OBT 人財マガジン

2012.08.08 : VOL145 UPDATED

人が育つを考察する

  • 第三回【成長の瞬間】自らに負荷をかけることで成長する

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      株式会社 ベジテック
      神奈川事業部 副事業部長
      橋本 徹さん

       
      "育つ人と育たない人"の差は何なのか?OBT協会では、人が成長するのは仕事の場での経験・体験だと考えています。そこで、今回我々は第一線で働くビジネスマン達にどのようなプロセスを経て育ってきたのか、その成長の軌跡について伺いました。(聞き手:伊藤みづほ、菅原加良子)


    • 【プロフィール】

      橋本 徹(TORU HASHIMOTO)

      1969年生まれ。1987年に前身の紀伊国屋(現ベジテック)入社。配送担当、大手スーパーの営業担当を経て、2011年より現職。

      株式会社ベジテック(http://www.vegetech.co.jp/)

      1969年、東京都昭島市に株式会社紀之國屋を設立。青果物の加工・販売、仲卸業務や土壌調査、残留農薬検査、栄養価分析、品質管理業務等幅広く手掛ける。1992年、株式会社多摩サービス及び株式会社埼玉青果サービスを吸収合併し、社名を株式会社ベジテックに変更。
      資本金/4億3,750万円、従業員数/480名(臨時社員含)、売上高/559億円(平成24年3月期)

    • 環境の変化を受け入れる

      ────今回、私たちは"成長の瞬間"について様々なビジネスマンの方々にお話をお伺いしております。同じような環境の中で育っても、そこから何かを学びとる人と、何も学ばない人(学べない人)、その違いは一体何なのか。どういった経験を経て成長したのかをお聞きし、その成長プロセスをひも解いていきたいと思っております。橋本さんは、ご自身の成長に大きく影響を与えた物はなんだったと思いますか?

      職場を異動したことが大きかったと思います。私は、ここ数年で2回の異動を経験しているのですが、そこで考え方・ものの見方、そして仕事観が180度変わりましたね。

      ────環境が変わったことによって、具体的に何が変わったのでしょうか?

      私は、入社してから、ずっと東京事業部というところに22年間所属してたんですけれども、その事業部はうちの会社の中で一番大きくて、凄く忙しいところだったんです。今日・明日で何をしなくちゃいけない、来週は何がある...とか、とにかく仕入れや分荷、配達、そして、営業まで一人でいろいろなことを並行しやらなくちゃいけないところでした。だから、全てにおいて日常に追われる日々だったんです。ただ、一人で任される分、自分の努力で注文数をクリアーしたり、大きな商談を取るとか、そういったやりがいはありましたね。それが、今から3年前に千葉に異動になり、行ってみるとそこは同じ会社なのに、東京とはまったく違う環境だったんです。同じ品物、同じお客様に商売しているんですけれども、やり方が全然違っていて、作業は全部アウトソーシング、運送業者さんがいて殆どやってもらってるんですよ。だから営業職は、営業だけを集中的に考えることができたりとか。かなり時間に余裕があるところだったんです。

      私も以前から管理職という役職にはついていましたが、千葉に異動したことによって初めて本来の管理職としての役割を経験することが出来たというか。例えば、細かい話すると、経費の部分で電気代だったりガス代だったり、減価償却費とか。今まで知らなくていいことも知ってここを運営していかなくちゃいけないという環境になったんです。これは経営者的な視点に立つことが出来るいい勉強になりました。

      ────今まで、部分しか見ていなかったところから、組織を運営して行くという経験をされたということですね。その他に何か、気付いたことはありますでしょうか。

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      東京に居た時は、常に忙しくて、自分の事しか考えていませんでしたね。人の話もあまり聞かなかったし。でも、こっちに来たらそうはいかないですよね。異動してきて右も左もわからない組織の中にポンと入れられて、自分中心だみたいな態度をしていると全然話にならないじゃないですか。自分から声をかけて信頼関係を築いていかなくてはいけないし、組織をまとめていかなくちゃいけない。私は、部下を引き連れて異動したわけでもないですから、自分には何もないわけですよね。下手すればマイナスからスタートしなくちゃいけない。そんな中では、みんなの話を聞かなくちゃいけないんだって思いましたよ。

      ────自分一人で自分の範囲内の仕事を進めることは簡単であっても、全体を見渡しながら人をマネジメントして行くということは、非常に大変なことと思います。

      そうですね。千葉に来て初めて全体を見ながら人を動かすという経験をしましたから。やっぱり見ないと、指示も出来ないですよね。その人にあった指示ってあるじゃないですか。ちょっと、とんがってる人と、控え目な人じゃ指示の仕方が違う。それに、不平不満もみんな必ずある。私も昔はかなり言っていましたし(笑)。あとは、自分の言動や考え方が組織に大きな影響を及ぼすとか。例えば、ミーティングの中で使った物のいい方を部下がお客様にそのまま伝えてしまったことがあって。だから、自分がちゃんと注意して、指示を与えなくちゃいけないとか。そういう失敗はありますね。

      ────部下は上司を良く見ていますからね。いい部分も、悪い部分も。

      本当にその通りだと思います。これは研修で学んだことなのですが、"リーダーとは居心地の良さを求めてはいけない"と。自分で居心地良くしてしまうと、それが全部部下に伝わって行く。そのことによって、組織が乱れて壊れて行くとか、雰囲気がおかしくなって行くっていうのを聞いて。そういう観点もあるんだって思って。だから、それから自分自身の行動にも気を配るようになりました。

      ────異動によって橋本さんは、自身を見直すいい機会を得たということですね。

      そうですね。物事をゆっくりと考える時間がたくさんあったので、今までの仕事の仕方、そして、今与えられている仕事を一歩下がって客観的に見ながら日常が過ごせるようになっていましたね。でも、そこで思ったのが、これだけ時間があって、80数名の人がいて、それで売上規模と比較すると、これでは儲からないなって。実際に本当に数字が出ていないところだったので、どうにかしなくちゃいけない。とはずっと思っていましたね。初めに業務の効率化。例えば、仕事のやり方、人の適正化を図ったりもしました。会社からも追い込まれましたし。それは凄くプレッシャーでしたよ。

      経営会議に参加した時には、『これからどうするのか』てことを聞かれて、『この組織を預かっている人間として、これをこうしたいと思っています』て話をしたら、『それじゃ全然甘い』て言われて。どうしたらいいんだろう...て、物凄く考えました。もう誰かにすがって教えを請うぐらい切羽詰まっていましたし、人の話を聞くタイミングがなければ、本を読んでました。最終的に65歳以上のパートさんの雇用契約を更新しないことになったんですけれども、その時は本当に胃が痛くなりましたよ。当時、単身赴任をしていたので部屋に帰っても一人。だから、向き合うしかないんですよね。逃げ道がない状態でした。

      ────こういったご経験は、誰もが体験することではないと思いますが、橋本さんは、この事実をどのように受けとめ、対応していったのでしょうか。

      そうですね。私は8名の方とそういった話をしたんですけれども。「これこれこういう理由で、更新出来ない」となかなか言えないんですよ。そうすると、「もうはっきり言って下さい。噂では聞いていますから」と、逆に言ってきた70歳の男性の方が1名いて、その時は本当に辛かったです。言葉が出てこないんですよ。そういうのは物凄く嫌な役目ですよね。人の収入を奪うんですから。正直、こういう役割を何で自分がやらなくちゃいけないんだよって。その当時職場には上司が居たんですね。だから、上の人がやってくれよって思ったんですよ。でも、何回か話をしているうちに、これは私の役目だなって思って。上司よりも私の方が多く接していましたし、他の人からこの事実を伝えられるんだったら、自分で話そう。ここは私が頭下げようって思いましたね。

      ────こういった辛い経験を通して、橋本さんは何を学んだのでしょうか?

      この経験があったからこそ誰かの話を聞く・受け止める姿勢ができてきたのだと思います。そして、今、この組織を運営して行く基礎にはなったと思いますね。それに、こういう時って、自分はこう考えるっていうきちんとした自分の考えをもってぶつかっていかないとダメなのかなって思いました。会社のせい、世の中になんてしてもしょうがないですよね。

      本当に辛かったですけれども、異動してきてこういった経験もなく順当に上手くいっていたら、人の話も聞かなくていいし、やり方も間違って無い、そのままでいけばいい。と思ってたと思います。だから、大変なこともあるけど、いろいろ経験することは重要だなって思いますよ。もう二度とあんな経験はしたくないですけど。

      人財の育成を通じて、自らも成長する

      ────業績はどのように変わったのでしょうか?

      そうですね。実際に数字は上向いたんですよ。数字が改善されて、2年目以降利益が出るようになったんです。個々の能力は元々ちゃんとあったし、それをきっちり評価して、ちゃんと個々の能力を引き出すようなやり方をしていたら変わりましたね。ただ単に、全体を見ている人がいなかっただったんですね。それに、みんなも目標に向けて頑張ろうって構えになってきていたので。ただそれは、たまたま自分がついているだけかもしれないですし、その時の相場環境とかも全部含めてよかっただけだと私は思っています。

      ────その後、現在の事業部に異動されたということですね。

      そうですね。今の事業部も千葉と一緒で、仕事の役割がしっかりと別れてはいますが、縦割りではなく、横との連動も取れるようになってきていますね。

      ────現在の事業部で橋本さんが取り組んでいること等ありますでしょうか?

      ちょっとしたことなのですが、全体ミーティングをする機会を作ったんですよ。うちはパートを含めても22名しかいないので、全員で集まって10分20分でも、共通認識で、組織としてこういう問題があったとか、誰がこうしたとかそういった話を皆が顔を合わせて話をする時間が必要だと。やっぱり、上の人だけが全体を知っていればいいというわけではなく、全員の共通理解ってすごく重要だと思うんですよね。自分の経験からいって。

      それから、初めは私が全体ミーティングを回していたんですけれども、今は部下主導でやらせてるんです。部下に少しでも負荷をかけているというか。若い世代のうちからいろいろ経験することは重要だなって思いますし。部下も大変だろうけど、ここはそんなに大きく無い組織なので、そこは話を聞くしフォローするからやってみないと。そうやって少しずつ部下を育てていかないといけないなとも思っています。自分もそうですけれども、辛いことや面倒くさいことからは逃げたがる。誰かが背中を押すから勢いで『うん』ってい言えるだけで(笑)。でも、今度は私が部下の背中を押す立場だと思っていますね。そうして行かないと成長はしないし、人が成長しないと会社が成長しないというか

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      ────OBT協会でも企業の最大の経営資源は人財だと考えております。では、今度は部下育成についてですが、ご自身の経験上、育つ人と育たない人、伸びる人財と伸びない人財の差は何だと思いますか?

      簡単に白か黒かって物事を判断しない人ですね。時には、即に判断することもしなくちゃいけないんですけれども、そのプロセスをいろんな風に考えている人の方がいいじゃないかと思います。それに、最終的には答えが一つになるんですけれども、自分なりの考え方を持って、その意見を発言して、人から違う視点を貰うことが出来る人ですね。それが、過去の自分はそれは出来なかったんですけど(笑)

      あとは、先を見るってあるじゃないですか。5年10年後どういう風にしなくちゃいけないって。このまま続くわけではないので、それをどういう風にしていかなくちゃいけないとか。先のことを考えながら、日々を積みかねて行くことが重要じゃないかなって思います。私たちが扱っているのが、野菜や果物なので2~3日で腐っちゃうので目の前の事が凄く大切で、そういう風に捉えがちなんですけれども、もっと先を見て5~10年短くて3年後とか、来年どうなっているとかを考えながら、今日をやっていかないとって思いますね。

      ────職場を異動したことによって、今まで見えていなかった全体を見るということ、そして、自分自身の業務を真っ先に考えるという思考から、部下育成の重要性に気づいた橋本さんですが、部下の育成という観点での考え方はどうでしょうか?

      そうですね。千葉での経験は非常に大きかったですから。それで、今後は組織全体の活性化を考えた人事異動が重要になってくると思います。一つの組織に人財の能力が偏るということがないようにする為にも定期的に異動させる。そのことで、個人を刺激し、今以上の能力が引き出せるような環境を整えてあげることが、会社を継続的に成長させる手段と考えます。大きい組織と小さい組織では仕事の仕方、管理の仕方に違いがあり、そのことを認識することも重要になってきますし、大きい組織では出来ないことも、小さいところで培ったノウハウを大きいところで生かすみたいなことが大切になると思います。

      ────御社は数年前から、変革に向けて、すごいスピードで進んでおられますよね。それに伴って、社員の方には今までにない仕事の機会が与えられていると伺っています。そういった環境の中で、橋本さんにとって仕事とはどういう存在か、お聞かせいただけますか?

      最初はお金を稼ぐための手段だけだったんですね。でも自分もある程度年齢を重ねて、いろんな経験させてもらって責任者の立場になってやって来た時に、初めて今までの経験を部下に伝えて行かないといけないなと思いましたね。弊社の遠矢社長は、我が社を未来につながなる会社にしたいって話をよくしているのですね。それで、社長は今私たちにいろいろな経験の場を与えてくださっていて、将来、我々が成長して会社を背負っていくというようにと人財育成にも凄く力を入れていて。それもあって、自分にしてもらったように、私も人を育てて行かなくちゃいけないなって思います。それが自分の仕事かなと。それに、会社を継続していかなくちゃいけないなって。なんていうか社会の役割じゃないですけれども、そういう風に考え方が変わりましたね。

      ────橋本さんにとって職場の異動は、視野を広げ、将来を見るという、とてもいいきっかけとなったのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。


      インタビュー後記

      今回橋本さんのお話をお伺いしていて感じたことは、大変な状況と遭遇しても、他責にせず、全てを自分事として捉え、向き合っていったことにあると思います。向き合ったからこそ、たくさんの気付きを得ることが出来た。逃げる・人のせいにする事は簡単ですが、そのことから学ぶことは少なく、成長は望めない。逆に、きちんと受け止め、負荷が大きいければ大きい分、それを乗り越えた時には大きく成長する。まずは、自身と向き合うことが成長の要因だと感じます。

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      聞き手:OBT協会  伊藤みづほ

      OBTとは・・・ 現場のマネジャーや次世代リーターに対して、自社の経営課題をテーマに具体的な解決策を導きだすプロセス(On the Business Training)を支援することにより、企業の持続的な競争力強化に向けた『人財の革新』と『組織変革』を実現している。