの要望は、どうやって吸い上げておられるのですか。

    木村 副部長研修を実施する前に、組織の課題を明らかにするために、無記名で全社員からアンケートを取る『組織診断』を行ったんです。そこに寄せられた意見や要望に対して、「これはすぐに解決できる」「これは少し時間がかかる」と、一つひとつ潰していっているところです。

    ────『組織診断』には、意見が多く寄せられたのですか。

    栢森 とにかくみんな、たくさん書いてくれました。会社を変えようという意気込みが非常に感じられましたね。

    木村 読む側は、悲しい思いで読みましたが......。誰が書いたかなどはわかりませんが、良いことなんてほとんど書いてないですからね。ちょうど1年近く経つのですが、読んだ人たちからも「やっと心の傷が癒えてきた」という話を聞きます。書かれている内容は想定の範囲内ではあったのですが、無記名なので好きなように書いてくるんですよ。ですから、いわれる側としては傷ついたことも多かったと思います。

    栢森 とはいっても、あまりストレートにいわず少し婉曲に表現していたり、気を使って書いているなというものも結構ありましたよ(笑)。

    ────みなさんが共通して指摘された、特徴的な問題などもあったのでしょうか。

    木村 「会社の方向性をもっと明確にしてほしい」、「社長の話を聞く機会がほしい」といったものが一番多かったですね。全社集会もこれをきっかけに開催するようになったんです。

    ────調査や研修がそれだけで終わってしまう企業も多くありますが、御社は活動を継続されていることがすごいですね。

    栢森 私は細かい指示は何もしていませんから、木村専務を始め、部長、副部長、リーダークラスの人たちがきっちりフォローしてくれていることが大きいですね。

    ────人と組織の問題は先送りできるだけに、手をつけられずにいる企業も少なからずあります。

    木村 私も、先送りしたいと思うことはたくさんありますよ(笑)。けれども、ワークショップを経てから部下の意識がすごく変わりまして、必ず議事録を残しているんです。そして、「この案件は木村専務待ち」などと書いて、私にしつこく提出してくるんですよ。今日もそういう案件を発見してしまいまして、決裁して「もうこれで議事録から消してね」とお願いしたところです(笑)。

    そうこうするうちに、ワークショップに直接関わっていない2年目、3年目の社員が、毎月1回イベントを開催して、社内のコミュニケーションを深めるという活動を始めていますしね。「ビアガーデンにジャズを聴きに行く」とか──これは大雨に降られて、ほとんど聴けなかったようなのですが(笑)──イントラネットの掲示板で告知して募るんですよ。ビアガーデンは、20人ぐらいで集まって行っていましたね。先日も昼休みを利用して、みんなに「何が楽しいか?」というヒアリングをしていたようですし。

    ────そういう動きが起こるきっかけが何かあったのですか。

    木村 こちらが何かを指示したということはありませんので、やはり何か空気を感じたのではないでしょうか。「自分たちも何かしないと」と。本当に感謝しています。

    上からの圧力ではなく、社員の自発性が組織を変える。

    ────現場から自発的な変化が起こる、その一番の原動力はどこにあるのでしょうか。

    栢森 私が見ていても、ここまで自主的に変化が起こるのはすごいと思うんですよ。何が原動力なのか、私が聞きたいくらいで(笑)。ダイコク電機ではちょっとしたことを変えるのにも時間かかるのが、元気では変えることが楽しいというくらいの雰囲気で動いてくれているんです。業界が厳しい状態が続いているだけに、成果報酬などもないにも関わらず、みんなモチベーション高くやってくれている。早く業績を良くしてあげたいと、本当にそう思いますね。

    木村 一番の要因は、社長を始めとする親会社のダイコク電機の方々の接し方だと思います。強引に改革するのではなく、少し待ってくれているといいますか、余裕がある感じがするんです。少し前まではそれに甘えていたのですが、これではいけないんじゃないかとみんなが感じ始めたんですね。それで動くようになったのだと思います。自分たちで動いていかないと組織は変わらないということが分かって、何とかしなければと思う人が増えてきたのだと思います。

    ────みなさんの中に自発性が自然に生まれるまで待つというのは、経営側にとっては我慢のいることですね。

    木村 そうですね。業績が好調だったときには、みんな売り上げをあまり気にしていなかったんだと思います。考えていたのは、「さあ、次は何を作ろうか」ということだけで。作品が売れて、結果が出て、会社が黒字になっているということは、気にしていなかった。それが逆に業績が悪くなってからは、「このままではまずい」と考えてくれる人たちが増えたという気がします。

    経営側としては、業績が下がり始めたときに、社員が自分たちで考えるように仕向ける施策をもう少し取り入れていればよかったというのは、今になって後悔していることです。けれども一方で、マイナスになった時点での改革のほうが強いという気もします。

    業績の良いときに組織に手を入れるというのは、なかなかできませんよね。業績とタイミングを常に見ながら変えていくということが大事なのかもしれません。以前は「会社が方向性を見出していないのに自分たちに何をしろというのか」という声もありましたが、ワークショップ以降は、そういった話はまったく聞かなくなりました。今後は、このモチベーションを継続させていかなければいけないと思っています。

    ────組織を変えるのは、上からの圧力ではなく社員の方々の自発性だということを実感しました。ありがとうございました。

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