OBT 人財マガジン

2009.05.13 : VOL67 UPDATED

この人に聞く

  • 常盤産業株式会社
    代表取締役 清水英敦さん

    付加価値を追求する「創作商社」の組織づくり・人づくり(前編)

     

    深刻さを増す経済状況のもと、多くの業界で差別化を高める動きが加速しています。 機械設備関連の専門商社である常盤産業は「創作商社」というコンセプトを掲げ、お 客様にとって「真の付加価値は何なのか?」を突き詰める事業にチャレンジしていま す。「創作する」商社とは、どのような商社なのか。代表取締役 清水英敦さんに伺 いました。

  • 常盤産業株式会社 http://www.tokiwa-group.co.jp/

    1947年創業。機械設備の企画・販売などを通じて、モノづくりの要である生産ラインの自動化、合理化、品質向上、環境対策をサポートする。コンセプトは「創作商社」。1000社を超える仕入れ先のネットワークを活かして、自動車関連・工作機械関連・電気電子関連の大手メーカーを中心とする顧客に、ニーズに合った生産設備、システムなどを提供。そのコーディネート力とノウハウには定評がある。
    企業データ/資本金:5000万円、売上高:80億円(2007年度実績)、社員数:65名(同)

    HIDEATSU SHIMIZU

    1959年生まれ。大学卒業後は大手電機メーカーに入社。文系でありながら、工場での生産管理や製造・技術などに携わり、モノづくりの現場で働く。1986年、常盤産業に入社し、前職で得た知識と経験を活かした提案営業を実践。1996年に取締役、2000年に代表取締役に就任。

  • モノが売れない時代の切り札は「付加価値」

    ────常盤産業は、「創作商社」というコンセプトを掲げておられます。「創作商社」とは、どのような商社なのでしょうか。

    既存の商品を売るだけにととまらず、ないものはつくってしまう商社ということです。もちろん、商社ですから自社工場を持つわけではありませんが、右から左にモノを運ぶ単なるサプライヤーではなく、もっと積極的にモノづくりに関わっていこうということなんです。

    例えば、A社、B社、C社といろいろなパートナー企業の機器や部材を集めてオリジナルな装置にまとめてしまうとか、世の中には存在しない、世界に一台だけのお客様専用マシーンを部品から企画・製作しています。既存のモノで対応するだけなら、常盤産業ではなくてもできることです。お客様が望む課題解決に対してどれだけの付加価値をつけられるかが、お客様が弊社を使うメリットになるわけです。

    写真は、ある顧客からの依頼を受けて企画した、世界に一台のスイッチ複合組立機。「騒音を低減する」「1台で多品目を組み立てる」「設備コストを削減する」といった数々のニーズに、すべて対応する一台を実現した。(画像提供:常盤産業)

    私どもの事業のあり方のもう一つのポイントは、「人材」はコストではなく価値を生み出す優秀な設備だということです。オーダーメードが多いということは、仕事が属人的だということでもあります。仕事に付加価値がつけば、その担当者にも付加価値がついているわけです。人件費を抑えるために人員を削減するケースが今は増えていますが、弊社では「人」はコストではなく設備であり、財産。つまり、「人材」ではなく「人財」なんです。そういったことも「創作商社」としての特長かもしれませんね。

    ────「創作商社」というコンセプトは、いつ頃から打ち出しておられるのですか。

    言葉として使うようになったのは、今年の新卒採用活動からですが、意識としてはバブルの頃から考えていたことですね。

    ────バブル期といいますと、1990年前後ですね。

    そう。ですから、もう20年近くになりますね。私が弊社に入社したのが1986年のことで、少しずつお客様のニーズがわかってくるうちに、今後は商社にも「モノを創る視点が不可欠である」と感じたんです。どういうことかと言いますと、営業に行った先で問われるのは「あなたは何をしてくれるのか」ということなんですね。それに対して、単に「これを売ります」というだけなら他社でもできる。本当に求められているのは「どういう付加価値を提供してくれるのか」ということなんです。

    高度成長期は、「物さえあれば売れた」と言われるように、在庫や品揃えといったことが付加価値になりました。よく売れる定番商品に対してアプローチしていれば、それで十分に業績があがった。営業は上司に言われたことさえやっていればいいという時代です。何か意見すると「そんなことは、お前の考えることじゃない」と言われて、余計なことは考えず疑問を持たずクイックデリバリーのみが求められた。今では考えられない話ですが、当時はそれでいけたわけです。

    でも、これには限界があります。特に、バブル崩壊後はそうですね。お客様は、どんな商品があるかをもう十分にご存知で、モノも間に合っているわけです。そういった中で必要なモノだけを買うというときには、価格と納期の勝負になる。しかし、価格と納期で取ったニーズは、同じ理由で他社に持っていかれるんですよ。そうではなくて、何か別な軸での差別化を図らなくてはいけない。それが「付加価値」であり、付加価値のある商品を提供するのが「創作商社」だということです。

    1000社あった顧客を400社に絞り込む

    ────「創作商社」を目指すにあたって、どのようなことから手をつけていかれたのですか。

    まず、弊社は直販と卸売をやっていますが、今後は付加価値をつけにくい卸売を縮小して、直販大手のお客様を中心にやっていくと決めました。弊社がすべきなのは、取引社数を増やす新規開拓ではなくて、ひとつのお客様のあらゆるニーズに対応する深耕開拓です。そのために1000社近くあった「売り」の取引口座を約400社、実動としては200社くらいにまで絞り込みました。

    ────取引先の社数を絞り込むことには、リスクも伴うのではないですか。

    ゼロとは言いませんが、大きなリスクは感じませんでしたね。モノを売るにも、設備としての人財が動くわけですから、コストがかかります。例えば1つ100円の部品を売って10円の利益が出たとしても、それを売るためのコストに何千円もかかっていてれば赤字です。そこで、「これ以上の仕事でないと利益にならない」という取引の基準を設けたわけです。

    ────営業現場の抵抗はありませんでしたか。

    抵抗する人はいましたね。特に抵抗したのは、高度成長期のスタイルが染みついた、「言われた通りやっていればいい」というベテランの人たちです。どういう人かと言うと、付加価値要求のない小口の取引ばかり受注してくる人。すでに付加価値要求の厳しい大手のお客様には対応できなくなっていました。

    そうなると、ますます小口で楽なお客様とのつながりに没頭していくんですね。話し合った末、弊社を去っていく人たちも少なからずいた。結果的に、お客様の構成も弊社の営業スタイルも、そしてコスト構造もガラッと変わりました。

    ────同じような構造的な問題に悩みながらも、手を打てずにいる企業も多いのではないかと思います。問題に手を打てるか打てないかというのは、何が分かれ道になるのでしょうか。

    最終的には、問題の本質を理解した上で、腹がくくれているかどうかということになるのではないでしょうか。そのためには、自社は「何のために誰のために存在しているのか」という経営の理念が明確でないと、おそらくだめなんですね。

    弊社の経営理念は、「お客様に満足を届ける」ことです。それに加えてもう1つ大事なのは、われわれは「モノづくりのお手伝い」をしているのだということ。そのために、お客様と一緒に成長しようということなんです。これが弊社の大義名分であり、弊社が社会に存在する意義です。そこに照らしたときにマルなことはやればいいし、ペケなことはやめようということなんですよね。

    ────突き詰めれば、シンプルなことなのですね。

    「これはしなくていいな」と思うことを、パッとやめて整理するだけですから、ごく簡単なことなんです。結果、お陰さまで今年で創業63年目を迎えましたが、売上の90%以上は一部上場企業を始めとした大手企業とのお取引によるものになっています。

    強みは、社員の自主性と全体最適を考える風土

    ────大手企業との取引には、競合も多いのではないかと思います。「創作商社」として、独自性を確立できた秘けつは何でしょうか。

    創作商社としてのソリューション営業の強さは、端的に表現すれば「指示されて動く営業ではない」ということと、「個人成績ではなく全体の成果を目指す」ところからきていると思います。

    例えば、創作商社にとって何をおいても大切なのは仕入れ先(メーカー)の開拓ですが、これについては私自身も開拓していますが、ほとんどは各営業が勝手にやってくれているんです。今では、少なくとも1000社はあると思いますが、実際には何社口座があるのかわからないぐらい、日々増えています。

    なぜそれができるかといえば、弊社では、いかにお客様に満足していただけるかということが自分の業績でもあるからです。弊社の営業は「このお客様がダメならあっちのお客様」という狩猟型ではありません。畑を一生懸命耕して種をまき、実りを刈り取って・・・という農耕型の営業です。

    そんな中で、「とにかく売ってしまえばいい」とお客様を踏み台にするようなことをしたら、大変なことになります。これでは「売り上げさえあがればいい」という自分のための営業であって、そもそもの目的意識がおかしいんです。弊社が、一見営業に任せているようでいてうまく回っているのは、「何のために仕事をしているのかをハッキリさせようぜ」と、そこは現場としっかり共有しているからなんです。

    ────とはいえ現場の方々に任せた場合、何らかの判断を誤るというリスクはありませんか。

    そういう心配があるとすれば、放任しているからではないですか。任せる場合には、どこかで誰かが見ていることが必要です。その意味では、弊社ではチームで動く態勢を取っていますので、あれこれ話しながら進める中でうまく軌道修正されているのではないかと思いますね。フロアで打ち合わせをしている横から「それはこうじゃないか」「ああじゃないか」と、チームメンバー以外の者が入ってくることもしょっちゅうですし(笑)。そうやってワイワイ、ガヤガヤとやる中で、自然と方向性が統一されていくんですね。

    ────職場のコミュニケーション不全に悩む企業も多くあります。御社ではなぜ、活発なやり取りが自然に生まれるのでしょうか。

    1つには、扱う商品の特性によるところが大きいように思います。例えば、売る商品はみんな同じで営業は全員ライバル同士、事務所には成績グラフが張り出されて......という環境では、個人の成績が大切になりますから、みんなで協力してお客様の案件に取り組むことは、まず難しいでしょう。

    弊社の場合は、お客様の満足を追求したことで取り扱い商品が多岐に渡り、結果的にすべての商材に対応できる営業というのは困難。それぞれの営業が自分の得意分野で勝負し、足りない面は助け合って「お客様に満足を届ける」にはどうすればよいかを考えていくことが必要なんです。指示されるまでもなく、お互いが補完しあって成果をモノにしようと協力しあう。弊社の風土は、こういったことから形成されているように思いますね。

    ────「個人成績ではなく全体の成果を目指す」にあたって、各人の業績評価はどのようにされるのですか。

    業績も評価の対象ではありますが、目標の設定は部門単位まで。個人目標にまではしていません。チームプレイでないと弊社のサービスは成り立ちませんから、「個人目標を達成したらマル」、「達成しなかったらペケ」というやり方はしていないんです。

    といっても、個人の業績がまったく反映されないというわけではありませんが、個人の評価で主に見るのは会社への貢献度。会社の業績に対する、参加の度合ですね。「適当にやっておけばいいや」という態度の人は、見ていればすぐにわかります。一方で、「これ」と決めたテーマや課題に一生懸命に取り組んでいる人は、すぐに結果が出なくても評価します。

    属人的な仕事を奨励し、アメーバ的に事業を広げる

    ────現場の一体感や一人ひとりの強みが活かされるチームプレイなど、日本企業が効率化と引きかえに失ってきたものが、御社にはそのまま残っているように思います。

    業務を標準化したほうが効率がいいケースもあると思いますが、たまたま私どもの仕事は、そうはいかない属人的な部分が多いんですね。だからこそ、どうすればいいかを考え抜いたことで、今の状況があるのだろうと思います。

    ────生産設備という顧客企業のコア事業に直結する商材を扱っておられるだけに、「属人」の主体となる社員の方々には、高い意識が求められますね。

    お客様に認めていただかなければ始まりませんので、そのためには何をすればいいのかを突き詰めていくうちに、今のような仕事の態勢や風土ができたともいえるかもしれませんね。依頼を待っていたのでは話にならないということだけは、誰もが共通して認識しています。だからこそどうするか、というところから発想していく。そうしてあれこれやっているうちに成功事例が出てきて、その実績をもとに次の展開を仕掛ける。弊社の事業は、そうやって広がってきたようなところがあります。

    入社5年目になる女性の営業が、こちらが驚くような大手製造業のお客様での新規口座を開いてきたこともあります。それも、今まで弊社が扱ったことのない商材を使っておられる部門で。「どうやって、お取り引きいただけることになったんだ?」という話ですよね。そういうことを、勝手に走っていってやってくるんですよ。今では、その商材がその人ならではのものになっています。そういう世界が社内のあちこちで勝手にできているのが弊社なんです。

    創作商社であるためには、「社員の自主性が不可欠」と清水社長は言います。社員の自主性は、どのように育めばいいのか。後編では清水社長の組織観、人財観について伺います。

*続きは後編でどうぞ。
  付加価値を追求する「創作商社」の組織づくり・人づくり(後編)

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