OBT 人財マガジン

2009.04.22 : VOL66 UPDATED

この人に聞く

  • 西川産業株式会社
    代表取締役社長 西川 八一行さん

    創業443年の老舗企業に学ぶ、
    「変えるもの」と「変えないもの」(後編)

     

    帝国データバンクの調査によると、2008年の一年間に倒産した企業は1万2681件(※)。負債総額は11兆9113億200万円と戦後7番目の水準を記録し、大型倒産の増加がデータからも見てとれます。会社はつくるよりも、継続させるほうが難しい。そのことを、今ほど考えさせられる時代はありません。そのような経済状況の中、今年創業443年を迎え、寝装寝具業界のシェアトップを守り続ける西川産業は、新ブランドや新商品を次々と投入し、攻めの経営を展開しています。400年を超えて事業を継続させてきた秘けつとは。老舗・西川産業を率いる若き経営者、西川八一行さんに伺いました。

    ※負債額1,000万円以上の倒産を集計したもの。

  • 西川産業株式会社 http://www.nishikawasangyo.co.jp/

    1566年創業。初代・西川家の仁右衛門が19歳で蚊帳・生活用品の行商を開業したのが西川産業の始まり。1615年には江戸進出を果たし、日本橋通りに支店を出店。主力商品であった蚊帳や畳表に加え、1738年には弓問屋を買収して事業を拡大。並行して、江戸の大火で店舗を焼失した経験から再建費用の積立金制度を創設するなど、経営体質の強化に努める。現在の主力商品である寝具を扱い始めたのは、1887年(明治20年)ごろのこと。寝具の機能面を重視する商品開発を貫き、「健康睡眠」をキーワードに「ムアツふとん」に代表されるヒット商品を次々と打ち出している。

    YASUYUKI NISHIKAWA

    1967年生まれ。大手銀行のニューヨーク支店勤務などを経て、1995年に西川産業に入社。1996年に取締役、2000年に代表取締役副社長、2006年に代表取締役社長に就任。

  • 評価制度を変えれば、社員の行動も変わる

    ────社史編纂と社是をまとめた「Corporate Philosophy」カードの作成を通して、「西川産業の原点」を確認された後、具体的にはどのような改革の手を打たれたのでしょうか。

    いくら社是を再確認して「行動を変えよう」といっても、評価や処遇が改善されなければ、社内はよくなりません。ですから、まずは評価の仕組みを変えないといけない。そこに、特に力を入れました。

    どういうことかといいますと、当時は年功序列的な要素が強い運用のされ方をしていたんですね。実際には5段階の評価がなされるはずが、みんなに「3」がつく傾向があった。そうすると差が出ませんから、結果的には年功序列とほぼ同じになってしまうわけです。もちろん、年功序列を飛び越えて昇進昇格する人もいましたが、なぜ抜擢されたのかということが、周囲から見ると透明ではないという面もありました。

    また、評価の項目も「やる気があるか」「真剣に取り組んでいるか」といった情緒的要素が強いものがほとんどでした。どれか1つが高くついたら残りも似た評価になるような、同じことをいいかえている設問が多かったんですね。当然ながら、「好きか嫌いかで評価されている」という不満も、現場からは出るわけです。

    そこで、まずは評価の基準書を作成して、何をもとに評価されるのかを明確に打ち出すようにし、評価が高い人も低い人も必ず出るという仕組みに変えました。5段階評価のうち、何人かには「1」や「5」を必ずつけなくてはいけないという配分を設け、評価が悪い人は降格することもあるという厳しいものにしたんです。上司に説明責任を持たせるようにもしました。評価結果は必ず部下にフィードバックし、何が本人に足りないのかを伝えましょうと。

    また、部下が上司を評価する仕組みも取り入れました。上司批判を公式にさせるなんて、と社内には不評でしたが(笑)、やはりそれによってある程度の傾向が見えてくるんですね。ただし、どの部下がどんな点をつけたかまではわからないように、上司には標準偏差のようなものを伝えるという配慮はしています。導入当初は「この結果を本人に伝えて大丈夫か」と人事が心配するケースもありました。しかし、基本的にはそのまま渡しましょうと。それをどう受け取るかは、自分で考えほしいと思っているんです。

    ────部下から辛口の評価がついた方もいたということですか。

    評価の差は、かなり出ますね。ただし、部下に優しい人がいい上司になる危険もありますので「結果を鵜呑みにしないように」ということは、上司にもいっています。よくあるのは、「部下を育てようとする意識があるか」という項目に低い評価がつくケース。確かに部下に対して、良くいえば「OJT」、悪くいえば「盗んで覚えろ」という上司はいるものの、過保護にしすぎて「教育してくれるのが当たり前だ」となってしまっても、部下の自主性がなくなる。その意味で、データを100%鵜呑みにはしないようにはしています。

    またその後には、複線型の人事制度も導入しました。マネジメントを目指すのではなく、マイスター的な要素を高めていきたいという人に向けて、総合職に一本しかなかったキャリアコースに「専任職」というコースを新たに設けました。一般職から総合職にチャレンジしたい人のために、職種転換制度もつくった。やる気と能力によって、いろいろな道が開けるという体系をつくるということも、やってきたことの一つです。

    ────人事制度を再構築したことで、社内に変化はありましたか。

    新しい評価項目で、部下を評価するようになった。まずはそのことが、一つの変化ですよね。また、上司には、結果を部下にフィードバックしなくてはいけないということがストレスになっているようです。そのストレスがあればこそ、日ごろから部下をよく見ていなくてはいけないという意識が芽生える。それ自体が効果といえるのだろうと、私は思っています。

    また、一定の立場以上の者は、上司評価の結果を見ることができますので、「やはり、こういう評価がついたか」と思う人には、結果をもとにした話をするようにしています。中には部下からの評価に、ショックを受ける人もいるんですね。自分としては一生懸命に方針を説明しているつもりなのに、「目指す方向性がハッキリしているか」という項目の評価が低いといった具合に。

    そういう人には、「あれもこれもと伝えすぎずに、時期に応じた方針を立てたほうが、部下にはわかりやすい場合もありますね」などと話すと、ガックリきていたのが、少し「ああ、そうか」と思ってくれたりね。上司自身も自分を冷静に見る機会がこれまではあまりなかったと思いますので、その意味でも多面評価の効果が徐々に出てくることを期待しています。

    ────変化は徐々に起こる、ということですか。

    そうですね。まずは新しい制度を説明し、何年するうちに実績が出て、そこで初めて本当の意味を感じてもらう。変化はそんな風に起るように感じています。理屈と説明だけでは、本当の意味は理解されにくいですからね。

    例えば降格人事も、降格される人が実際に出てくると「これは、ボーっとしているとまずいな」といった意識が生まれてくる。もちろん、降格した人にはレッテルを貼ることなく、戻るチャンスもちゃんと用意していますが、そのようにして、本人の変化に応じて処遇も変化するのだということが染みていくのではないかと思いますね。

    商品のブランド構成を大胆に改革し、強いメッセージを打ち出す

    並行して、マーケティングや商品のあり方も見直しています。品質の高いものをつくれば売れるという時代は終わりました。もう一度それを意識して、テーマをしっかり打ち出したものづくりをしようということです。

    単純にいえば、私どもは「寝具」を扱っているわけですが、それを「具」として、つまり単なる「道具」の一種として販売するだけでは、そこに付加価値はありませんから、どうしても価格競争の世界になってしまう。そうではなく、われわれが本当に目指すのは何なのかを、改めて考えようということなんですね。

    つまり、お客さまが欲しいのは寝具ではなく、安らかな眠りやその先にある何かを求めていらっしゃるわけです。「健康」や「安らぎ」、「美しくありたい」、「若くありたい」といったことが、今、いろいろなところでいわれるようになっていますね。そういった、「明日も元気でいたい」という「想い」をテーマにしようと、マーケティングサイドのスタッフには話しています。

    ────御社は「ホームファッションの総合商社へ」というコンセプトを掲げておられますが、そのことともつながってくるのでしょうか。

    そうですね。「ホームファッション」もそうですし、今申し上げたような「体の内側からくる美や健康」といった「明日を元気にするための機能」もテーマ。また、一方では、われわれの商品には日用品的要素もあるというもの実情ですから、これらをきちんと整理して、「ファッション」を求めた商品なのか、「ファンクション(機能)」を求めたものなのか、「ファンダメンタル」な基礎商品なのかを、ハッキリと打ち出そうということなんです。「すべてを盛り込みました」というのは、「何もありません」というのと同じですからね。

    現実には、今みたいな経済環境になると、「ファッション」の需要は少し下がって、「ファンクション(機能)」という実質主義のニーズが強まり、「ファンダメンタル」な基礎商品の売り上げも高まってきます。逆に、景気がよくなれば「ファッション」や「ファンクション」の需要が増えるといった動きがある。そのバランスを考えて商品を企画することが必要なんですね。

    そういった視点から、ブランドのラインナップをコンパクトに整理するということもやりました。ライセンスブランドだけでも20ブランド近くを廃止し、全体としては50ブランド近くあったものを約半分に絞りました。並行して、新しい自社ブランドを立ち上げていったわけです。

    ブランドがやみくもに多くなると、マーケティングや販促がなおざりになります。多くのブランドがあるから、多くのお客さまにお応えできると思いがちですが、そうではないんですね。今はブランドを集中化することが必要で、そのためにはお客さまのお気持ちを知りたいと思うことが第一。当社は卸売業ですが、製造小売業的な感覚を持ったマーケティング、商品開発、販促を強化していこうという話をしています。

    ────これまでのブランドに愛着のある社員の方も、多かったのではないかと思います。ブランドを整理するにあたって、一番ご苦労されたのはどのようなことでしたか。

    どのようにすれば納得性が高まるかということは、まず考えました。ポイントは、人事評価制度の再構築と同じで、基準をハッキリと示すということです。なぜそのブランドを廃止するのかを、明確化するということですね。好き嫌いで判断したと思われたのでは、社員は納得しません。

    また、ブランドをなくすということは、その分の売り上げがなくなるということでもある。売り上げが下がっても仕方がないというあきらめ感が漂いがちなところを、そうではなくて、これから何を伸ばすべきなのかという方向に仕向けるのが、一番難しいところですね。新しいブランドはすぐに数字ができるわけではありませんが、廃止するブランドは確実にいっぺんに売り上げがなくなりますから。

    ────そのリスクをあえて取って、決断された。

    結果的にはそうですね。そうでもしないと、ブランドを絞ることはできません。絞らなければ、「ブランドの数が多いからコンセプトが決められない」「マーケティングをしている暇がない」という悪循環になります。ですから、そこは申し訳ないけれども「この数字(売り上げ)とこのコンセプトでは、このブランドはダメですね」ということを、社員にも説くようにしています。

    同時に在庫管理のあり方も見直しています。在庫は利益にもなるけれども、見えない損失にもなりうるもの。在庫の良し悪しを明確化するというのも、非常に大事なことです。現場には、将来売れるかもしれないという淡い期待があるわけですから、そこは明らかにしたくないわけですね。それに対して、社内の反対はあったとしても、ある意味冷徹に区切ることが必要だということです。そのために、全員から絶対的な納得は得られないとしても、8割くらいの人が「ああ、そうだね」と冷静に理解できるような基準をつくるよう努めています。

    「眠り」は、人類共通の「想い」を実現する大切な要素

    ────最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

    一つには、「衣食住」の中で「住」に対する関心をさらに高め、マーケットをつくり上げていきたいということがあります。今はちょうど、消費や自己投資の対象としての「衣食住」のバランスが見直されているところですね。欧米などは「住食衣」のようなバランスになっていまして、それが正解とはいい切れませんが、日本の「住」に対する関心をもう少し高め、皆さんが幸せを感じて、毎日の生活が楽しいと感じられるようにする。それが大きなテーマです。

    そのために必要なのが、さきほどお話した「ファッション」「ファンクション」というコンセプトです。よりファッショナブルで楽しい寝具をご提供することは、「楽しい明日を迎える」ことにつながります。また、「美」や「健康」、あるいは「子ども達を育む」ということと眠りとは、非常に深い関係がある。このところの社会的な問題でいえば、うつ病や認知症を引き起こす要因にも、眠りは関連があるといわれています。そういった「眠り」の科学的な側面をさらに研究して、社会的な認知を高める活動をしていきたいと考えています。

    これまでの寝具は、その国の文化によって個性があり、国際的なビジネスにはなかなかなりにくいものだったんですね。しかし、そういった科学的な視点で考えると、「眠り」は人類普遍の「想い」を実現する大切な要素だと捉えることができる。そこを目指すことで、より多くの方にこの考えをご理解いただけるようにし、ゆくゆくはグローバルなビジネスとしてさらに広めていきたいという夢もあります。

    そのための一番のポイントは、お客さまの心理を知りたいという気持ちを持てるかどうかとうことなんですね。「お客さまの"想い"に応える」という視点から戦略を考える思考を持ち、行動に移せる人財が必要になります。極論をいえば、「お給料は誰からいただいているのですか」と質問されたときに、「買っていただいているお客さまからです」と、全員がいえるかどうか。たいていは、「会社からです」といったことになってしまいがちですよね。そういった、求める人財の基準を持ちながら、まずは部下をコーチできる上司を育成していきたいと考えています。

    ────ありがとうございました。

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