OBT 人財マガジン

2009.10.28 : VOL78 UPDATED

この人に聞く

  • シャボン玉石けん株式会社
    代表取締役社長 森田 隼人さん

    17年間の赤字に耐え、今や年商60億。
    理念を貫く経営が、顧客と社員の心をつかむ(後編)

     

    来年、創業100周年を迎えるシャボン玉石けんは、『健康な体ときれいな水を守る』ことを理念に掲げる、"無添加石けん"の草分け企業。化学物質や合成添加物を一切含まない安心・安全な石けんが多くの消費者に支持され、8年連続無借金経営。社員70名で年商60億円を売り上げます。しかし、その道のりは苦難の連続でした。従来の主力商品であった合成洗剤の製造を一切中止し、"無添加石けん"専業に切り替えたのは1974年のこと。以来、売上高は激減し、17年間の赤字が続きます。その後、環境問題に対する関心が高まる時流に乗り、業績はV字回復。"シャボン玉"ブランドを築き上げました。どうすれば時流をつかめるのか。ブランドを育てる秘けつは何か。2代目社長・故森田光德氏から経営を継承し、3代目社長としてシャボン玉石けんを率いる森田隼人さんに伺いました。

  • シャボン玉石けん株式会社 http://www.shabon.com/

    1910年に森田範次郎商店として創業し、日用品の小売店としてスタート。1949年に法人(株)森田商店を設立、1964年に森田商事(株)に社名を変更。1987年に新工場の落成に伴い、社名を現在のシャボン玉石けん(株)に。森田範次郎商店時代から石けんを販売し、生活様式の変化に伴って森田商事時代には、合成洗剤が主力商品に。しかし、2代目社長・故森田光德氏は原因不明の湿疹に長年悩まされ続ける。転機が訪れたのは、1971年のこと。国鉄(当時)から「合成洗剤で機関車を洗うと車体がサビる」と、無添加粉石けんの開発・製造を依頼され、携わった自身の湿疹も快癒したことから、「自分が怖くて使えない洗剤は売れない」と無添加石けん専業への転身を決意。それにより月に8000万円あった売上は78万円にまで減り、100名いた社員も一時は5名にまで激減。しかし、苦境の中でも信念を曲げずに無添加石けん専業を貫き、1992年に業績がV字回復。黒字転換を果たす。
    企業データ/資本金:3億円、従業員数/100名(連結、2009年7月現在)

    HAYATO MORITA

    1976年生まれ。2000年、シャボン玉石けん株式会社に入社。2001年に取締役、2002年に取締役副社長に就任。2007年3月にシャボン玉石けん株式会社、シャボン玉販売株式会社、株式会社シャボン玉本舗、シャボン玉商事株式会社の4社の代表取締役社長に就任。同年9月に有限会社シャボン玉企画の代表取締役社長に就任する。

  • ポジションを増やして、若手社員を登用

    ────組織を運営するにあたっての、ご自身の役割をどのようにお考えですか。

    私も若いですが、当社は社員もみな若いんです。その昔、約100名いた社員は、赤字が続く間に5名にまで減り、その後も中途採用や新卒採用を行いましたが、人がなかなか定着しない時代が続きました。ですから今いるのは、1992年に黒字化した以降に採用した社員がほとんど。20代、30代が圧倒的に多く、最年長には78歳の顧問がいますが(笑)、平均年齢は恐らく32歳くらいではないでしょうか。トップとしては、共に成長し、彼らの力を伸ばせる環境を整えなくてはいけないと思っています。

    ────具体的には、どのような取り組みをなさっているのでしょうか。

    若い社員を、ある程度のポジションに積極的に就けるようにしています。そのために組織図も変えました。これまでは営業部と製造部という大きなくくりしかなく、例えば通販は営業部の中にあり、物流は製造部に含まれていたのを、部署として独立させたんです。東京営業所も昨年作りましたし、研究室は研究開発室と分析室に分けた。品質保証部も新設しました。それぞれが責任を持てるように変えたわけです。

    立場が人を育てるといいますか、これまでは上司に頼ってきたような社員も、組織の長になれば、自分で何とかしなければいけなくなります。考えて行動せざるを得ない環境にすることで、若手の成長を後押ししようと考えたのです。

    技術を継承し、ナレッジを蓄積する

    また、研究室を研究開発室と分析室に分け、品質保証部を新設したことには、もう1つの意味があります。現在シャボン玉石けんの品質は、今年79歳になる顧問の井関(前常務取締役工場長・井関巌氏)が管理しています。井関は、石けん作りで最も重要になる"釜炊き"を61年間続けている、シャボン玉石けんの要。定年後も顧問として品質面を見てもらっていますが、井関の技術を継承するということも、進めていかなくてはなりません。そこで、職人技で一括りにされてきた部分を数字で捉えられるように分析して、蓄積していっているところです。

    ────井関顧問の中に暗黙知としてある基準を、形式知に変換する。

    そうです。JIS規格が明確な基準の1つではありますが、当社ではさらに厳しい独自の規格を設けています。基準に満たない製品は釜に戻して炊き直すのですが、これまではその判断を井関一人に頼ってきました。今後は井関に頼りつつも、若手の社員でも同レベルの品質管理ができるように、体制を整えようということです。

    これに先立ち、2年前には商品開発の体制も整えました。新商品は、お客さまからの「こういうものはないの?」というお声を受けて開発されるケースが中心。例えば洗濯用石けん『シャボン玉スノール』の液体タイプなど、リニューアルも含めて毎年何らかの新商品を発売しています。しかし、今までは開発の流れが不透明でした。その都度担当者が違い、見積もりなども蓄積されていなかった。そこで、商品開発チームを作ったんです。

    ────人選はどのようになさったのですか。

    まずはやりたい人間を集めようと社内で公募したところ、結構な人数から手が挙がりましたので、その中からこちらで人選しました。みんな兼務ですが、研究室の社員だけでなく、通販や工場の担当者など、各部署から若手を集めた7名の混成チーム。このメンバーでいろいろな議論をしたり、協力会社と打ち合わせたりしながら、商品開発を進めています。

    伝統を守りつつ、時代に合わせた商品を打ち出す

    ────シャボン玉石けんとして出してよい商品かどうかという商品開発の基準は、どのように判断されるのでしょうか。

    『健康な体ときれいな水を守る』という理念に、そぐうかそぐわないか。これがすべての判断基準になりますね。

    ────例えば、従来は『純石けん分99%の無添加石けん』がシャボン玉石けんの特長でしたが、その後に開発された液体石けんの純石けん分は30%です。液体タイプを発売することに、社内で議論はありませんでしたか。

    ありました。反対とまではいきませんでしたが、「どうだろう」と。純石けん分については、単純にいうと、『砂糖』と『砂糖水』だと考えていただくといいかと思います。これまでは、当社は『砂糖』一本でやってきたわけです。『砂糖水』にすると、水が腐らないように何らかの添加物を入れなくてはいけないのではないかと、液体タイプには否定的でした。

    しかし、生活様式が変化し、洗剤業界全体を見れば液体タイプが伸びています。当社でも、お客さまから「液体タイプはないのか」というお声を、多くいただいていました。そこで研究を重ね、液体の知識やノウハウが蓄積できましたので、発売に踏み切ったんです。

    ────『砂糖』と『砂糖水』に例えられるということは、液体石けんの純石けん分30%を除いた残りの70%は『水』ということですか。

    そうです。防腐剤などの添加物は、一切使用していません。石けん自体は弱アルカリ性ですので傷みませんし、水も滅菌して純水を使うなど、独自のノウハウで無添加を実現しました。ですから当社の理念に照らしても、逸脱するものではないだろう、と。むしろ、固形や粉末タイプはどうも...と、石けんを敬遠してこられたような方々に関心を持っていただくきっかけになるのであれば、液体タイプを出すことには意義があると思っています。

    ────伝統を守りつつも、時代に合った商品の開発も必要だということでしょうか。

    必要ですね。ほかにも、10年前にはなかったものでいえば、食器洗い機専用のパウダータイプなどもそうです。こういった、時代に合わせたものは、今後も積極的に作っていきたいと思っています。

    産学共同研究で、石けんの新たな可能性を探る

    そのためにも力を入れているのが、大学との共同研究です。まずは2001年から7年をかけて、『産・官・学』の合同チームで、環境に配慮した消防車用の石けん系消火剤の開発を手がけました。また、現在は、広島大学ウイルス学研究室と共同研究で、ウイルスに効果のある石けんを開発中。インフルエンザウイルスはもちろん、ノロウイルスにも効果のある石けんが間もなく完成する予定です。

    これもきっかけは、お客さまからの声なんです。最近のハンドソープや洗剤には、『除菌』と表示してあるものが多いですね。当社も、「シャボン玉の石けんには除菌効果があるのか」とお問い合わせいただくことがよくあります。『除菌』だけをいうのであれば、水洗いでもある程度の細菌は落とせます。もちろん、石けんを使えば、殺菌成分は入っていなくても、さらに除菌できる。というご説明をずっとしてきたのですが、一度、石けんの効力をきちんと調べようと考えまして、広島大学のウイルス学の先生にお願いをしたんです。

    そうしたところ分かってきたのは、石けんに関する研究がとても少ないということでした。紀元前の古代ローマ時代のころからあるものだけに、古すぎて調査の対象になりにくいんですね。界面活性剤を研究する方は、新しい物を探そうとしますから。一番ベーシックな石けんは、論文も少ない。そこで、石けんでウイルスを落とせるかという実験を、一からお願いして引き受けていただいて。ノロウイルスについても、かなりいい実験データが取れているんです。

    そもそも、『除菌』とよくいいますが、細菌とウイルスはまったく別もの。学術的には、ウイルスは非生物になるのだそうです。さらにウイルスは、膜を持つ"エンべローブ"と呼ばれるものと、膜を持たない"非エンべローブ"と呼ばれるものに分かれます。"非エンべローブ"のほうが強いのですが、その代表例がノロウイルス。これまでは、加熱するか塩素系漂白剤などに含まれる次亜塩素酸ナトリウムでないと消毒できないといわれてきたものなんです。

    ────それに対しても、石けんは効果があるのですか。

    そうです。すでに業務用の一部で、除菌・消毒効果のある石けんの発売を始めています。今後さらに、いろいろな実験データの裏付けがしっかり取れた段階で、一般向けに発売したいと考えています。

    社員全員が同じ方向を向いている

    ────今後の目標としては、どのようなことをお考えでしょうか。

    最終的な目標は、日本中の方々にシャボン玉石けんを使っていただくことですが、当面の目標としては、売上高でいえば年商100億円。現在の年商が60億円ですので、それに対して目標にしやすい数字ということもあり、100億円を目指しています。ただし、社員数という意味で会社を大きくすることは考えていません。今の社員数の70名にプラスアルファくらいで100億円を達成できれば、と思っています。

    社員全員が同じ方向を向いていることが、当社の強み。経営者が先代から私に代わっても、『健康な体ときれいな水を守る』という、目指す方向は変わりません。今の社員数は、理念を共有してやっていくには、ちょうどいい規模だと思っています。

    ────社員の意識のベクトルがそろわないことに苦労する企業も多くあります。御社で理念が共有できているのはなぜなのでしょうか。

    まず採用の段階で、理念に共感して応募してくる人が多いということがあると思いますね。入社前には、先代の著書である『自然流「せっけん」読本』(森田光德著・農山漁村文化協会刊)を読んで感想文を提出してもらっています。まずは、社員自身にシャボン玉のファンになってほしいと思っているんです。中には、採用しても何らかの事情で辞めていく社員もいますが、面白いのは、辞めた後も「石けんはシャボン玉を使っています」という人が多いんですよ。

    ────それはうれしいですね。

    ええ。本当にいい物を作っているという認識を、みんなが持っているんですね。入社して内情を知れば知るほど、ファンになる。よりよい物を作ろう、もっとお客さまに喜んでいただける物を作ろうという、そういった気持の土台がしっかりできているということを感じます。

    ────経営理念が製品に反映されているからこそ、社員の方々も日々の仕事を通じて理念を実感することができるのですね。本物を追求することの大切さを、教えていただいたように思います。ありがとうございました。

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